第15話 ノリが良いの尊い

 期末テストが終了した。


 成績が廊下の一階に張り出される。


「また千田が一位か」


「すげーな、おい」


「一年の頃からずっとだもんね」


 結果は見ずとも勝手に耳に入ってくる。


 特待生で入学しているからな。


 成績不振で特待生扱いじゃなくなったら人生詰むから必死だわ。


 今回のテストも無事に一位で終わって一安心。


「千田くーん──」


 わらわらと人だかりができているのを横切ろうとした時、聞き慣れた声が聞こえた気がして振り返る。


「あれ?」


 振り返った先にいたのは思っていた人物と違った。


 金髪ショートカットのクールな雰囲気を纏った美少女、西府雅さいふみやびが目の前に立っていた。


「西府?」


 クールな面持ちでジッと見つめてくるの、ちょっと怖いんだが……。


「千田くん。また一位やったな」


 クールな声と共に発せられる関西弁。


「まぁな」


「ウチはいつも二位や……」


「へぇ」


「その反応。一位より下には興味ないってことなん?」


「そもそも順位に興味がないんだよ」


 成績上位ならなんでも良いからな。


「そう。どうせ一位やから順位なんてどうでも良いってことなんか。それで二位以下の奴等なんて眼中にないってことなんやね」


「いや、そんなこと一言も言ってなくない?」


「そんだけ成績ええんやったら、あるいは……」


 ぶうぶつと呟きながら西府は、スタスタと去って行った。


 その後ろ姿はやたらクールだね。


「千田くん」


 次こそは思っていた声の主の東都が目の前に現れる。


「おう、東都」


 東都は西府の後ろ姿を物珍しそうに眺めていた。


「西府さんが男子に話しかけているのって初めて見たかも」


「確かに、西府から話しかけるってのは珍しいのかもな」


 それでも何回も告白されているらしい。


 ま、あの整った顔に成績が良ければそれも頷けるってもんか。


「そんな美少女に話しかけられた感想は?」


「めっちゃ良い匂いした」


「ふぅん」


「あの東都さん。ジト目で頸動脈をクイっとするのやめてくれません?」


「千田くんが男子ノリを私に発動するのが悪いのです」


「だったら、さっきの質問はなにが正解なんだ?」


「……」


「いだだっ! なんで頸動脈を掴む力を強めるんだよ」


「今は男子ノリだからね。ほら、男子ってマシマシ好きでしょ」


「ラーメンで言えば、麺かため。背油多め。味濃いめ。確かにマシマシが好きだな」


「だったら、これも好きでしょ?」


「その理論で言えば好きになる。よし東都、頸動脈マシマシで」


「あいよ♪」


「あぎゃー! ラーメン屋にいそうな女将っぽい返事やめてー!」


 頸動脈が逝った──とか、男子ノリからいつものノリに変わる。


「そういえば成績見たよー。一位おめでとう」


「ありがとう。東都はどうだった?」


「全教科、赤点回避」


 ブイなんて小さく言ってピースサインを送ってくる。


「良かったな。赤点だったら夏休みに補習だったんだろ?」


「そうなんだよ。これも全部千田くんのおかげだよ。本当にありがとう」


 そう言うと、少しばかり頬を赤く染めて周りをキョロキョロとする。


 すると、耳元で小さく言ってくる。


「これで心置きなくデートの続き、できるね」


 えへへと可愛らしく微笑んでくれる。


 どうやら俺は彼女の耳打ちに弱いみたいだ。心がふわふわする。


「だったらさ……今日はお互いにバイト休みだし、今日の放課後、続き、どう?」


 照れながらこちらから誘うと蔓延の笑みを見してくれる。


「うん。今日、行きたい」


「じゃ、決まりだ」


「放課後楽しみにしてるね」

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