第14話 去り際に尊死させようとしてくる東都詩音

 週末は東都と図書館で勉強会。


 待ち合わせは図書館近くにある公園。噴水の前で待ち合わせ。


 これってもしかしなくてもデートだろうということで、待ち合わせ時間の三〇分前に到着。


 したんだけど……。


「あ、千田くん。やっほー」


 俺より先に東都がいた。彼女のレトロワンピース姿は非常にかわいかった。


「早いねー。約束の時間、まだだよ」


「そりゃこっちのセリフだ。何分前に来たんだ?」


「んー? 一〇分前くらいかな」


 四〇分前行動か。くっ、負けたぜ……。


 負けた悔しさから、彼女を少しからかってやる。


「こんなに早く来て、そんなに俺とのデートが楽しみだったのか?」


「なっ……」


 ボフッと赤くなる東都は、あわあわと言い訳を開始する。


「や、やや、い、家にいるとおねぇがうるさいから、さっさと出て来たの」


「あ、なるほど」


 あのお姉さん、からかうの好きそうだもんな。


「そ、それを言ったら千田くんだって、三〇分前に来てるし、しかも勉強会のことデートとか言うし。千田くんの方が楽しみだったんじゃないの?」


 あ、やっべ、普通に心に思ってたこと言ってしまっていたな。


「あ、はは」


「笑って誤魔化してる」


「それにしたって、この時間じゃまだ図書館は開館してないな」


 大きく話題を逸らすと、これ以上突いても東都てきにメリットもないと思ってくれたのか、話題変更に乗ってくれる。


「早過ぎるのも問題だねー」


「ちょっとそこのベンチに座る?」


「そうだねー」


 ふたりしてベンチに腰掛ける。


 横目で東都を見てみる。


「かわいいな」


「ふぇ!?」


「似合ってるよ、その服」


「ぁ、なんだ、服か……」


「図書館にぴったりな服装だな」


「えへへ。そうでしょ。おねぇが選んでくれたんだぁ」


 嬉しそうに言う彼女。お姉ちゃんが好きなんだなぁと微笑ましくなる。


「羨ましいよ。俺にはファッションセンスがないから」


「そんなことないと思うけど」


「ファッションセンスがないから、上下チェーンの安物の服装なんだよ」


「だったら、テストが終わったら服、買いに行こうよ」


「選んでくれるのか?」


「このファッションリーダー詩音に任せてよ」


「へぇ、東都ってファッションリーダーなんだ」


「あ、や、自分で言っといてなんだけど、あんまり期待しないでぇ」


「なんだ、それー」


 あははー、なんて俺達の笑い声が公園に響いた。



 その後、東都と公園で喋っていると──。


 ぐゅるるぅぅうう。


 もの凄い腹の音が響いた。


「……」


「東都。腹減ったか?」


「もう! 女の子にそんなこと聞いちゃだめなんだよ!?」


 怒られてしまった。


「こういう時は男の子のお腹が鳴ったことにしないと」


「お腹の音を聞かれるの恥ずかちい」


「うう、おちょくられてる気がするぅ」


 ぷぅと怒った東都は、腕を組んだ。


「罰として、千田くんは私をランチに連れて行かないといけません」


「ランチな。そういえばもう昼か──」


 言葉の途中で俺の脳内があることを思い出す。


「なぁおい東都、大変だ」


「え? なに?」


「俺ら大事なこと忘れてる」


「大事なこと? ファミレスのクーポンとか?」


 この子、食べることしか考えていないな。


「図書館、とっくに開いてる」


 スマホを見せると、もう昼の一二時前であった。


「あ! やっばっ! 千田くんとのお喋りが楽し過ぎて忘れてた!」


 無意識にそんなこと言ってきて、俺を尊死させようとしてくるが、なんとか踏ん張る。


「ど、どどど、どうしよう、千田くん」


「落ち着け。今からでも間に合う。ランチは残念だが諦めて、今日はコンビニ飯にしよう」


「そ、そうだね。うん」


 俺達は急いでコンビニに行き、おにぎりを食べてから図書館で勉強を開始した。



「なん、とか、全科目やり遂げたな」


 図書館の閉館時間までみっちり勉強した。


「そう、だね……」


 お互い、へろへろの状態で図書館を出る。


「なんとかなりそうか?」


「赤点は回避できそう」


「そうか。なら、良かったよ」


「か、帰ろう」


「だな」


 今日は慌ただしい一日だったため、お互いに疲労困憊だ。


 帰り道はあまり会話もなく、東都を家まで送る。


「きょ、今日は本当にありがとう」


「お互いテスト頑張ろうな」


 そう言って手を振り合って別れようとしたところで、とことこと東都が俺の方まで近寄ったくる。


 そして、耳元で囁いた。


「テスト終わったらデートの続き、しようね」


「ふぁ!?」


 セリフもそうだが、彼女の吐息が俺の耳にダイレクトに当たってなんとも言えない高揚感に包まれた。


「じゃ、じゃぁね!」


 そう言って団地の階段をくのいちみたいに上がって行く東都。


「去り際に尊死させようとしてくるなよ」


 そう呟いて、耳元に残る彼女の吐息の感触を確かめながら家に戻った。

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