第16話 シャボン玉揺れた その一

 今日はガッコと千葉のTokyoに行く日だ。家の親父も母ちゃんも、ツアーバスの出る所まで、送ってくれると言ってくれたが。どうせ、ガッコが見たいだけだ!減るから!ヤダよ!と言ったら、親父に軽く引っ叩かれた。朝6時のバスで、俺の通学駅前に行き、そこでツアーバスに乗り換える。後は、高速道路で、千葉のTokyo浦安ランドへ一直線だ。

 最近では、ガッコと同じ通学バスで通っていた時期があるから。こんな感じでガッコの乗るバスを待つのは、回数だけは重ねたが、嬉しいドキドキは止むことがない。このバス停から見ると、二つ手前のカーブに、ガッコを乗せたバスの先頭が覗くと、俺の嬉しいが溢れ出す。

 バスがガッコを連れて来た。

 俺が、バスに乗ると、すぐにガッコに気づいた。あれ?いつもなら、こっちを見て合図をくれるのに?俺は、早足でガッコの元へ行こうとした。と、同時にバスが発車し、前のめりになりガッコの座っている席の、隣りの席の背もたれに、勢いよく手をついてしまった。驚いた様に、俺を見るガッコ、目が腫れて、赤くなっている。

 「どぉした?泣いたのか?」

 「何でもないよ!今日が楽しみすぎて、良く寝れなくて!」「それだけ......」

 「拓磨か?」「何か、言われたのか?」

 「違うよ!本当にだよ!」「マー君は、関係ない!」

 「そう、なら良いよ、ごめん拓磨のこと言って」

 「私こそ、ごめんなさい、ちゃんと言えれば良かったのに.....」「ちょっと、寝るね」

 「うん、着いたら、起こしてあげる」

 「うん.....」

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 私、は6時のバスに揺られながら、ミー君と会った翌日、マー君に電話した時のことを思い出していた。

 「今晩は、マー君、今、大丈夫かな?」

 「うん、大丈夫だよ」

 「昨日、ミー君と話してね、千葉のTokyo浦安ランドに行く日が決まったの」

 「ヘーっ、そうなんだ、それで、いつなの?」

 「8月21日の水曜日」

 「匠とは、会わなかったの?」 

 「うん、電話で話しただけ」

 本当は、会ってた、でも、それを言えば、ミー君との秘密がばれちゃう。

 「それじゃぁ、当日は、一月振りぐらいだね!」

 「私たちは、もっと、会ってないよ」

 こう、言わないと、マー君のこと思って無いみたいだから。

 「そうだね、僕の都合ばかり優先してるから、君に悪いとは思ってるんだよ、これでもね!」

 「ごめんなさい、そう言った意味じゃなくて、ただ、寂しいだけ」

 本当に、寂しいのか分からなくなっちゃった。「マー君の重荷に、なりたくないし」

 「ありがとう、じゃぁ、匠と会った翌日、22日に、僕の部屋に来ないか?」

 エッ、何で、次の日?部屋に呼ぶって、そういうことだよね?

 「随分と、久しぶりだけど、中二の時以来かな?」

 あぁ、あの時初めてキスをした、触れるだけの、幼いキスをした、マー君と二人で。

 「二時ごろに、おいでよ、家族は誰もいないから、遠慮しなくて良いから」

 あぁ、やっぱり、そうだ、嬉しいはずなのに、胸が苦しい。

 「分かったわ、お土産持って行くね」

 「あれっ、催促したみたいになっちゃたね」「良い子には、ご褒美あげなきゃね」

 「私、良い子かな?」

 私は、悪い子だ!ミー君を裏切る、悪い子だ、でも、マー君を裏切らないために!しなければ!

 「大丈夫!悪い子には、罰をあげるから」

 これは、罰以外の何でもない!マー君は、意地悪だ、今日、言うなんて!

 「どちらかは、絶対、君のものだよ」

 に、ならないために、罰をうけなきゃ!

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 ミー君が待っている、バス停に着いたことにも気がつか無いで、マー君との電話を思い出していた。ミー君が、隣の席の背もたれに手をついた音に驚いて、顔を上げたら、ミー君と目が合った。ミー君に私の目が赤く腫れていること、きっと、昨夜泣いていただろうことに気づかれてしまった。ミー君は、私が、マー君に何か言われて泣いてしまったと思ったみたいだ。

 それは、違う、私は明日マー君の女になる、少し前なら、恥ずかしくも嬉しいことだったはず。きっとそれは、今日ミー君と会ったとして、楽しく一日中遊んでも、変わらない気持ちだった。でも、気づいてしまった、私は、ミー君も好き、明日、マー君に抱かれる私が、今日はミー君と楽しく過ごさねばならない。恐らく、ミー君が望まないことを明日、マー君とするのだ、しなければならない、じゃないことの証に!初めから決めていたじゃないか、恋人はマー君、ミー君は、ただの、友だち.....

 私は、ミー君を好きな気持ちを殺して、友だちとして付き合うんだ!あの、ネックレスを本当に、友情の証にするんだ!

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 ツアーバスに乗り換える駅前に、到着した。隣の、ガッコを見ると寝てはいない様だ。

 「ガッコさん、乗り換え駅に着いたよ!」

 「うん!大丈夫、指定されたバス停に行こう!」

 「楽しみ〜」

 俺たちは、乗って来たバスを降りると、指定された番号のバス停に、停車中の大型バスに乗り込んだ。さすがに、夏休み期間中でもあり、中学生、高校生位のグループや、小学生位の子供連れの家族、それと、俺たち見たいな“カップル”が多く見られた。夏休み期間中でも、平日の今日は、家族連れは少ないようだ、そもそも、車がないと生活に不便なこの地方では、家族のレジャーの移動手段は自家用車、一択と言って過言でないはずだ。

 大型バスの、乗り心地は通学バスとは比べものにならないくらい良かった。浦安ランドまでの約二時間、俺たちは、取り止めのない話をした。バイトで知り合った人たちや、一緒にいったカラオケの話し。何回話したかも、分からなくなった話し、を繰り返した気がする。兎に角、お互いに考えることを拒否して、無理にも明るく、楽しくを演じることに、夢中だった。

 浦安ランドの一日は、こんな状態の俺たちでさえ楽しくさせる、魔法だった。アトラクション待ちの時間でさえ、期待で一杯、ガッコの笑顔が見放題に見れて、しかも、混雑した園内を歩くのに、どちらともなく手を繋ぐ。

 手繋ぎデートの、完璧オプション付き、浦安ランド恐るべし!

 “電飾行進”から“ファイアーワークス”まで、十分に堪能して、俺たちは帰途についた。

 帰りのバスの中では、二人とも本当の意味の“夢の中”だった。乗り換えでも、最終バスの一本前に乗れた。俺は、自分の降りるバス停をパスして、ガッコの降りるバス停で、一緒に降りた。お互いに、定番のお土産で両手を一杯にして、並んで歩いた。ガッコの家の前まで送りたかったが、近くなると。

 「ミー君、ありがとう、ここで、良いよ、またね!」

 「うん、ありがとう!また、絶対、行こうをぜ!」

 「お休み(お休みなさい)」

 俺は、自宅迄の10分間を、楽しかった想いを抱えてたまま。目の前と言わず、全身に纏わりつく、正体の見えない不安の直中ただなかを歩いた。


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