目覚まし時計

 午前7時30分。けたたましく鳴り響くアラームで、私の意識は覚醒する。この音だけは、いくつになっても嫌いなままだろう。

 朝の支度を進めながら、片手間でパンを胃の中に放り込む。咀嚼はしてるんだろうけど、もはや無意識に近い。

 毎朝家を出るまでのタイムアタックに挑戦してる。顔を洗ってメイクをして服を着替える。どうして朝の準備はこうも面倒なのか。

 記録の更新はできずとも、大幅にタイムを落とさなければ問題ない。家を出たところでハンカチを忘れたことに気づいた。

 鍵を開け直して部屋に入ると、何故か止めたはずのアラームが再び鳴っていることに気づく。確かに止めたはずだけど。

 スヌーズって感じの時間差でもないので、不思議に思いながら寝室に入る。

 目に入ったのは、布団の中からアラームを止めようとする私の姿。ぎょっとしてその場から動けなくなる。

 私は布団から出ようとせず、目を瞑ったままアラームの音源をペシペシと探る。

 静かになるとノソノソと布団から這い出てくる。大きなあくびを一つして目を擦る。ため息を吐きながら目を開き、視線が交差した。


「……どちら様?」


 私も同じことを言おうとしていたところだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る