第25話 こそこそ話は強烈過ぎる
「陽。いつものー」
教室にいると、晴人が常連客が注文するような物言いで言ってくる。
教室のドアの方を覗くと、そこには西府が立っていた。
「やっぱり付き合ってるよね」
「なっ……」
焦った声が出てしまう。それは照れや恥じらいではなく、心の底からの焦りである。
チラッと詩音の方を見ると怒った顔をしているのがわかる。
彼女には西府と勉強していることも、彼女の事情も話してある。それを理解してくれた上で西府と勉強しても良いという許しも得ている。
「いや、だって、男子と喋らない西府さんが毎度毎度、陽にだけ用っておかしいでしょ」
「陽に用なんて面白いダジャレだね、親友」
「誤魔化さないでよ」
誤魔化せなかったみたい。
「付き合ってない。陽は別に好きじゃないにしても、西府さんは陽に気があるんじゃない?」
「や、やめろ。それ以上はやめてくれ」
それ以上言うと……。
「むぅ」
ぷくぅと頬を膨らませ、隣の席の詩音が随分とご立腹のご様子であった。
これはもしかしなくても怒っているよなぁ。あとでフォロー入れておかないと。
とか思ってると、詩音が唐突に俺の耳元に顔を近づけた。
「私が1番、陽くんが好きなんだからね」
ボソリと吐息混じりの可愛いボイスを頂いて、俺の脳内は今にもとろけそうになる。
同時に顔が真っ赤になったのが自分でもわかる。
「え? な、なに?」
晴人が急に、こそこそ話を始めた俺達に戸惑いの声を上げた。
「なんでもねぇよ」
一応、俺と詩音の関係を隠している手前、俺の方が好きだなんて返すのはバレるリスクが高い気がしてやめておく。いや、今のも随分リスキーだったけどな。
俺は誤魔化すように立ち上がり、さっさと西府のところへと向かった。
「もしかして、東都さんと陽って──」
先程のリスキーな行動は、詩音にふりかかってしまったみたいだ。
♢
「さっきから顔が赤いけど、大丈夫なん?」
西府と図書室で勉強中、さっきの詩音のとろける攻撃かまだ脳内を破壊しているみたい。顔が赤いって言われちゃった。
「風邪?」
「いや、そんなことはない。全然普通」
「そう。なら良かったわ」
安心してくれて勉強に戻る西府は、ペンを動かしながら口を動かした。
「今日まで色々ありがとうな。ほんま助かったわ」
「まだ塾の試験終わってないだろ。礼は試験の結果が出てから言ってくれ」
「ほなら夏休み明けまでお礼はお預けやね。なにがええ?」
「ん? なんかくれんの?」
「そりゃこんだけ付き合わせてなんもお返しないなんて失礼やろ。ウチのできる限りのことはするつもりやで」
「いや、本当に気にしなくて良いから」
「あかんよ。そんなん。それにウチの気が済まへん」
「さい、ですか」
なんかここまで強く言われちゃ断るのも悪い気がするな。
「とりあえず礼とかうんぬんは塾の試験が終わってからだろ」
「せやね。今は勉強に集中するわ」
宣言すると西府は一言も喋らずにペンを動かし続けた。
一応、先生としてやって来たんだけど、特に教えることはない。
元々頭が良くて成績の良い奴だから教えることなんてない。
ただ、現段階で頭打ちになっているから俺を使って現状を打破したいというだけ。なにも教えなくても、ただそこにいるだけで役に立てているのならそれで良いか。
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