第33話・あとで話してやるよ。

「嬢ちゃん、気ぃつけや……」


 おいもさんの警告と同時に『ゴォォォ……』と大気をゆらしながらドラゴンの咆哮が響く。


 校舎の窓がガタガタと音を立ててふるえ、特に頭部の高さにある三階はほとんどの窓ガラスが砕け散っていた。


「あれは軽くパニックになっとるで」

「おいもさん、ドラゴンの言葉までわかるの?」

「ああ、カメラのフラッシュが直接目に入って興奮しとる」


 おいもさんに言われて校門の方を見ると、マスコミが『これでもか』と攻撃をするかの如くフラッシュを焚きまくっている。


 それはまるで、芸能人の謝罪会見とかで顔を上げた瞬間のようだった。たしかにこれでは目に光が飛び込んで来ても当然だとは思うけど……


「え、そんなことで?」


 ってのが素直に出た言葉だった。その程度で興奮するものなのかと。


「野生の動物もモンスターも意外と繊細なんやで。競馬のパドックでフラッシュの光が目に入って錯乱してしまい、大負けした馬もおるくらいや」

「あ~、うん、そうなんだ……競馬なんてわからないって」


 ドラゴンは強い光が発生した場所、つまり校門にいる大勢の人たちの方を向くと、大きく口を開いた。


 二本のツノの間にバチバチと電気が発生し、その口からは青白い息が漏れ出ている。


「まずい、ドラゴンブレスや」

「うそ……みんな逃げ……」


 ――それは、ほんの一瞬の出来事だった。


 バチバチバチ……と雷がはじけ、地面をえぐりながら私の目の前を横切る太く青白い光。その物凄い熱量は一直線に進み、校門の方で爆発が起こった。


 ほこり混じりの煙が大量に発生し、辺り一面を支配して視界がほぼない。さらに黒く焦げた地面からは、むせるほどの熱気と焼けたゴムの様な臭いが漂って来た。


「みんな大丈夫⁉」


「ウチは平気。タケちーは?」

「僕も大丈夫です。レナさんもなんとか無事だよ」

「うにゃ~……」


「ねえ、校門にいた人たちはどうなったの?」


 周辺を覆っていた煙が段々と晴れていく。そしてそこにはボロボロに破壊された校門と何十人という焼け焦げた死体が……

 

「ったく、来る早々いきなりドラゴンブレスかよ。歓迎されてんな」


 ……なかった。


「え、親父⁉」

「よっ!」


 大勢の犠牲者を出してしまったと思っていた私の目の前には、透明な緑色の壁で覆われたギャラリーとマスコミ、そして親父が映っていた。


「『よっ』じゃなくて、魔法障壁マジック・バリアなんて使えたの?」

「はあ? んなもん無理に決まってんだろ。オレは戦力外だっての」

「でも……」

「あと、これは魔法堅盾イージス・シールドな。魔法障壁マジック・バリアじゃドラゴンブレスは防げんよ」


 その時私は『じゃあ、なんでみんな無事だったの?』なんて疑問よりも、安堵の気持ちが大きかった。それはみんなも同じで、特にタケルはクラスメイトの顔を見て胸をなでおろしていた。


