第3話

 健康になってから、20年が経過した。

 両親は死亡し、家督は従弟が引き継いだとの連絡が来た。まあ、家督は私が引き継ぐはずだったけど、一族で話し合ったんだろう。私に不満はない。家督を継ぐための、特訓など受けていないからだ。どうせ、恥をかいて隠居に追い込まれる未来しかなかっただろうし。

 私は、引き籠りニート状態だ。

 屋敷の使用人も減って行き、今や誰もいない。この時代の人は、そんなに長く生きられなかった。


「まあ、建屋だけあればいいし? それよりも、藪医者の研究だよね」


 幸いにも、藪医者はこの屋敷に住んでいた。道具一式や薬の素材などは残っていた。

 そして、日誌を見つけた。


「あの藪医者は、薬を二つ作っていたんだな~。体を頑丈にする薬と、それを制御する薬か~。体を頑丈にする薬は、どうやら外国の風土病みたいだね。どうやって病原菌を運んだのかな?」


 その記述には、人間を怪物にする風土病があり、怪物に成り下がった者たちと、交流があったらしいことが記されていた。その怪物たちは、長寿であるが、陽の光に弱いと記載がある。

 私は、その者たちの血を与えられたみたいだ。疑問の一つが解けた。


「書物には、手が三本とか、目が三個あるけど、子供だましだな。人間は変身できない。だけど、20年経っても15歳の外見の私は、怪物になったといってもいいんじゃないかな?」


 もう年単位で、誰とも関わっていない。

 食事ですら、自分で用意している。

 そして……。


「人間の血肉を好んで喰う怪物? 私は、そんな怪物に成り下がっていたのか?」


 欠点として、人の血を定期的に摂取しなければならないことと、陽の光を浴びられないことがあった。

 陽の光は、感覚的に分かるんだけど。

 だけど……、人の血か~。定期的にとらないと、貧血症状が起きると記載されているよ。ずっと、獣の血で代用していたけど、人の血に何かあるのか?





 夜になり、活動開始だ。

 今私の住んでいる屋敷は、放棄された都の真ん中にある。疫病で滅んだ都だ。

 多少だが、人は住んでいるのは知っている。


「鳥とか犬を食べてたけど、今日は人の血を喰らってみるか」


 考えていると、悲鳴が聞こえた。


「あ~れ~」


 その場所に向かうと、うら若き娘が、数人の無頼漢に襲われていた。


「待て待て! 集団暴行は見過ごせないぞ!」

「なんだ手前は?」

「混ざりたいんじゃね? 順番な、ちょっと待ってろよ」


 聞くことがないね。

 私が腕を振るうと、無頼漢たちが吹き飛んだ。

 もう人の域を超えた膂力だね。


「ひ、ひぃ~!?」


 娘が、半裸で逃げて行く。それと、貨幣を貰っていたのか。邪魔しちゃったかな?


「て、てめぇ!」


 声の方向を向く。

 無頼漢たちが、武器を抜いて身構えていた。

 不意打ちでもよかったんだけどな~。

 それと、拳に血が付いていた。

 舐めてみる。


 ――ドクン


 私の体が、反応を示した。

 そう……、人の血を摂取すると、肉体を自在に変えられることが分かった。

 これで私も怪物の仲間入りか。


 私は、腕の長さを三倍にして、無頼漢たちを切り裂いた。


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