第3話・あ、また死にそう……
「あいつ、殺してくれ」
「はあ? バカなのアホなの死ぬの? なにを言っていやがりますか、このスットコドッコイは」
「あのショタ坊、とんでもない魔力や」
「……タケルに魔力が?」
「それにあと五年もすれば別格のイケメンになるで。今のうちに奪っておいた方がええやろ」
おいもさんが求める条件にタケルが一致したのか。
「ちゃっちゃと
確かにタケルはイケメンの素養がありすぎるくらいある。でも……
「ダメ。ぜ〜〜〜〜〜ったいにダメ!!」
「なんでや。滅多にない物件やで? 嬢ちゃん、生き返りたくないんか?」
「家族みたいなものなんだから。そもそも人を殺せとかおかしいから!」
「人間な、いつかは別れがくるもんや。それが早いか遅いかやで」
「そんなことするくらいなら、おいもさんをマリアナ海溝に沈めて私も死ぬ」
「なんやと? できるもんならやってみぃ」
「おう、やったるわい!」
私はおいもさんを窓際に置いて、ドスドスと怒りを踏みつけながら離れた。すると、部屋をでた辺りで身体が重くなり痛みが襲ってきた。
「く……」
「無理すなや嬢ちゃん。意地張ってもなんもいいことあらへんで」
なおも黙ったまま一歩、また一歩と離れると、激痛と共に腹部から血が滲んできた。徐々に肋骨が突きでてくる感触まである。
「だからやめや。そんなことしてもワイは譲らへんで」
「……」
突然足が動かなくなり、ドサリと廊下に倒れてしまった。ぐちゃぐちゃになった足が、血溜まりの中にうっすらとみえる。
「マジで死んでまうで。痛みも限界やろ。そろそろギブアップしとき〜。ったくアホちゃうか」
そろそろ意識も限界だけど、ここで引くことはできない。おいもさんからしてみたら『何故ここまでするのか?』と思うだろう。
こういうのって色恋沙汰が絡むって思われがちだけど、そもそもタケルに対して恋愛感情は無く、どうあっても可愛い弟でしかなかった。
――でも私には、自分が死んでもタケルを守らなきゃならない理由がある。
「嬢ちゃん? おいこら、返事しろって……」
無理。声が出ないや。ギリギリ戻れる所までのつもりだったけど、思ったよりずっと限界が近かった……。
「ああもう、なにしとんのや! ワンコ、おいこら、ワンコ」
「きゅ?」
「ワイをあそこまで連れて行け」
♢
す〜っと意識が回復してきた。子犬がぺろぺろと私の顔をなめている。二度も助けられたな……この子がいなかったらマジで死んでいたかも。
「……今回はワイの負けでええわ」
「今、なんて?」
「嬢ちゃんに死なれたらワイも困るっちゅうこっちゃ!」
「タケルには手をださせないからね」
「ちっ、ワイに身体があったら有無を言わさずにしばき殺して身体奪うのにな」
……支離滅裂。
「嬢ちゃん、とりあえずワンコに名前つけや。呼びにくくてかなわん」
「やっぱり可愛い名前がいいよね~」
「可愛いとかどうでもええけどな、そのワンコ、嬢ちゃんに惚れとるで」
「……え、犬の言葉わかるの? 石キモっ」
「キモいうなや。ワイを誰やと思うとんのや。ワイはブレイズロック・シリウス……」
「はいはい。それはもういいから」
「いけずやで……」
こんな可愛いワンちゃんに惚れられているなんて、飼い主
「名前どうちまちょうかね~」
「なんやねん、その赤ちゃん言葉は」
「この変な石は気にしなくていいでちゅよ~」
子犬は『きゅぅん』と小さく鳴くと、私の胸や首に顔を押し当てるようにしてぺろぺろと舐めてきた。
「くすぐったいってば〜。もう、イタズラ好きな子でちゅね〜」
「……ワイはなにを見せられているんや」
「そうだ。栗色の毛並みだから、“あまぐりちゃん”でどうでちゅか?」
「きゅーん!」
あまぐりは私の膝に乗ると、萌え萌えな声で返事をしてくれた。どうやら気に入ったみたいだ。
「ちなみに、や。そいつ二歳やって自分で言うてるけどな」
「あまぐりちゃんはにちゃいでちゅか、まだまだ遊びたい盛りでちゅね〜」
「犬の二歳って、人間年齢でゆうたら二十四歳の成人男性やで」
「成人……男性」
一緒にお風呂に入って胸とかなめられて赤ちゃん言葉で話して……なんか急に恥ずかしさを感じてしまい、私はそっとあまぐりを床におろした。
「嬢ちゃん、顔
うっさいなもう……。
◇
――翌日。都立
「ねえ、黄泉がえりのニュース見た?」
「見た見た。怖いよね〜」
はい、もちろん黄泉がえりJKの話題です。通学路でも下駄箱でも教室でも、猫も
「俺、さっきインタビューされたぜ」
「マジか、いいなあ〜」
うちの高校の制服で、それも近くの交差点で起こった怪奇現象なのだから当然ではあるけど。
「アカリん、おはよ!」
「あ、おはよクミ」
教室に入るなり声をかけてきたのは、親友の
「でさでさ、アレ見た? ゾンビのヤツ」
「あ〜、アレね……」
昨日の夜にはまた新たな防犯カメラ映像が報道され、私がひかれて吹っ飛び大股開き黄泉がえりから去りゆく
もちろん顔はモザイクがかかったままだ。……ま、そうでなければとても学校になんて来れないし。
「あの人、すごい飛ばされていたけど」
「うん、痛かっ…痛そうだよね」
「それでさ……」
急に声のトーンが落ち、私をじっと見るクミコ。
「あれ、アカリんでしょ?」
えええええ? ……なんでバレてるの?
