秋風

 ようやく秋めいてきたと、風をあびて感じる。

 気候について隣を歩く彼女に話を振ると、神妙な面持ちで何やら唸っている。

 どうかしたのかと顔を覗き込もうとして、不意にぱっと表情が明るくなった

「おでん食べたい!」

 花より団子、色気より食い気とはよく言ったものだ。

 とはいえ、まだ昼時は30度近くある。絶対に暑いと思いはしたが、口に出して否定するとすぐに機嫌が悪くなる。ここはとりあえず首肯しておくのが吉だ。

 それを見て彼女も何やら満足げだ。

「コンビニはまだ無いだろうから、とりあえず近場のお店さがそ!」

 そう言ってスマホをパタパタと触り始める。今夜はおでんで決まったらしい。

 さて、ここからどうやってやめさせるか……。

「そういえば君んとこの姪っ子、こないだ誕生日だったよね」

 不自然にならないよう話題を慎重に選んで口に出す。

 彼女はそれを聞いて、画面から目を離さずに答える。

「確か3歳になったって」

 もちろん知ってる。当日に何気ない話の中で聞いたし、3日後くらいにも同じ話をしてた。

 家族のことが大好きなのだろう。いつもその手の話題は何度も繰り返し聞かされる。

「3歳でふと思ったんだけど」

「ん?」

「山菜そば食べたくない?」

「おでんだっつってんだろ」

 ダメだった。むしろ不機嫌な顔でこちらを睨みつけてくる。

 結局おでん代を払うことでなんとか許してもらえたのだが、食事中は終始冷たくあしらわれた。

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