クレープ

 大口を開けてかぶりつくと、端からわずかに生クリームが溢れるのが分かった。

 ペロリと口の端を舐めると仄かに甘い。

「これ使いよ」

 ミヨちゃんが紙ナプキンを差し出してくる。どうやら見られていたらしい。

 何も言わずに目を閉じて顔を近づけると、ハアとため息が聞こえた。そのままゴシゴシと拭いてくれる。やっぱりミヨちゃんは私に甘い。

「それで、結局どうすんのさ」

 クレープを包んでいた紙を丸めて聞くと、待ってましたとばかりにミヨちゃんが口を開いた。

「これ!」

 そういってスマホの画面を見せてくる。……『特別野外ライブ』?

「近くに大きめの広場あるでしょ。あそこでライブやるんだって!」

 どうやら好きなバンドがライブするからついて来いということらしい。日曜に急に呼び出したと思ったらそういうことだったのか。

 広場に向けて歩き出すと、チラホラとそのバンドのTシャツやグッズを身につけた人が目に入る。意外と人気のあるバンドなのか。

「ボーカルの声がいいのはもちろんなんだけど、雰囲気的にはベースが推しなんだよね!」

 上機嫌で語るミヨちゃんは、いつの間にかそのバンドの名前が書かれたTシャツに着替えている。いや、本当にいつの間に着替えたの。

 広場には既に大勢の人がいた。小さな屋台もいくつかあって、軽い野外フェスみたい。

「あと15分くらい時間あるね」

 そう言って隣を見ると、ミヨちゃんはいつの間にかフランクフルトを手に持っている。

 ガブリと齧って嚥下すると、ステージを見つめながら何やらブツブツと呟いている。目がマジだ。

 まあ好きなバンドらしいし、放っておいて私も屋台巡りしよう。そっとそばを離れて振り返るが、それに気づいた様子は無さそうだった。

 適当に歩いているとグッズを売る屋台が目に入る。そういえばどんな人たちなんだろうか。

 視線をやると、バンド名が書かれたポスターが目に入る。その人たちの顔を見て、思わず心臓が止まりそうになった。

「……この人だ」

 忘れもしない。忘れられるはずもない。

 3年前の、あの日のこと——。

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