天体観測

 初めて知ったのはいつだったっけ。

 もしかしたらカラオケで友達が歌ってるのを聞いたとか、そんな感じだったかもしれない。

 その曲にすごく惹き込まれて、他の曲とかもたくさん聞くようになった。お年玉を崩して、中学生だった自分でも担げそうな望遠鏡を買ったりもした。

 この歌詞を書いた物語を作った人はこんなに淡い経験をしたのだろうか。もししてないのであれば、どうやってこんな言葉が生まれてきたのだろうか。そう考えるようになったかと思えば、いつの間にかその気持ちは嫉妬や憧憬に変わり、果てはそれを消費するだけの自分に対する怒りに達した。

 高校生になって軽音部に入った。初めてちゃんとした楽器を買い、ゆるいながらも上下関係を学び、それから恋を知った。

 自分で曲も作ってみた。あの曲みたいな、誰かに届く物語を書きたかった。結果、3ヶ月くらいかけて3分程度の短いものがひとつできた。

 部活内で組んだバンドの何度目かのライブで初めて披露したが、浮かんだ感想は「こんなもんか」だった。

 結局、そのまま部活を辞めた。メンバーは引き止めてくれたが、もう曲を作るのは無理だと思った。手元に残ったのはもう使わない楽器と、既に使わなくなっていた望遠鏡だけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る