「だから、助っ人つれてきてやったぜ」

「助っ人?」


 こんなタイミングでこんな場所に一体誰が助けに来るのだろうか? 私はまったく思い当たらず、クミコやレナと顔を見合わせていた。


「ふう……勝手に助っ人にしないで頂きたい。あなたたちは、どうあっても敵でしかないのですから」


 と、校門の陰から出てくる一人の男。聞き覚えのある声、そして妙にムカつく話し方と立ち振る舞い。


「はあ?」

「う~、トラウマにゃ……」


 クミコもレナも、そしてタケルですら言葉を失っていた。


「なんでお前が助っ人なんや、!」


「さあ、私の方が聞きたいのですがね」


 以前に遭遇した時とは違い、ジーンズにペイズリー柄のシャツを着ているデスショット。格好だけなら、そこいらにいるただの人に見える


 さすがに、あの”怪しいハロウィン男にしか見えないローブ姿“よりは全然ましだ。


 ……それはさておき。


「マジでもう、なにがどうなっているのよ」


 親父は『あとで話してやるよ』と、ニヤッと笑うだけだった。なにか隠している雰囲気がめちゃくちゃ不安しかない。


「とりあえず今は味方だ、そのつもりで動け」


「今回だけです。それに日本超帝国は我が王国にとっても敵陣営。ブレイズロック・シリウスガンフェイト・ダークマルスコルブラント男爵とそこの少年は私のものです」


「こんな時でもフルネームで呼ぶのか……つか、おいもさんもタケルもわたす訳ないじゃん。やっぱりあんたは敵。絶対に敵!」


「だからそう言っているじゃないですか。相変わらず話を聞かないお嬢さんですね」


 ……やっぱりこいつムカつく。


「それに、私が作りかけた魔法陣を勝手に利用したのも許せませんからねぇ」

「……なんやと?」


 百鬼なぎりたちがあっさりと作った巨大魔法陣。『こんな短時間で展開できるはずはない』とおいもさんは言っていたけど……半分はこいつのせいだったのか。


「ああ、もう。再起不能トラウマになるくらいの天罰が当たらないかな!」


 と、そんなことを言っていたら、デスショットの横にいるミーハーズの一人が、その顔に気が付いて声を上げた。


「あ~! こいつ、うちらの学校をめちゃくちゃにしたおっさんじゃん」


 ……と、デスショットを厚底ローファーでガシガシと蹴り


「マ!? こんなとこでなにしてんだよ」


 ……ヘアークリップのとがった方で力いっぱい脇腹をつつ


「ふざけんな、おっさん!」


 ……重そうなスクールバッグを振り回し、ドカドカっとなぐるミーハーズ。


「あ、ちょっ、痛いですね……コラ、やめ……ぶほっ……」

「お~い、とりあえず今はやめてさしあげろ。一応、君らを守ってんだから」


 でも、これ終わったらボコるの手伝うぞ。


「なんだ、アイツ楽しそうじゃねえか」

「ねえ、ドラゴンってどうやって倒せばいいの?」


 親父は目の前の巨大生物を見上げてひと言……


「無理」

「はぁ?」

「言葉が通じないモンスター相手に俺ができることはなにもない。戦力外だと言っているだろ」

「自信満々に言うなよ……」


 そのくせなにか手を隠している様にも見える。自分の父親ながら、つくづく厄介な人だと思う。


「だから助っ人を連れて来たんだろ」

「あそこで中学生に蹴られてんじゃん」

「ん? アイツじゃなくて。さっきからアカリの足元にいるだろ」


「……はい?」


 親父に言われて足元に視線を向けると、そこには栗色のもふもふがいた。


「って、いつの間にあまぐり⁉」 

「きゅう~ん」


 と、萌え萌えな声を発したその直後——


 ぼぼんっ!! と煙の中からイケメン登場。


「……さて、アカリ殿。拙者はどれを倒せばよいのですかな?」

「え、なんで変身できんの?」


「おいも殿のおかげで変身のコツがわかったでござるよ。今は魔力を貯めておけばいつでも変身が可能性でござる」


 あまぐりもおいもさんの近くにいることで魔力を帯びて、それが変身の為のエネルギーになっているのか。


 さらにはトーテムポールの破片で作ったドッグタグも、魔力貯蔵の役に立っているらしい。


 どのくらいの時間持つのかわからないけど、これはめちゃ心強いぞ。


「「「きゃーーー!」」」


 その時、校門の方から複数の悲鳴が上がった。今度はなにが起きたのかと、慌てて校門に目を向けると……


「まってまって、あの人かっこいい♡」

「ワイルドでステキ〜♡」

「超ヤバイって、ケモミミ激カワ~♡」 


 悲鳴ではなく黄色い声でした。


 ……ミーハーすぎるぞ、ミーハーズ。






――――――――――――――――――――――――――――

キャラクターイメージイラスト:サンダードラゴン→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16818093091423366947


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