第22話 規制があるからこそ尊死の爆発力が上がる
今日は東都と一緒にバイトの日だ。
できれば一緒に行きたいのだけど……。
「それじゃ千田くん。またね」
そう言い残して隣の席の東都は先に教室を出て行った。出て行く時に他のクラスメイト達にも手を振りながら出て行く。
ま、今は影でコソコソを楽しむ期間だからな。
これはこれで良いかと思いながら俺も教室を出ようとすると、教室の入り口に目立つ金髪ショートの美少女が立っていた。
「おつかれー西府」
すっかり見知った顔になったため、フレンドリーな挨拶をする。だが、周りの連中は俺と西府のことを異常事態なような目で見てくる。
そりゃ、あの西府雅が男子と喋っているだなんて思いもしないのだろう。
「千田くん。今日もええかな?」
「あー、悪い。今日は用事があるんだ」
できればバイトとはっきり言って断りたいが、そんなことは言えないために曖昧な用事という断わり方になってしまう。勉強に付き合うと言った手前、こんな断り方はしたくないんだがな。
「そうなんや」
西府はあっさりと引き下がり、提案してくれる。
「塾の模試まであと一週間くらいなんやけど、それまでに勉強見てくれる日ある?」
その提案の仕方は、こいつは成績も良いし、地頭も良いなと思ってしまう。
頭悪いやつは、「ふーん、そうなん」とか拗ねて後日また突拍子もなく、「今日はいけるやろ?」とか抜かしてくるパターンのやつがいるからな。
「明日と……金曜日ならいけるよ」
「あと二回も見てくれるん?」
「約束したからな」
「義理堅いんやね。助かるわ。ほな、よろしく」
そう言い残して西府は去って行った。
西府と勉強していることは東都と付き合う前だったから言ってなかったが、今は東都と付き合っているんだ。彼女には伝えた方が良いよな。
♢
俺もとっととバイトに向かおうと少しばかり歩くスピードを上げて校門を出ようとした時だ。
「あ、東都」
校門の前で誰かと待ち合わせしているように東都が立っていた。
「やっほ、千田くん」
「なにしてんだ? バイト先に向かったんじゃないの?」
「千田くんを待ってたんだよ」
「俺?」
首を傾げると、東都が周りをキョロキョロと見渡した後、俺の手を掴んでくる。
「学校では付き合ってるの秘密にしてるけど、やっぱり一緒にバイトに行きたくて待っちゃった」
なんだ、このかわいい生物は? かわいすぎて死にそうなんだが。
「俺も、一緒に行きたいって思ってたよ」
「ほんとに? えへへ、やっぱり私達、相思相愛だね♡」
あ、死んだ。バイト前に尊死したわ。
「行こっ」
尊死しながら俺達は共にバイト先に向かう。
ひとつ、ふたつと角を曲がると──。
ギュッと東都が手を繋いでくれる。
「ね、学校からふたつ角を曲がったら手を繋いで良いルールにしようよ」
まって、ねぇ、まって。既に尊死してるのにオーバーキルなんですけど。
「だめ?」
ギュッ。
「良いに決まってるだろ」
「やたー♪♪」
ギュッ、ギュッと何度も握り返してくれる。
「えへへー♪♪」
影でコソコソという規制があるからか、このやり取りがやたらめったら尊い。
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