第21話 影でコソコソ付き合うのも尊い

 花火大会を経て、俺と東都は付き合うことになった。


 片思いが実るというのはなんと素晴らしいことなのだろう。


 世界が全く違ってみえる。


 モノクロの世界がカラフルに見えるというか、視線に入るもの全てがピカピカに見えてしまう。


「やぁ、おはよう晴人」


 教室に入り、晴人を見つけて爽やかに朝の挨拶をしてみせる。


「え、あ、ああ……おはよう」


 相手の若干引きつった返しもなんのその。


「ピッ、ピッ」


 指を立ててキザったらしく返してみせて、自分の席へと座る。


「陽。どうしたんだい? 気持ち悪いんだが……」


 晴人が引いたような目でこちらにやって来る。


「どうしたって、そりゃお前──」


 まだ来ていない東都の席に視線をやると言葉が止まる。


 そういえば──。



 花火大会の帰り道。


 花火大会なのに花火なんて全然見ず、ひたすらにキスして終わった花火大会の帰り道。


 手を繋いで人の波に乗って駅に向かっている時だった。


「私達が恋人になったことって、誰かに話さない方が良いのかな?」


 ぽつりと線香花火みたいな儚げに心配そうな声を出す東都。


「東都は俺が彼氏って誰にも知られたくない?」


「ううん。『私の彼氏は千田くんだよっ! どうカッコいいでしょ!!』って自慢したいくらいだよ」


「素直にそう言われると反応に困るけど俺だって、『俺の彼女は東都だっ! めちゃくちゃかわいい彼女持ちで羨ましいだろっ!』ってそこら辺を走って言いまわりたい」


「めちゃくちゃ嬉しんだけど、反応に困るね」


「だろうよー」


 あははとふたりして笑い合ったあとに東都が本題に戻る。


「ウチの学校は別に男女交際禁止ってわけじゃないけど、ちょっと目を付けられたりするでしょ」


「ああ、モテない大人の嫉妬みたいな感じでな。でも、ほんのちょっとの嫌がらせだろ。放課後にプリントの整理の手伝いとか、微妙なやつ」


「私達に秘め事がなければさ、そんな微妙な嫌がらせも一緒にできるけど……」


「なるほど。目を付けられてバイトのことがバレでもしたらってことか」


「うん。そんなことで私達がバイトをしているのがバレないとは思うけど、可能性は少しでも減らしておいた方が良いでしょ」


「確かにな。0.1%でも可能性があるのなら潰しておいた方が良いか」


「それに」


 はにかみながら東都がぽろりと本音を漏らす。


「私達が恋人なのを公表したら、もう秘密にできないじゃない? ふたりでコソコソとイチャイチャするっていうのも経験したい、かも……」


「影でコソコソとイチャイチャ……」


 なんかそれはそれで良いかも。付き合ってるのがバレたら公衆の面前でイチャつけばいいもんな。


「わかった。無理に俺達が付き合ってるのを話すのはやめておくよ」



 そんなわけでわざわざ自分から東都と付き合っている宣言はやめておくか。


 晴人への質問には適当に答えておく。


「昨日、コンビニでおでんを買ったら店長さんがおまけしてくれてな。フライチャイズチェーンなのに個人営業みたいなノリの店長で嬉しかったってわけだ」


「夏におでん食べているんだね」


「夏のクーラーの効いた部屋で食べるおでんもオツなもんだぞ」


「ふーん」


 適当な会話をしていると、東都が登校して来た。流石は人気者なだけあって、ク

ラスの人達から姿が見えると挨拶をされている。


 そして俺と目が合う。


「えへへ」


 微笑んでくれるだけで俺はKO!


 机に突っ伏す。


「陽?」


「死んだ」


「は?」


 なにこれ、なにこれええええええ。


 付き合ってるのを隠している男女がお互い目が合うと微笑んで挨拶。


 私達だけだね、知ってるの。みたいなノリが異常に尊い。


 影でコソコソ……なんという破壊力だ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る