第4話・イケメン二人
「なんでわかるの?」
「なんでって、言われてもにゃ……」
レナはクミコと顔を合わせると、不思議そうな顔を私に向けてきた。
「アカリのことがわからないわけないにゃ」
「ま、そうだね」
さらっとイケメンなんだよな、私の親友二人は。
「そういう訳だから、説明してくれるよね?」
キラッと目を光らせるクミコ。
「ああ、え~とぉ、映研の手伝いで【ゾンビJK対吸血金魚】って映画の……」
「うちの学校に映研はない」
「だよねぇ……」
「なんか面白そうな映画にゃ。いつやるの?」
そしてボケなのかマジなのかわからないレナ。
おいもさんは『仲間が必要なら存在を明かしてもええで』と言っていた。彼としても、死体探しには人手があった方がよいと考えているのだろう。ただし、当然だけど私が真に信用を置いている相手だけ。
そういう意味では、私が黄泉がえった映像を見て怖がるどころか『なにがあった』と詰めてくるクミコや、平然とパンをかじっているレナは、最高に信用が置ける仲間だ。
「映像にある通り、子犬を助けようとしてトラックにひかれた……」
「アカリんがひかれるなんて珍しいね」
「そんないつも飛び出しているようないい方しないでも」
クミコは『月イチくらいで飛び出してると思った』なんて付け加えていた。そんな
「でね、私はその時ほぼ死んだらしいのよ」
「「……はぁ?」」
「んで、これなんだけど」
私はポーチからおいもさんをとりだし、二人の前に置いた。
「なにこれ? 」
と、手に取るレナ。普段の手癖なのだろう、手の中でおいもさんをクルクルと回し始めた。
「……おいこら」
声の発生元がわからずにキョロキョロするクミコとレナ。
「目が回るやろ!!」
「え⁉」
「あ!!」
突然しゃべりだした石に焦りビクッとなったレナ。その弾みで手からこぼれ落ちたおいもさんは、そのまま柵の外へと飛びだしてしまった。
ここは3階建て校舎の屋上だ。つまり、おいもさんを下に落としたら、私はこの場で死が確定してしまう。
【怪奇!! ゾンビJK、屋上でトラックにひかれる!!】そんな見出しはごめんだ。
――私はとっさに柵を飛び超え、めいっぱい手を伸ばしておいもさんをつかんだ。
「ちょっ!」
「ヤバ……」
あとさき考えず飛びだした私に飛びついたのはレナだった。そしてレナの身体を支えるようにクミコが腕を回し、柵をつかんだ。
私はまたもや白三角おっぴろげ。昨日からこんなのばかりだ……ま、他に誰もいないからいいけど。
「ふう、あっぶねぇ」
「ナ、ナイス連携……」
「なにやってんのよアカリん。ナイスじゃないっしょ」
最悪ここから落ちても『おいもさんを持っていれば死ぬことはないかな?』と考えたのは確かだった。
それでも危険を
「……ごめん」
「で、結局それってなんなの?」
安堵しながら疑問を口にするクミコ。私が昨日起きた出来事を洗いざらい話すと、さすがに二人とも呆気に取られ、そして、慌てた。
「え……じゃあ、あーしがアカリを殺しかけたってことにゃ?」
「気にしないで。いきなりしゃべりだしたおいもさんが悪い」
「でもでも……う~、アカリぃごめんにゃぁ~」
私はお弁当のタコさんウィンナーを半泣きになっているレナの口元に差しだす。彼女はグスン……と鼻を鳴らしながら、パクリとひと口で食べた。
「つまり、この……石が離れると、アカリんはトラックにひかれた状態に戻って死ぬ、と」
「石やない、おいもさんや!」
クミコは、私の身体とおいもさんを交互に見ながら質問をしてきた。
「ま、それはどうでもいいけど」
「どうでもよくない、おいもさんやで!!」
「アカリん、それってどのくらい離れるとヤバイの?」
「んと、身体に影響が出始めるのが3メートルってとこかな」
