第20話・魔法を蹴ったりすんじゃねぇ

「あれ、ここは……」


 目が覚めると私は自分の家にいた。見なれた天井。リビングルームのソファに寝かされていた。

 

 視界の先にはクミコやレナ、タケルがイスに座っているのが見える。みんなは普段食事をする広いテーブルを囲んでいた。


「それでな、その王様に『お前らの犯罪記録をここで見せるぞ』っておどしたんだけどさ」

「あれは痛快やったな~」


 ……あれ? この声って、親父とおいもさん? 


「その時、俺が持たされていた証拠って全てフェイクだったんだよ。そんなことだと知らずに、一国の王様相手に交渉してたんだ」


「えっ、それってヤバくないです?」


 これはクミコの声だ。食い気味に相づちを打っているのは、よほど興味を引く話なのだろう。


「ヤバかったで~。あとでそれを知って、ワイまで冷や汗すごかったわ」

「でも、罪を認めた瞬間に張りつめていたものが切れたのか、王様が急に老けちまってな。後継者もいなくてそのまま王家取り潰しになったんだ」


「え、じゃあ、アカリんパパとおいもで三つも国を潰したの?」


「ああ、日本とイギリスと王家のひとつ。だから恨んでいるヤツがかなりいるんだろう」


 そして母さんとレナ、タケルの笑い声も聞こえる。


 会話の内容はよくわからないけど、なんか、みんなで楽しそうに談笑していて幸せな空間って感じがする。


 私もあの輪の中にはいりたいな……



「――ってええええ、なんでおいもさんが会話にはいってんの⁉」



 足の痛みも忘れ、思わずガバッと起き上がり叫んでしまった。


「おう、アカリ。起きたか!」

「親父いつ帰ったのよ? ってそうじゃなくて、なんでおいもさんと普通に話して……母さんまで……え、なにこの状況」


「いや、まさか嬢ちゃんがキョウジの娘だったとは思わなかったわ。なのも納得やで」

「キョウジって誰。ってか、だからなんでおいもさんが親父と……あれ、知り合い? 知り合いなの?」


「アカリん、おちつけ~」


 ジト目なのに口元がニヤケてて、クミコの感情が読み取れない。……まあ、楽しそうでなによりです。


「拙者、イケメンのあまぐりでござる」


 と、あまぐりの前足で変身ポーズをしながら下手な腹話術をする親父。


「きゃう~ん」


 そしてなぜかノリノリな返事をするあまぐり。


「そういうのやめろって」


 この場において、状況が見えていないのは私ひとり。みんなそれをわかってて楽しんでる。悔しいなぁ、もう。


「えとね、マジで、あの、ほんとマジで、状況をまとめて欲しいんだけど」

「おいアカリ。先に……とりあえず先に足を見せてみろ。説明はそのあとにキッチリしてやる」


 異世界人との戦いで負った傷を見せろという親父。


 あまぐりのことも知っているみたいだし、きっと両親とも、私に起きたことを理解しているのだろう。


「魔力がここだけ停滞している感じか」

「うむ。そこに魔力を流そうとしても、どうしてもつながらないんや」

「熱が出て倒れたのは、循環しなくなった魔力が一部にたまった為だろうな」


 普段、空手で素足でいることが多いけど、それでもこんな至近距離でじっくり見られると、なんか恥ずかしくなる。


 足の裏……潰れた豆だらけでゴツゴツだし。


「アカリが蹴ったのは黒い球っていってたよな」

「ええ、黒くてモヤモヤしていて、中でラメの入った水っぽいなにかが渦巻いているような感じでした」


「お、さすが宝生ちゃん、表現が的確。多分相手が使ったのは、重力魔法の圧殺プレッシャー系か黒虚ブラックホール系だろう」


「いずれにしても、や。足が残っているのはラッキーやで」

「おいもさん、なんか怖いこといってない?」


「怖いさ。蹴っただけで細胞が死んでんだぞ? あと一秒触れていたら、足一本持っていかれたって話なんだよ」


 普段はふざけたことばかりいう親父が、この時はものすごく真剣な目をしていた。


「でもさ、あの時はそれ以外に手段がなかったんだよ。敵が魔力で身体を覆っているのを見て、私も足に魔力集中すればできるかな~って」

「アホかこのバカ娘!」


 ツーっと背中を伝う冷たい汗が、『現実を見ろ』といっているように感じる。


「……アホかバカかどっちかにしてよ」

「魔力が流れているだけの素人が、そんな簡単に操作できると思うな」


 たしかに、“白装束の中の人”を追い出す時もなかなか上手くいかずに時間がかかったし、親父が言っていることは正論なんだとわかる。


 ……なんかくやしい。


「でもまあ、これなら放っといて大丈夫だ。新陳代謝と魔力で少しずつ正常な細胞に入れ替わるだろ」


「マジで? ……よかった」

「ただし!」


 ……ただし?


壊死えしした部分と正常な細胞部分の境目は痛い。やたらと痛い。死ぬっほど痛い。覚悟しとけ」

「……」

「これに懲りたら、次からは魔法を蹴ったりすんじゃねぇ」


 なんか、必要以上に親父が脅してくるせいで痛みが増した気分。


 とはいえ、完全に自己責任な話なのだから仕方がない。私はとりあえずカカト用サポーターに魔力を込めて装着した。おいもさん曰く、これで多少はマシになるらしい。



 ――そしてここからは約束通り、今おきている状況をまとめてもらうことに。


 親父とおいもさんの関係や異世界のこと、そして夢うつつに聞こえてきた『日本をつぶした』と言う物騒ぶっそうな話など気になることばかりだ。


「キョウジとワイはな、地球から異世界転生した仲間なんや」

「あ、そのキョウジって誰?」

「そこにいる嬢ちゃんの父親の名前やぞ」

「……親父は、ショウマだよね?」


 間違いなく、昔も今も琴宮ショウマだ。


「ああ、そうやなくてな。京地きょうじって名字やで」

「ども~、入り婿のマスオさんで~す」

「きゃう~ん」


 と、今度はあまぐりのしっぽをフリフリしながら下手な腹話術をする親父。


「だからそういうのやめろって。あまぐりも悪ノリしないの!」

「そんでな、ワイをここに転移させたのもキョウジや」


 なるほどなるほど……あれ?


「いや、それっておかしくない? おいもさんがきてからまだ一週間しかたってないけど」


 あたりまえだけど、親父は17年前には地球ここにいた。

 

 それは私が生まれたころの写真を見ればわかる。


「なんで親父が異世界にいるのよ。……あ、双子とか? もしくは宇宙人だったり?」


「んなわけあるか。いいか、話してやるからよく聞け。もしわからんかったら宝生ちゃんに解説頼め」


「丸投げひでぇ……」


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