「いやいや、そんなわけないじゃん!」
「だって、襟のとこに血が残ってるよ?」
「え、うそっ、マジ? どこ、どの辺り? 洗濯したのにぃ〜」
クミコは見た目に反して知恵が回るタイプだった。洞察力が高いというのか、人の気持ちをくみ取るのが上手かった。それもまたモテる要因なのだろうけど。
「なんで洗濯したの?」
「だって血まみれで……」
「ふ〜ん……血まみれになるようなことがあったんだ?」
「え〜……」
アッサリと誘導されてしまいました。
「とりま、ちゃんと生きてるみたいでよかったわ。後でくわしくヨロ」
♪キーンコーンカーンコーン……
「ようし、席に着け〜」
チャイムと同時に担任の
角センは、しっかり返事をしないと欠席扱いにしてしまうから、ここで無駄口を叩く生徒は皆無だった。一人を除いて……
「
「……」
「いないのか? 姉小路~」
——バンッ
その時、ものすごい勢いで教室のうしろ扉が開いた。
「はいは〜い、セーフセーーーフですにゃ!」
「なにがセーフだ。ビデオ判定ものだぞ」
「え〜、あーしの名前が“んねがこうじ”だったら超セーフじゃん。大体、毎回あいうえお順で呼ぶのはズルいにゃ!」
「んがねこうじってお前……」
「贔屓、贔屓、あいうえお贔屓! 我々は抗議するにゃ。この問題をもって教育委員会に殴り込んでやるのだ!」
「あ〜もう、いいから座れ……頼むから座れ」
「あざっす!」
このお騒がせ女子の姉小路レナは、私のもう一人の親友。ソフトボール部の控えピッチャーで、なにに影響を受けたかは知らないけど『〜にゃ』が口癖のスポ根女子だ。
根っから明るく、小柄な身体に頭上で踊るアホ毛。クミコとはまた違った方向で人気がある娘だ。
「おはよ、レナ。また朝練?」
「うん、試合近いじゃん? 道具片付けのあと早弁したらいつの間にか寝ちゃってにゃ~。食後は眠くなるにゃよ」
朝から早弁はいつものことだった。それでお昼は購買で買うのだから、最初から弁当二個持ってくればいいのに、といつも思う。
◇
退屈な授業は光の速さで通りすぎ、お昼休み。いつも校舎の屋上でだべりながら食べるんだけど……今日はクミコにいろいろと追及されそうな感じだ。
「ねえ、
私に対する
「なんのニュースにゃ?」
「これ」
クミコはスマホを出して例の動画を見せた。家でも素振りや投球練習をしているレナは、普段ほとんどテレビを見ないらしい。
動画を観ながら、購買で買った”特大激辛カレーコロッケ焼きそばパン“にかぶりつくレナ。よく食べる娘だけど運動量が半端ないから結構スレンダー。羨ましいかぎりだ。
「あのさ……」
「ん?」
「これアカリじゃん。なにやってんのにゃ?」
え~……なんでわかるのよ。
――――――――――――――――――――――――――――
キャラクターイメージイラスト:宝生クミコ→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16818093089460482706
キャラクターイメージイラスト:姉小路レナ→https://kakuyomu.jp/users/BulletCats/news/16818093089460522530
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