第34話・なんか記憶にあるんだよな

 あまぐりに視線釘付けのミーハーズ。おかげでデスショットへの蹴り飛ばしがみ、彼は魔法堅盾イージス・シールドを維持しながらコソコソと隅っこに移動していた。


「宝生ぉ……なにがどうなってんだよ」


 角センはすがるような声で助けを求めた。理解不能な現象で目まぐるしく状況が動き、脳味噌の処理能力が限界に達していたのだろう。


 十五年前に死んだはずの百鬼なぎりケンゴと姉小路あねがこうじリュウセイが目の前にいる。そしてありえない巨大生物・ドラゴンの出現と、吐き出された超破壊力のブレス。


 加えて、不審者が校門でJCに暴行されたり子犬が変身したりと……


 こんなのを目の当たりにして、平然と理解している私たちの方が異常なんだと思う。


「お~い、宝生?」


 しかしクミコは角センに返事ができないでいた。エアガンを構えて百鬼なぎりたちを牽制をしているからだ。


「ああ、角谷先生。いつもうちのバカ娘がお世話になっています」

「は、はあ……」


 親父は助け舟を出しつつ、角センを校門へ連れて行った。今この場では、魔法堅盾イージス・シールドが張られている校門が一番安全な場所だ。


 これで巻き込む心配がなくなった。『バカ』は余計だけど、親父ぐっじょぶ。


「あまぐり、ドラゴンを抑えられそう?」

「うむ、アカリ殿の頼みとあればなんでも……」

「倒そうとか思わないで。百鬼たちを倒して合流するまで注意を引き付けているだけでいいから」

「心得たでござる」


 言うが早いかあまぐりは駆け出し、ドラゴンの足に蹴りを入れて注意を引き付けた。


「拙者を見るでござるよ、ビリビリトカゲ」


 ドラゴンは、噛みつこうと首を動かし踏みつぶそうと足を上げる。しかしあまぐりの素早さはドラゴンを圧倒し、まったく危なげなくかわしていた。


 ……やはり強い。まるっと任せておいて大丈夫そうだ。


「え~、こっちは二対四なのか~。ひどくないかニャ?」

「なんとでもほざきなよ。ウチらに負けた時の言い訳が必要っしょ」

「ギャル子の言うとおりや。それにワイらは正義の味方やない、卑怯でもなんでも倒すことが優先やで」


「ボクとしてはぁ、空手クンとサシでやりたいんだけどな~。ダメかニャ?」


 百鬼を見ながら首をかしげるリュウセイ。


「あぁ? 俺に三人相手しろって? ……めんどくせえな」


 口では『めんどくせえ』と言いながらも、百鬼は私たち三人に殺気を飛ばしてきた。まとめて相手をしてやるとでも言いたいのか。


 だけど、そんな挑発に乗る必要はない。『敵の言うことを信じる方がおかしい』リュウセイが今さっき言った言葉だ。


「タケちーにそんなことさせる訳ないでしょ」

「タケル、あんなヤツの言葉なんて聞く必要ないにゃ」


「……ううん、僕やるよ。許せないんだ、自分の母親をあんな汚い呼び方するなんて」


 幼い頃に母親を亡くしているタケルは、その愛情を知らないで育っている。だから、幻想にも近い理想像と慕情があるのだと思う。


 ――自身の中にある大切な感情を、汚い言葉でけがされた。


 そういった意味ではタケルもレナも、リュウセイに対して同じベクトルで怒りを感じたのかもしれない。


「レナさん、いいよね?」

「……わかった。ここはまるっとまかせるにゃ」


 リュウセイに向けて構えるタケルを見て興奮したのだろうか、ミーハーズは本人たちも気が付かないうちに魔法障壁マジック・バリアの結界内から飛び出していた。


「タケルく~ん」

「頑張って~」

「そんなキモいおっさんボコっちゃえ!」


 リュウセイはミーハーズをチラリと見ると、彼女たちに向けて魔法カードを投げた。


「キモいおっさんはひどいニャ~」


 手から離れるとすぐに魔法は具現化し、そこから両手で抱えるほどの大きさの火の球が撃ち出された。大気がゆがみ、相当な高熱なのが見て取れる。


 ……魔法に対する防御なんてまったくない彼女たち、当たればまず無事ではいられない。


「ふざけるな!」


 しかし、私はすでに走り出していた。リュウセイがミーハーズを見た瞬間、嫌な予感がしたからだ。


 魔力で強化した服を着ていればなんとかなるかもしれない。


 それはタケルも同じように感じたのだろう。同時に動き出し、怪我で思うように走れない私を抜いて、火の球とミーハーズの間に走り込んだ。