クミコは状況をしっかり把握してくれようとしているのだろう。『できるだけ詳しく』とつけ加えた。
「5メートル位で肋骨が飛びだして血まみれ、7メートルまで行くと両足がバキバキで血の海。意識が遠くなって立っていられないかな」
「あ〜ごめん、聞くんじゃなかった……」
多分ガッツリと想像したのだろう、眉間にシワを寄せて目頭を押さえるクミコ。
そんな中でも食事が進む強メンタルのレナは、質問をクミコに丸投げにして耳だけこちらに向けていた。
「にしても、死体探しか~」
「なんかいいアイディアある?」
「ね、アカリんさ。この間バイト探しアプリ入れてたっしょ? 病院か葬儀場とかで、募集してないかな?」
「ああ、なるほど!」
思わずポンッと納得。それなら合法的に死体のチェックができる。
「ただ、魔力持っている人って
「ああ、そうやで。千人、いや、万人に一人くらいや」
「そんなのなかなか見つからないっしょ。それまで“コレ”と一緒とか地獄じゃね?」
「コレいうなギャル子ぉ!」
「はぁ? 誰がギャル子だ、ゴン
なんか、クミコとおいもさんは相性が悪そうだな。できるだけ私があいだに入らなきゃと思ったけど……時すでに遅かった。
「そやからな、あのショタ坊をさっさと殺せばええねん。死体探すより魔力持ち殺した方が早いのはわかるやろ」
おいもさんのこのひと言が、クミコの怒りを買うことになる。
「ショタ坊って?」
「嬢ちゃんの幼馴染や。タケル言うたか?」
「なんだと……」
「あいつはものっ凄い魔力持っとるんやけど、ま、宝の持ち腐れってやつやな」
その時、ブチッとキレた音が聞こえるくらい、クミコの目に殺気がやどった。
「おいこらこのクソいも! ウチらのタケちーになにしてくれんだよ。こっから投げ捨てるぞコラ!」
ひゅうぅぅぅ……と、校舎の屋上を風が駆け抜ける。
なんとなく寒気を感じるのは、秋が深まったせいなのか、それともクミコとおいもさんのにらみ合いのせいなのか。
いつまでこの状況が続くのだろう? と思わずにはいられないこの空気をぶち破ったのは、他でもないレナのひと言だった。
「ん~、よく見るとおいもちゃんって可愛いにゃ」
「……は?」
その突拍子もない『可愛い』のひと言は、クミコとおいもさんの険悪ムードを破壊するには十分だった。
「こっちの嬢ちゃんはようわかっとるやないかい。ギャル子と大違いやな」
「はぁぁ?」
「今のご時世、男子でも可愛いは魅力の一つやで」
納得いかないクミコ。その気持ちは私にもよ~くわかる。おいもさんは『可愛い』の対極にいる存在だ。間違いなく。
「レナさあ、いくらなんでもそれはないと思うけど」
「そう? ひと筆描きできそうな顔って可愛いくないかにゃ?」
「——それには賛同できぬな」
レナのひと言に返事をしたのは、聞いたことのない男の声だった。
「ほら、あの人だってそういって……え、誰?」
生徒じゃないし教師でもない。濃い紫のローブにトンガリ帽子、そして手にはクネクネと曲がった長い杖。こんなハロウィンイベントにいる魔法使いのような恰好をしている学校関係者はまずいないだろう。
「その石は地球人の手には余るシロモノだ。悪いようにはせん、こちらに渡せ」
なによりその男は、グルグルと渦巻く黒い空間からでてきていた。どう考えても現代の人間ではない。つまり……おいもさんと同じ異世界人だ。
「お前、
「我が名はデスショット・ヴァーミリオン。逃亡者であるブレイズロック・シリウスガンフェイト・ダークマルスコルブラント男爵を捕獲しにきた、ただの王国宮廷魔術師ですよ」
「……あ、フルネームで呼ぶ人いるんだ」
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