第2話
女の藪医者を殺してしまった。イラついていたのだけど、体が動いたのが問題だった。
怒りに任せた行動だったが、早計だったかもしれない。
これで親族も、私を見捨てるだろう……。
「これで、後3日の命か……。自業自得だが、もっといい医者はいなかったんだろうか」
後の祭りだが、後悔が私を襲って来た。
下女を呼び、死体を片付けさせる。
屋敷は、大慌てだ。
国一番の薬師を殺してしまったからね。
だけど、私はペテン師だと判断した。薬に効果などない。
屈辱の中生きるよりも、潔く死んでやろうと思う。屋敷の連中も、清々するだろう。親族もだ。
その後、眠りについた。することも、したいこともない人生だった。和歌ぐらい詠みたかったよ。辞世の句は、誰も記録してくれないだろうな。
残り3日だけど、それでも私の心は冷静になれた。穏やかに逝けそうだ。
◇
目が覚めた。なんとなく、スッキリしている?
「あれ? 体が軽い? 動けなくなるんじゃなかったのか?」
藪医者が死んでから、2日目の朝日が昇った。
「話が違くね?」
超体調がいいんだけど?
床から離れて、ストレッチを行う。下女が、怪訝そうな顔で俺を見ているよ。
「食事を用意してくんない? 肉が食べたい。生でもいいよ」
「は、ははっ。少々お待ちください」
待っていると、出て来たのは、鴨の姿焼きだった。まるで、クリスマスチキンだよ。
しかも、内臓を取ってないし。まあ、内臓も食べられないことはない。何でもいいから、肉を口にしたかった。
「もぐもぐ。火の通しが甘いね。半生だ。でも肝臓が美味しいかもしんない」
「も、申し訳ございませぬ。料理人にはきつく言いつけておきますゆえ……」
「ああ、いいよ。美味しいし。急だったしね。次からの食事も肉をお願い。猪とか兎が食べたいな」
米と汁物は残した。美味しいと感じなくなったからだ。指示を出して、肉のみの食事を用意させる。量を所望したら、熊肉が出て来たよ。獣臭かったけど、問題なく美味しく食べる。塩を振ってあれば味は問題なかった。ボリュームも満点だ。
料理人は驚いていた。もしかして、下ごしらえしない熊肉は、嫌がらせだったのかな? 私は、腐ってもこの屋敷の主なんだよ?
癇癪持ちの私は、屋敷で恐れられている。
だけど、今日は気分がいいので許してあげよう。下女には、罰を貸さなかった。
それが、屋敷の者たちに更に不安を与えたのは、後から知ったことだった。
◇
10日が経った。
私は、マッチョになっていた。
屋敷中、変な噂が立っているほどだ。
「どうなってんだ? あの薬を飲まなくなったら健康になったよ……」
体の痛みも消えていた。
食事も普通に摂れる。内臓も健康になった?
だけど、一つ問題があった。
「感覚で分かる。陽の光に当たると、日焼けや火傷じゃ済まないな。死亡しちゃうじゃん。どうなってんだよ」
あの藪医者は、私の体に何をしたんだ?
薬を飲まなくなったら、健康になった?
毒を飲まされていた疑いもある。だけど、床に伏していた時に、陽の光を避ける必要はなかった。体を動かせない欠点が消えて、即死しそうな弱点が増えた。
自分の体のことだ。調べないといけないな。
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