 私の目の前で、手が届かない場所で、爆発が起きた。



「——タケル!!」



 その場に力なく崩れ落ちるタケル。全身のやけどや裂傷が致命的なダメージだと物語っている。


「タケル……くん?」

「うそ、タケ……」

「やだ……」


 ミーハーズが言葉を失う中、私はグッタリと動かないタケルを抱き上げて、心臓に耳を当てた。


 ——ドクンッ、と心音の脈動が聞こえる。


「大丈夫、死んでないよ」


 私はできるだけ動揺を表に出さないように、涙目のミーハーズに声をかけた。むしろ自分の心臓が動いていてよかった……マジで止まるかと思ったし。


「え~、しぶといニャ」


 リュウセイは二枚目の魔法カードを取り出して投げようと構えるが、私には“絶対に魔法は飛んでこない”って確信があった。


 ――この状況で、クミコとレナがなにもしないはずがないのだから。


 事実、私のにBB弾がリュウセイの手を撃ち、ソフトボールの球が魔法カードを叩き落としていた。



「みんな、救急車まで運ぶの手伝って」


 と、ミーハーズに声をかけ、タケルを持ち上げようとしたその時だった。


「これって……」

「なんで煙が?」

「え、どこか燃えてるの?」


 動揺するミーハーズを横目に、私は『』と妙に冷静だった。


「そっか~。考えてみれば、タケルを抱き上げてから30秒たっているし」


 ……ついでにおいもさんも大人しかったし。


「タケル君大丈夫なの?」

「あ~、うん、大丈夫だと思う。多分これは……」



 ――ぽんっ!!



「やはりか……」


「「……マジ、パネェな」」


 年の頃なら二十代前半の、超イケメン好青年タケルが煙の中から爆誕した。


 ……してしまった。


「ちょっとおいもさん、なにしてくれんのさ」

「「まてや、これはショタ坊の意思やで。むしろワイが吸われたんや、こんなんどうにもできんて」」


 そしてあまぐりの時と同じく、タケルとおいもさんが同時にしゃべっている。


「タ、タケル君♡」

「ステキ♡」

「うん、なんかもう……キャーーー♡」


 驚きと共に、成長したタケルの姿にメロメロのミーハーズ。


「切り替え早っ!!」


「タケちー……いや、タケル様! ああ、尊いなんて言葉じゃ足りないくらぁwせdrftgyふじこlp」


 ……そして大歓喜しているクミコが約一名。途中からなにを言っているかわからないほど興奮していた。


「「なあ、アカリ」」

「は、はい……アカリ?」


 急に名前を呼び捨てにされて、うかつにもちょっとドキドキしてしまった。


「「俺様と結婚しろよ!」」


「「こら、ショタ坊こんな時になに言い出すんや」」

「そうでござる。タケ坊主ぼうず、拙者のアカリ殿にちょっかいを出さないでもらいたい」

「えっ……あまぐり、なんでこっちに来てるの!」


 ドラゴンを放り出し、タケルと視線をバチバチ交わすあまぐり。つか、頼むからあとでやってくれ。


「「俺様は十年前からアカリの体を知ってんだぜ?」」

「コラ、言い方!!」


 まったくもう、公衆の面前でなんてことを。


「月日は関係ないでござるよ。要は相性とお互いの気持ち。さあ、アカリ殿、拙者の手をとるでござる」

「「ふざけんな犬ッコロ。アカリは俺様の手をとるんだよ」」


 この光景を黙って見守る近所の人々。そして窓や校舎の陰からのぞく生徒、マスコミと全国放送のテレビカメラ。



「なんすかこの公開処刑プロポーズは」



 ……でも、とりあえずはタケルが無事でよかった。


「タケル君、人が変わったみたい♡」

「でも、二人ともワイルドでいいよね~♡」

「タケル様~~~♡」


 命の危険があるにも関わらず、いつまでたっても騒がしいミーハーズ。そして、たまりかねたクミコがとうとう動き出した。


「アンタたちさ……」


 ミーハーズをにらみ、注意をするクミコ。



 と、思いきや……



「わかってんじゃん!」


 と、サムズアップで称えていた。


「「「「はあ、尊死とうとし~」」」」



 ……クミコが四人に増えとる。






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