シャワー

 汚れた服を脱ぎ捨てる。汗やら何やらでとても臭う。

 リビングの点けっぱなしのテレビからは、何やらキャスターがニュースを読み上げる声が聞こえてくる。

 政治がどうの経済がどうのと、耳にするのも嫌になるような暗い話ばかりだ。

 途端、火に水をかけて消したような音が聞こえた。急いでキッチンに行くと、鍋から吹きこぼれの泡が出ているのが見えた。

 急いでシンクに包丁を置きコンロの摘みを捻る。鍋の勢いが弱まる。どうやら母親あたりが料理中だったらしい。火を止めたせいか、何やらいい匂いが立ち込め始めた。

「……豚汁かな?」

 鍋の中を覗き込むと、ゴロゴロとした具材が転がっている。

 周囲をクルクルと見渡し、誰かにバレてないか伺う。別に見られたからと言ってどうということもないのだが、ついつい癖でやってしまう。

 お玉で掬って啜ると、味噌の香りと豚の肉臭さが鼻腔に広がる。

「……お腹すいたな」

 服を脱いで上裸のままでは、万が一見られた時に恥ずかしすぎる。とは言え汚れた身体も洗いたいし。

「ダッシュでシャワー浴びれば冷めないかな」

 そうと決まれば後は早い。そのまま下も脱ぎ捨て、さっさと浴室に向かう。

 適当にタオルを引っ掴むが、とてもファンシーなマイメロが描かれていた。

「誰の趣味だこれ」

 手の中でピンク色のタオルがフラフラと揺れる。少しずつ染まっていく様子は、見ててなんだか申し訳ない気持ちになる。

 仕方ないと割り切って使おう。浴室に入ると、1人ではもったいないくらいの広さがあった。

 シャワーを浴び、体から沢山の汚れを落とす。汚れと一緒に疲れも吹き飛んだような気さえしてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る