第31話・だったらやるしかないじゃん?

「あのドラゴンってさ、百鬼なぎりを倒せば消えたりしないかな?」


 と、なんとなく思いつきを口にしたんだけど……


「無理やで。魔法陣は消えるやろうけどドラゴンはそのままや。むしろコントロールを失って余計に暴れるやろな」


 ……さすがに虫がよすぎたみたいだ。


 考えてみれば、屋上の時に召喚された”あまぐり“もその場に残っていたから、そういう仕様なのだろう。


「じゃあ、やっぱりドラゴンあれ倒さなきゃダメ?」

「ダメやろな~」


 見上げると、ドラゴンは『グルルルル……』と喉を鳴らしながら、三階の教室を覗き込んでいた。丁度目線の高さにが大量にいるのだから仕方がない。


「嬢ちゃんらに『戦え』なんてけしかけたワイが言うても説得力ないかもやけど……」


 と、前置きをするおいもさん。改まった声に“らしくない”感じがした。


「ワイもキョウジも、もちろんママさんやみんなの親も、本音は子供になんて戦わせとうない。それでも嬢ちゃんらに頼らなければならないんや……わかってくれ」


「——はあ? アホかこのおいもは」


 間髪入れずに口を挟むクミコ。しかしこれには、私もレナも同じ気持ちだった。


「アホって、おま、ギャル子ぉ」 

「わかってくれってなに? 何百人もの命を預けられてさ、それで逃げると思った? ウチらなめすぎっしょ。」

「だにゃ。やるって決めたら最後までやるのにゃ!」


「それも時と場合やで。本当なら大人に任せて逃げるもんや言うとるんや」

「おいもさん、それは違うよ」


 私はクミコに続いた。


「たまたま今の時代に十七歳ってだけでさ、戦国時代ならタケルの年齢で戦場に出ていたんでしょ」


 ——今やらなきゃならないことがあって


「それはそうなんやが……」

「十二歳で子供産んでんでしょ?」


 ――それは私たちにしか出来ないことで


「嬢ちゃん、時代がちがいすぎるやろ」

「時代なんてものは、生きた人間のうしろにできるって言ったのは誰だっけ?」


 ――だったらやるしかないじゃん?


「確かにそれは言うたけどなぁ」

「それに、十七歳は十七歳。平安でも戦国でもJKなんだから!」


 自分でも滅茶苦茶言っているって自覚はあった。それでもこの時は『引くわけにはいかない』という意識の方が強かったのだと思う。


「いいから、ちゃっちゃと終わらせておいもさんの身体探し再開しなきゃでしょ!」

「お、おう、そうやな。……感謝するで、嬢ちゃんたち」


 とは言ったけど。う~ん、あんなデカいのとどうやって戦えばいいのか。……ま、作戦はまるっとクミコに任せておこう。


 そして私は、姉小路リュウセイにどうしても言いたいことがあった。


「おい、リュウセイ」

「どうしたニャ?」

「どうしたって……あんた昨日、『また明日の夜』って言ったよね」

「なにかおかしいのかニャ?」

「まだ昼休み前だけど?」


 話がかみ合わない。昨日のやり取りからそれはわかっていた。でも……


「そもそも、敵が言うことをあっさりと信じる方がおかしいと思わないかニャ?」


「うわぁ。なんかイライラするぅ~」


 ……正論なだけに余計ムカつく。


「うう、二人ともごめんよ~。こんなのが兄貴だにゃんて」

「レナ、気にしちゃダメ。記憶にないんでしょ」

「うん。1歳の頃だと思うし、写真も残ってないから知らなかったのにゃ」


「ひっどいニャ~。小さいレナの面倒見ていたのはボクなのにニャ」


 そうか……今まで『なんの影響なのかな?』って思っていたレナの口癖の『にゃ』は、リュウセイが原因だったのか。


 三つ子の魂百までもって言葉がある様に、レナが物心つく前からすりこまれていた口癖なのだろう。


「ひどいのはお前だにゃ。なんで母ちゃんにあんなことしたのにゃ?」


 昨夜リュウセイが暴れた際に、レナの母親は玄関にあった全身鏡の下敷きになったらしい。


 幸運にも命に別状はなく、大事をとっての入院となった。骨や脳波等の精密検査の結果を待って退院するそうだ。


「あんなこと? あんなことって……ん~……潰れてたケド……あ、潰したのは僕かぁ」


 今にも飛びかかりそうなレナの腕をつかんで、私とクミコは二人の間に割り込んだ。


「姉子、アイツの言葉をに受けちゃダメ」


 父親が長い間単身赴任をしているから、ほぼ母子家庭みたいな環境で育ったレナ。そのため母親に対する情は人一倍強く、今回の一件でかなりショックを受けていた。


 母親の入院と、存在すら知たなかった自分の兄貴。動揺するなって方がむりな話だ。



 私はドラゴンの動きを視界の隅にとらえながら、百鬼とリュウセイの二人に向き合った。


「昨日と言い今日と言い、私たちの学校でなにやってくれんのよ」

「ここ、お前の土地か? お前が建てたのか?」


 と、どこかで聞いた返答をする百鬼。


「そんな訳ないじゃん」

「じゃあ、お前の学校じゃねぇ」

「って、昨日と同じやりとりすんな。もう、クミぃ〜なんか言ってよ」


「あのさぁ〜」


 と、ため息混じりにダルそうな声を出すクミコ。


「この場合の『私たちの学校』は、『私たちが通う学校』の意味であって、これは日本語に限らずどの言語でも共通している文法表現なんだよね」


「はあ? だからなんだよ」


「それが理解できないって、異世界人は余程言語能力が低いのですね。わかります? 日本語。ニ・ホ・ン・ゴ」


 レナに向けたリュウセイの言動がよほど気に入らなかったのだろう。クミコの煽りはまったく止まる気配がなかった。


「あんたらみたいなのが『スマホは電子レンジで充電できる』とか誰でも嘘ってわかるデマを信じてスマホをレンチンすんだよ。脳味噌沸騰してんだろ」


(な、なんや、ギャル子止まらんな)

(スイッチ入っちゃったみたいだね……)


「噂に煽られて米やトイレットペーパーを買いしめに走ったり、エタノールで感染症が治るとか言って飲んで死ぬタイプね。つかむしろ死んで。飲んで死んで」


 微かに『チッ……』と舌打ちが聞こえてきた。どちらのものかはわからないけど、イライラしているようだ。


「あ、そうそう。めんどいから死ぬ時はちゃんと指定ゴミ袋に入っといてね。燃えるやつ。あ、いや……むしろ産廃か。処理にお金かかるじゃんね」


「お前ら……殺してやろうか」


 百鬼が私たちに殺気を向けてきた。彼の持つ魔力は大したことが無いみたいだけど、このビリビリとくる凄まじさは侮れない。


「うるせーバーカ!」


 クミコが最後に言ったこのひと言は、とても理知的とは言えないけど、それでも私たちの今の気持ちを端的に表していたと思う。


 ……ま、とりあえず中指立てるのはやめれ。






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