第20話 君のいない左側

 いつも通り、7時のバスに乗り、通学駅前を目指して行く。夏休み前には、俺の座る左側にいた、ちょっとだけ生意気な、とびっきり可憐な少女はもう、いなかった。

 決意を込めて、左耳にピアスをした事を少女に知らせるには、どうすれば良いか考えた。出来得る限り、あの子に会わずに、俺の左耳に着けたピアスの事を知らせるためには、共通の友人を介するのが、得策だと思いついた。 あの子の友人となると、数は思いつかない、寧子しかいない。どうやって、渡りを付けようかと思っていたら。寧子の付き合っている、男に思い当たった。

 和君だ!

 和君は、田嶋和人たじまかずとと言う、中学が同じで、カイタローと仲が良かった。はず?何れにしても、カイタローに相談だな!俺は、酷く寂しくなってしまった左側を見て、無くしたものの大きさに呆然とした。

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 俺は、工業高校軽音部の部室にいた。

 「おやおや、我らが一寸ベーシストは、夏の間に色気付いた様で!」

 「おっしゃれ〜、片耳ピアスですかい!」

 「あぁ、色々あったり、無かったり、楽しい話じゃ無いけど、聞いてくれや」

 「端的に言えば、お前らの心配した通りになった、てこと」

 「俺は馬鹿だから、拓磨も騙し甲斐が無かったよな、...うへヘっ」

 「でもさぁ、あの子は、俺を笑ったりしねーよ、誰が何と言おうとだ!」

 「あぁ、そうだとも、そう思うよ、俺も」

 「豚鼻ガリコは、そんな玉じゃねえよ」

 「ふふっ、言い方おかしくね」

 「それに、誰が、豚鼻ガリコだ!」

 「それで、一寸さん、したいの?」

 「実は、俺もう完敗だから、あの、二人には近づきたく無いんだ」

 「でもね、あの子が、俺に恨まれていると思ってないか、気にかかるんだ」「お人好しの、余計なお世話かも知んねーけど、あの子には、俺なんかのことで、気を煩わせたく無いんだ」

 「まぁ、そだね、余計なお世話」

 「一寸さんが思うほど、気にして無いかもね、

 「嫌な、言い方する....地味に、落ち込むぜ、それ」

 「まっ、傷心のリリックメーカー、次回作にご期待、つーことで、お前の気を済ませるのに、なんか、出来るの?俺たち?」

 「俺は、あの子に、”俺は、もう平気だぜ!ナーンも気にして無い!“って感じ、伝えたい」「だから、片耳ピアス、さりげに、見せたい」

 「なんか、意味あんの?そのピアス?」

 「その...さぁ、友情の証し、ってことで、あの子と贈りあったんだ」

 「何だよ、それ、今っさら、友情の証し?」

 「痛々し過ぎて、笑えもしねーぞ、一寸さん」

 「言ってくれるな!そこんとこ」

 「尚更か〜、見栄は男の甲斐性かいしょうか!」

 「顔で笑って、心で泣いて!」

 「やめ、やめ、昭和臭が、酷くなる」

 「背なで、泣いてる、唐獅子.....ぼ」

 「それ、ダメなやつ!」

 「息できね〜ほど、臭くなるから!」


 「それで、どう?する?、どーやって、一寸さんの”左耳“を見てもらうの?」

 「虫メガネ、いる?」

「そこまで、小さくねーわ!」

 「ガリコ、ここ呼ぶ?」

 「こんな、飢えた狼の巣窟に、子豚ちゃんは、呼べね〜」

 「あっ!そだ、そだ、俺の実のかーちやん、さ、自治会委員やってて、今度、地域ふれあい交流会を小学校の体育館でやんだって!」

 「おい、ノゾキヤロー、お前に義理の母が居るなんて、寡聞かぶんにして存じ上げないぞ!」

 「そこ、いい、無視するところ!」

 「そこで、うちらのバンドのデビューとさ、一寸さんの”左耳ピアス“の、お披露目しよーぜ」

 「で、それ、いつやんの?」

 「来週!土曜日!9月14日!」

 「そ、そんな、近くで、エントリー出来んの?」

 「聞いちゃ見るけど、いつも出る人少ないから、飛び入り歓迎って言ってたぜ!」「俺は、毎回思ってたんだ、ここで俺らのバンドをデビューさせようかと」

 「嘘つき、俺らのバンド今年、出来立て!、太鼓もいないし、名前も無い!」

 ノゾキヤローが、応えて言う。

 「太鼓なんだけどさ、バイト一緒にやった、菓心さん、覚えてるよな」「あの人の妹が、俺らとタメで太鼓叩くらしいんだけど、今、一緒にやる仲間が、居ねえんだって!」「菓心さんが、俺に激似で可愛いって言ってた」

 菓心さんの、真四角、かく、かくの外観を、皆、思い出し、ビジュアル面は評価しないと心に決めた。

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 翌日、手の早い.....もとい、仕事の早いノゾキヤローは、交流会のエントリーとバンドの太鼓の面接&音合わせの予定まで組んできた。

 「実のかーちゃんに、聞いてみたら何の問題もないから、当日、朝、打ち合わせに来いだってよ」

 「ノゾキヤロー、お前に義理の母がいるとは、......」

 「そこ、流すとこ、面倒くせーから、

 「んで、バンドの太鼓だけど、菓心さんの家って、和菓子屋さんなんだけど」

 「知ってる、この街の北上町だよね」

 「うん、結構、有名らしい」

 「こっから(工業高校)だと、少し遠いけど、その、北上町商店街にある楽器屋さんと、親父さんが親しいんだって」「そいで、その楽器屋さんのスタジオを借りられるから、明日、学校終わりに来てくれって」

 「菓心さんが言うには、俺たちのオーディションだから、ギター持って来い!だって」

 「おっ、言うじゃねーか」

 「俺ら、の実力見せてやるか?」

 「何故、疑問形?」

 「お約束、お約束!」

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 更に、その翌日、学校帰りに俺達は、自転車3台連ねて、北上町商店街を目指した。俺達が、楽器屋さんに着くと、菓心さんが店の前に立っていた。隣りには、背の高い、スレンダーな美少女が高校の制服で立っていた。色白眼鏡で、ポニーテール!どこが、あんたに、激似なんだ!爪の先ほども、似てねーぞ!本当に、兄妹なのか?と、心の中で、絶叫しながら。

 「お久しぶりです!菓心さん!」

 「おう!久しぶり!」「こいつが、俺の妹、菓美かのみって言うんだ」

 「北沢きたさわ菓美かのみです」

 「よろしく、お願いします」

 「こちらこそ、宜しくお願いします」

 俺達は、早速、スタジオに入り自分達のギターをチューニングして、実力を見せ付けてやった。

 「まあまあ、かな?一応、合格ね!」

 「よろしく、お願いしま〜す」

 滅多に無いが、三人の声が揃った。

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 ことき、俺は、知らなかった。

 この後も、1年以上も知ることが無かった。

 ガッコと拓磨は、仲良く付き合っているとばかり、思い込んでいた。

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