吸血鬼が陽の光を克服した世界

信仙夜祭

第1話

 私は、生まれた時から体が弱かった……。

 医者に二十歳まで生きられないと言われて、毎日処方された薬を飲むだけの毎日だ。歩くのもしんどい。産まれてから、屋敷の外に出ることもできなかった。

 私の主治医に訪ねてみる。


「この薬は、本当に効いているのか? もう年単位で飲んでいるのだぞ?」


「飲まねば、明日は体を起こすこともできなくなるでしょう。明後日には、意識が途切れて、明々後日には、心臓が止まるでしょうな」


 くぅおの~、藪医者が~!

 だが、従う以外に選択肢がなかった。明日、本当に動けなくなったら困る。

 ううう……苦い。


「もうちょっと、苦みを抑えてくれないだろうか? つうか、材料はなんなんだよ? 危ない薬じゃないよな?」


 芥子けしの実などではないと思う。痛覚が和らぐなどの症状は起きないからだ。一応、まともな薬なんだと思う。


「主な材料は、彼岸花にございます。世にも珍しい。私だけが知る、希少な……ね」


 この藪医者は、一族から多額の金銭を受けているのを知っている。

 私の介護をしたくない、家族や一族……。

 恨みが募って来た。


 文句を言いながら、何とか薬を飲み干した。もう、胃腸が受け付けない。戻しそうだけど、我慢をする。一時間もすれば、吐き気も収まった。


「それでは、お体を拭きましょう。清潔に保つのも健康の秘訣です」


 この女の藪医者は、まだ15歳の私の体を必要ないほどに触って来る。

 まだ20代だとは思うが、平安時代と呼ばれる今であれば、行き遅れになるのだろう。

 話を聞くと、薬師である父親の秘術を受け継げたのが、この女の藪医者だけだったらしい。

 他人に薬師の奥義を渡したくないために、女だてらに家を継いだのだとか。


 そして……、何年か前に疫病の特効薬を作ったらしい。

 らしいというのは、実際に効いていたのかどうか不明だからだ。

 疫病は、冬に蔓延して、夏になると沈静化する。

 効果のありなしが判断されるのは、次の年になるのだ。そして、次の年の冬には、発生しなかった。ただそれだけだ。

 国としても、この女薬師に頼りたい気持ちがあるんだろう。


(この者は、貴族お抱えの薬師だが、また疫病が流行れば、私を置いて行くのだろうな)


 欲情した表情の女薬師に体中を拭かれる屈辱。匂いでバレてんだよ。つうか、その荒い息を抑えろよ。

 しかし、私のあそこはピクリとも反応しない。

 触られた程度で反応するほどの体力がなかったからだ。


「さあ、綺麗になりました。今日は、お休みください」


 新しい服を着せられて、寝かされた。

 私はイライラしていた。生理的にこの女の藪医者を受け入れられなかったからだ。

 性欲は皆無だったが、怒りは沸騰していたのだ。

 目の前が真っ赤になった。私の中で何かが弾けたのだと思う。


 次の瞬間に、藪医者の後頭部に茶碗をぶつけていた。

 茶碗といっても、焼き物で重く硬い。

 藪医者は、首の骨が折れたらしく、ピクピクしている。


「あれ? 私はこんなに動けたんだっけ?」


 起き上がるのも一苦労だった体だけど、一瞬だけ体が動いた?

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2024年12月2日 00:12
2024年12月3日 00:12
2024年12月4日 00:12

吸血鬼が陽の光を克服した世界 信仙夜祭 @tomi1070

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