第4話 シャボン玉の日々 その二

 とにかく我慢が出来なかった。野曽木のぞき小俣おまたの言う通り。先週の土曜日に、親友である上沢拓磨うえさわたくまに御膳立てしてもらって。彼の元カノ、住家永子すみええいこ、通称ガッコにタドタドしく告って。「友だちで、いようネ!」砲の直撃で撃沈したのだ。これは、紛れもなく事実。容赦無いくらい、本当の事だ。認めよう、俺も男の端くれだ。でも、事実ではあっても、真実では無い。

 「んで、なにが言いたい訳、分かるけど」

 ノゾキヤローが、しれっと言った。

 ノゾキヤローこと、野曽木のぞき明太あきとは、俺たちのバンドのヴォーカルとギター担当の長身痩躯ちょうしんそうくのイケメンだ。

 もう一人、リードギター担当の小俣おまた快太郎よしたろう、男の尊厳をミルクで濡らした男だ。身長はメンバー中で一番高い。ギターよりジャージとか柔道着がお似合いだ。俺達のバンドには、ドラムがない。常時募集中だ、ついでに、名前も無い。当然だが、人前での演奏経験も無い、でも練習だけはわりと真面目だし、オリジナルの曲はすでに二曲もある。作詞は俺がしている、俺はそう言うことが割と好きで、自分でもおかし〜んじゃね、と思うぐらい恥ずかしさも感じ無い。プロを目指す程の熱も才能も感じない俺たちは、卒業までには1度くらい人前で演奏する事を目標にしていた。

 「真実は一つ、俺とガッコは友だち、だが、二人っきりで遊んで、しかも、楽しかったんだ」

 「お前だけじゃねーの、楽しんだのは」

 「豚鼻ガリコは、気の毒チャンかもよ」

 「ケンカジョートーか、ノゾキヤロー」 

 「it’s just a joke」

 「二度は、ネーかんな」

 「よろしい、おめえがよ、そんでいいならよ、オレらはそんでいいっぺよ」

 「まぁ、投げやりな、お言葉」

 「いや、マジでよ、ガッコに会いたくて、声を聞きたくてたまんねーの」

 「骨は拾ってやるよ!頑張れ」

 「今晩、電話して、土曜のケアと、次の約束まで決めれ」

 「シタラ、スタバで、チャでもシバイテコ」

 「別に、上手いこと言えてねーからな、ノゾキヤロー」

>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>

 土曜の夕方にたくみから、電話があった。時刻は、18時を少し過ぎたあたりだった。その日、匠とガッコが会うことは、二人から聞いていた。今迄の時刻まで二人でいられたのなら、初ディトは成功したようだ。

 「楽しかった?」

 「モチノロンダ!ガッコの事は、俺にまかせろ」「お前には、絶対返さね〜ぞ」

 モチノロンダって、いつの時代の人だよ。

匠の言葉のチョイスは、相変わらず独特だ。

 ガッコと、どういった感じの一日を過ごしたのか、匠は本当にわかりやすい。きっと、楽しかったに違いは無いんだろうが、僕を煽って来る感じはガッコとの関係が思う様に進んで無いのだろう。ガッコには、友だちのままが良いとでも言われたのだろう。

 まったく、あの二人と来たら予想通りの動きだけしてくれる。あの二人は僕にとって、とても大事な存在だと、今は決して手放せない、親友と恋人なんだと解っている。でも、あの二人と僕は近い未来で、サヨナラしなければならないと分かっている。僕は二人に、絶対僕のことを忘れて欲しく無い。

 僕のする事、二人に僕がプレゼントするモノを他人ひとが知れば、自分勝手な奴だとそしられに違いない。それでも、あの二人なら僕のすることを怒ったり、恨んだりしないのも分かるんだ。家族以外で、いや、家族以上に僕のワガママヲ、キイテクレナケレバ、ナラナインダ。

 僕の恋人と、無二の親友である以上は。正直言って、僕には匠のために、してあげることに迷いは無い。男同士だから確信を持って、匠のためにと言える。でも、ガッコのためになるのかは、確信が持てない。

 きっと、謝る必要があるとすれば、ガッコにだけだろうと思う。そのための時間は、僕との時間は、匠とのそれより十分に長いはずだ。僕とガッコは、町内の保育園から一緒だった。因みに、匠は別の幼稚園に通っていた。ガッコは、その頃から身体が小さく。鼻がちょっと上向きで、大きめな事を気にしてか、オドオドしている様な女の子だった。そんなだから、いじめっ子に目をつけられて、泣かされる事もあった。僕は、その頃からお節介で、ガッコを守ってケンカしたりもした。そんな訳で、ガッコは僕に懐いていた。ガッコと言うニックネームも、僕がつけた。

正直センス無いと、今は思う。小学校は同じ町内の市立小学校へ、入学した。匠とは、ここで一緒になった。実は、ガッコのことが気になり出したのは、5年生の時一緒のクラスになった匠の所為せいだったりする。

 僕は、その前の一、二年生の時、匠と同じクラスだったが。兎に角、匠は分かりやすいくらい、ガッコを意識していた。ガッコに近づく為に、僕にまとわりついて来たのは丸わかりだった。それなのにと言うか、それだからと言うべきか?嫌な感じじゃなくて、寧ろ好ましく思ってしまった。ただ、自分のモノを取られる様で、ガッコを匠に渡すつもりはなかった。

 中学で、ガッコに告白して付き合う様になったのは。匠がガッコに夢中なのを、知っていたからだった。勿論もちろんガッコ以外には、好きな女の子はいなかったが。

 本当のことを言えば、二人が付き合い出して、僕がはじかれるのを恐れたからだ。今になっても、僕は匠、程にはガッコのことを好きじゃないと解っている。

 今回、ガッコに僕と別れて匠と付き合えと言ったのは、ガッコを一番愛しているのが誰か気付いて欲しく無いからだった。もしも、気付いてしまっても、その上で僕を選んでもらう為だった。勿論もちろん、そのことで二人が傷つけ合うことも解っている。

 それでも、二人がいつか結ばれることを信じているし、誰より強く願っている。でも、それは今じゃ無いし、そんな二人の姿を見る資格が僕に無いことも解っている。ある意味で、僕は匠であり、ガッコだった。

 だからこそ、僕は甘えたいだけ二人に甘えることが許され、二人は僕のために精一杯の愛情を注がなくちゃならないんだ。

 


 

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