第17話・異世界と因縁

「まさかそんな……ギャル子、おまえ……」


 ナンパ男たちを異世界人認定してイキナリ発砲。これにはさすがのおいもさんも焦ったみたいだ。


 驚きながらも、注意しようと声をかけ……


「銃をデコったのか!」


 ――いやそっちかよ。


「当たり前でしょ。真っ黒で可愛くないんだから。こんなのスマホみたいなものじゃない」


 平然とするクミコの手の中には、スワロフスキーでデコったエアガンがあった。街灯のわずかな光に照らされ、キラキラと多原色に輝いている。


「さてと。そこの兄ちゃんら、気絶のふりはやめとき」


「……なんだバレてんのかよ」

「だから寝込み襲った方がいいっていったじゃん」


 男たちはムクリと起き上がり、悪びれる様子もなく悪態をついてきた。


「くそっ、痛てぇな。血ぃ出てんじゃん」


 正直、今の私に三人相手はかなりキツイ。例え相手に武道の経験がなくても、男と女では明らかにパワーも耐久力も違うのだから。 


 ましてや魔力持ちの異世界人だ。とてもじゃないけど勝てる気がしない。


「アカリん、ここは逃げた方がよさそうだけど」

「私もそう思う……」


 普通に考えれば“逃げの一手”しかない。だが……


「いや、二人とも。逃げる訳にはいかへんで」

「……?」

「あの男を見てみい」


 薄暗がりの中に一人残っていた男が、どこかぎこちない足取りで通りを渡ってきた。


 近づくにつれて顔に街灯の光が当たり、その容姿、身長、着ている物がハッキリと見えてくる。


「見覚えないか? あの顔、首のアザ、そしてあの

「……まさか」


 その『まさか』だった。つい数時間前に棺の中で死んでいたDV男、それが今……目の前にいる。


「おいお前、中身は誰や」

「はあ? 初対面なのに言ってわかるわけないだろ」

「ワイらに倒されるヤツの名前を聞いてやるいうとんのや、アホが」


 つまり新手の敵か。一瞬、『あの魔術師か?』と思ったけど違ったみたいだ。


「嬢ちゃん、ギャル子。この身体とり返すで」

「言うのは簡単だけどさ。どうやって」

「わからん。だがな、朝までにひつぎに戻さへんと警察が動くやろ。いろいろ調べられたら母親の秘密がバレるかもしれんで」


 この死体は、言わば『死なせておかなければならない死体』。


「……とりあえず、ぶっ倒そう」

「って、アカリん?」


 そうしなきゃ、結衣ちゃんを悲しませてしまう。


「あとはその時考える!」


 まずはクミコの前にいる二人を倒す。どちらか一人でもいい。そうすればレナたちを呼びに行くスキができるかもしれない。


「おっと、いかせねぇよ。この場の戦力はお前だけみたいだしな」


 私とクミコとのあいだに入り込み、両手を広げる白装束。それを見た二人のナンパ男は嬉しそうに声をあげた。


「おっ! オレの相手は可愛い方か。ラッキー」

「いいね、さっさと終わらせようぜ」


 ……ムカッ。確かにクミコは可愛いが、面と向かってその言い方はムカつくぞ。


「あぁ? ウチの相手はブサイクの方か。バモス(注)~。チョズいてんじゃねえよ、シャバすぎっしょ」


 そして、クミコはクミコで相手の構文をまねて煽った。


 それはそれとして……バモスってなに? サッカー選手?


 

「ぁんだと、コラ」

「てめぇ、犯すぞ!」


 折り畳みナイフを取り出して、カチャカチャと閉じたり開いたりするチョズいたバモスたち。異世界人なのに、やっていることはチンピラと一緒だ。


 とは言っても、クミコは普通の女子高生。さすがに刃物を相手にするのはヤバすぎる。


「クミ!」

「いいから、そっちをなんとかするのが優先でしょ」


 そう言われても気が気じゃない。異世界人って、どんな手を隠し持っているかわからないのだから。


 チョズいたバモス・壱号は、クミコの銃を指さして小バカにした笑いを浮かべた。 


「そのおもちゃって魔力で強化してんでしょ?」 

「だからなに?」


「オレらもそれなりに対策しててさ。全身に魔力流して防御しているわけ」

「あっそ」


 言葉が終わると同時に、チョズいたバモス・弐号は距離を詰めてきた。


 クミコは二発三発と打ち込むが、確かにヤツのいう通り怯ませる程度の効果しかない。


 それでも連射することで足止めをし、なんとか時間を稼いでいた。



 ――そして私の方も、白装束の男との闘いが始まった。


「よぉ、アンタこの身体に乗り移ろうとしてたんだろ? なんでやめたかは知らんが、コイツの魔力はなかなかのもんだぜぇ」


 この白装束に乗り移った男、私たちの行動を見ていたのか?


「もう一度聞いてやる。お前、なにもんや。それとも名乗る価値のない男なんか?」

「ちっ、ホント口だけは達者だな。……日本超帝国の藤田、階級は曹長だ」


 ニヤリと下卑げびた笑いを向けてくる白装束の男。


「なんやて? 日本は潰したはずやが」

「そう、アンタのせいで俺らは路頭に迷うことになっちまってなぁ。山南やまなみ国家元首がまとめなればどうなったことか」

「山南やと……クソ、あの男か……」


 なにやら山南って人と因縁があるみたいだけど、私にはおいもさんのいう、『日本を潰した』って言葉の方が気になる。


 ……よくわからないけど、それって異世界の話だよね?


「ま、なんにしてもアンタが乗り移るのをやめてラッキーってやつだ。この魔力量なら出世間違いなしだぜ」


 だけど今はそんなのどうでもいい。さっさとぶっ倒してクミコを助けなきゃ。


「おいもさん、冷静に……」

「ワイは冷静やで! うそやけどな!!」


 おいもさんが怒るのもわかる。小さい子供の心情に触れて、生きるための意思や希望を感じ取ったんだ。


 自分自身では動くこともできない現状と、打開しようとする意志に重ねたのかもしれない。


 だけど、それを出世の為に奪おうとするヤツが目の前にいる。

 意味もなく、結衣ちゃんの未来を壊そうとするヤツが目の前にいる。


 ――こんなの、おいもさんでなくても許せないっての。


 私は姿勢を低くして踏みだし、白装束の足を狙った。競技としての空手では、頭や喉、股間や脚等の関節と、攻撃が禁止されている部位が多い。


 だけどこれは実戦、最優先で狙うのは……


「ここだ!」


 私は相手の足元に潜り込み、ヒザを狙って下段蹴りを放った。まずは機動力を奪うこと。これが鉄則なんだと師匠がいっていた。


 今思えば、『習い始めの子供になんてことを教えているんだよ?』って思うけど、それでもこうやって役に立っているのだから感謝しかない。


 しかし――。


「残念だが、その体格では威力がハンパだぜぇ」


 白装束の男は私の襟首をつかむと、軽々と頭上に持ち上げた。


 そして私はそのまま無造作に、アスファルトに叩きつけられてしまった。






――――――――――――――――――――――――――――

(注)バリバリキモイっすの略だそうです。



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