第23話 付き合い出してから一緒に働くの尊い
カランカランとドアの鈴の音が聞こえてくる。
「「いらっしゃいませ」」
俺と東都の声がシンクロし、互いに見合うとはにかんでしまう。
アイコンタクトで、「私が行くね」と送ってくれた気がしたから、素直に譲り、東都が新規のお客様の接客に行ってくれた。
「なんか、すごい甘いんだけど」
「あ、店長の娘さんで大学二年生の二十歳。ミディアムボブの大人かわいい
「テンション高い説明をどうも」
呆れた声を出しながらも、奏さんはニタァと笑う。
「詩音ちゃんとやたら甘い感じを出してるけど、付き合ってるとかー? きゃー、高校生青春してるー」
煽るような感じで言ってきやがる奏さんに一言。
「付き合ってますよ」
「え、なにその、あっさりな感じ。からかい甲斐がないじゃない」
「登場するのが遅すぎましたねー」
「失礼な。あたしはあんた達より随分先輩よ」
「設定はね」
「設定言うなー」
奏さんとは3つ年が離れており、店長に似てフレンドリーなため、近所のお姉ちゃんって感じだ。
「奏さん。アイスコーヒーふたつです」
新規のお客様のオーダーを取ってきた東都が奏さんに言ってのける。
「はーい。アイスコーヒーふたつね」
今日、店長は休み。店長が休みの日は代わりに奏さんがキッチンに立つ。
「東都も随分と接客に慣れてきたよな」
「えへへ、そうかな」
「ああ。俺が客なら東都に接客して欲しいもん」
「おかえりなさいませ♡ ご主人様♡」
「ただいま♡♡」
「おいごら、そこのバカップル。付き合い出したからって仕事中にイチャつくな」
奏さんが言いながらアイスコーヒーをふたつ出してくれるので東都がそれを運んで行った。
「これが生き遅れ女子の嫉妬か」
「失礼なっ! あたしだって彼氏のひとりやふたり……」
「奏さん、モテそうですものね」
戻って来た東都が手を合わせて尊敬の眼差しを送る。
「そ、そうね。あたしレベルになるとゼミの男子は全員あたしに夢中よ」
「奏さんところの大学は3回生からゼミでしょ?」
「うっ!」
あ、図星だっ。
「う、うっさいわよ。3回生とか関西呼びすんな。3年生と呼びなさい」
「話を逸らした」
「凄いです、奏さん。私にもモテテク教えて欲しいです」
「詩音ちゃんには既に彼氏がいるというのに浮気かしら」
「もっと千田くんにモテたいと思いまして!」
「やめて。純粋な眼差しで見られると、お姉さん浄化しちゃう」
「そうですね。モテもしないのにモテるとかウソ吐くから浄化しちゃいますね」
「おいごら後輩。先輩なめんなよ。その気になれば明日にでも彼氏くらいできるわいっ」
「つまり今は彼氏がいないと」
「ぐふっ」
あ、これまた図星だ。
「そ、それにしたって、あんたらそんだけバカップルを披露してんのに未だに名字で呼び合ってんの?」
「「え?」」
言われて俺達は顔を見合わせた。
「呼び方は大事だとお姉さんは思うな」
カランカランと鈴の音が鳴り響いて新規のお客様がやって来る。
「あ、いらっしゃいませ」
俺が反応して新規のお客様の接客へ入る。
言われてみたら、付き合ってるのに名字呼びって言うのもなんだよな。
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