第8話・嬢ちゃんヤバいで
「はいはい。それはそれとして本筋の続きをよろしく」
「ああ……どこまで話したんやったか」
「異世界に行ったら電気が無かったーってとこ」
「ああ、そんでな、何年か経って相方が”電気の代わりに魔力をエネルギー源にする技術“を考えついたんや。転生者はみな、多かれ少なかれ魔力を持っとるからな」
人口の半分が魔力を持っているのなら、それを使えばいい。自給自足みたいなものか。
「それによって街中の灯りをつけたり、簡易的なオートバイなんかも作ったりで、流通や治安問題が一気に解決に向かったんや」
単純な話だけど、そこに気がついて行動に移す相方って、かなり有能なんじゃないかな?
「だが、そこで汚い権力者の登場や。エネルギー問題が解決しようって時に、利権を独占しようとしおった」
「あ〜、いるよね〜」
「ワイの中には無限生成される魔力がある。それを狙って国家ぐるみで戦争を始めようとするとこまで出てきた」
領土問題・人種問題・エネルギー問題。『この三つが戦争の火種なんだ』って、角センが言っていたのを思い出してしまった。
「そやからな、相方たちは戦争を回避させるためにワイを転移させたんや」
――それをここに引き寄せたのが私なのか。
「おいもちゃん、大変だったんだねぇ……」
レナは少ししんみりとしながらおいもさんを撫でていた。
「あ、もうこんな時間じゃん」
何気なしに時計を見ると、そろそろ4時になろうとしていた。いつもならタケルがくる時間だけど、昨晩の一件で顔をだしづらいのだろう。
……流石にちょっと寂しく感じてしまう。
「嬢ちゃんヤバいで」
その時、突然おいもさんの口から緊迫した声が発せられた。
「どうしたの?」
「昨日のヤツがまたきおった」
「もうアレは想像しないにゃ。絶対にしないにゃ!」
レナは、例のアレを呼びだしてしまったことがよほど悔しかったのだろう。もちろん私とクミコも、テカテカ巨大でギトギトなアレを間近で見てしまいトラウマになっている。
「大丈夫なんじゃない? 今度同じ魔法を使われても、最初からあまぐりを想像すればいいんだし」
さすがクミコ、冷静な考察だ。……しかしおいもさんの『ヤバい』は、それとはまた違う意味だった。
「いや、問題はそこやない。ワイを追ってきているヤツらも転生者、魔力を感知できるんや。当然地球人には無理やから、魔力持ちの人間は一方的に補足されるだけになってまう」
おいもさんは、この辺りで魔力を持つのはタケルだけだといっていた。それはつまり……
「まさか、タケルが襲われているってこと⁉」
「……すまん、うかつやった。今まさにショタ坊の魔力とヤツの魔力が同じ位置にあるんや」
「あの野郎、タケちーになにかしたらただじゃおかないっての!」
私たちが慌てて家を飛びでると同時に、いくつもの爆発音が聞こえてきた。
「なんやあの魔術師、
「——アカリん、あれ!」
クミコが指さす方向に、いくつもの黒い煙が立ちのぼっているのが見える。
「急ごう。あの辺りはタケルが通う中学校だよ」
♢
全力で走る中、聞こえてくるいくつもの爆発音が不安を掻き立てる。
「タケルぅ……」
「嬢ちゃん大丈夫や。爆発が続いているのは、まだ捕まってへんってことやで」
「それはわかるけど……」
校門をくぐった私たちの目に最初に飛び込んできたのは、逃げ惑う生徒と追いたてる昨日の魔術師。
「あの野郎、異世界に帰れば地球人の手が届かない思て、好き勝手やりおるな」
そして地面には、すり鉢状の焦げた穴と立ちのぼる黒い煙。
「ちょっと、昨日のおっさん! ここでなにやってんのさ」
「おや、見てわかりませんか?」
わざとらしい表情と返答が心底ムカつく。ったく、昨日私たちに負けてるくせに、悪党ってなんでいつも自信満々なんだよ。
「おい、デスショット。ここの子供たちは関係ないやろ」
「関係ない? そうじゃないでしょう。現にアナタがここにきましたから」
中学校を襲って私たちを誘いだしたのか。こいつだってもともと地球人のはずなのに、よくもそんなことができるもんだ。
「それにここには良質な魔力を感じましてねぇ。吸収させていただこうと思ったのですよ」
「嬢ちゃん、ヤツの言葉は軽いけどな、要はショタ坊を殺して魔力を奪うって意味やで」
「うわ、マジ最低」
「ああそうや、最低やで。ショタ坊の身体はワイのもんや!」
「アホか、絶対にやらんわ。タケルの身体はタケルのものに決まってんだろ。なんで異世界人ってそんなんばっかなんだよ」
……まったく冗談じゃないっての。おいもさんは直接手がだせるわけじゃないから実害はないとしても、
「アカリちゃん!」
「タケル⁉」
うしろから声をかけてきたタケル。魔法から逃げ回っていたからだろう、顔も制服も砂埃だらけで、所々やぶけていた。
「大丈夫? なんともない?」
「う、うん。なんでここに?」
「話はあと、逃げるよ」
「ダメ、逃げ遅れた女の子たちがまだいるんだ」
校舎3階の窓から『タケルく~ん』とか『助けて〜』とか聞こえてきた。数人の女子が窓から身を乗りだし手を振っているが、恐怖におびえる悲痛な声というよりは黄色い声援みたいだ。
「あいつら逃げ遅れたんじゃなくて、タケルにかまって欲しいだけのミーハーだろ」
「でも、僕だけ逃げることはできないよ」
「——そんなん言うて、自分が死んだらどないすんのや!」
「……え?」
突然おいもさんに話しかけられて、キョロキョロと辺りを見回すタケル。昨日のクミコたちと同じ反応だ。
「お前さんの体はワイのもんや。こんなとこでヤツにくれてやるわけにはいかへんで!」
「石がしゃべってる⁉」
「——前を見ろショタ坊!」
私は呆気に取られているタケルの体をつかむと、引きずり倒すようにして抱きかかえた。魔術師の放った火の玉は頭スレスレを通過し、20メートルくらい先にある倉庫に当たって破裂、上半分を吹き飛ばしていた。
「あぶなっ……」
こちらの事情なんておかまいなしに攻撃してくる魔術師。当たり前だけど、敵を目の前にして話し込んでいる方が悪い。
「きゃ〜、タケルくぅ〜〜ん!!」
「あのオバサン、タケル君とくっついてる」
「あたしのタケル君になにをするの!!」
「ズルい、みんなのタケル君だってば!」
と、ミーハー発言にのせてグサグサと刺してくる女子たちの視線。おまえら焼け焦げたタケルを見たいのかよ。
……つか、花のJKに向かってオバサンっていったヤツ、腹パンするからあとで体育館裏な。
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