1-8.腕がなりますね
一通り情報を聞き出した三人は早速行動に移り、偽の鴉のアジトへ足を運んでいた。
さっきの二人組はというと流石にやっていたことがやっていたことなのでお縄についた。二人は情報を吐けば見逃してもらえると思ってたのか、ユアたちに酷い罵詈雑言を浴びせてきた。だが、ギオンと同じくらいのガタイの警官に「うるさい!」とゲンコツをくらったのち連行された。
日は落ち始め、夕焼け空となっていたが、ユアはそんなことは気にも止めず、浮き立った足取りでギオンたちの前を歩いている。
後ろからでは見えないが、欲しかった情報が手に入って明らかにご満悦で調子に乗っているのだろう。鼻歌まで歌っている。呑気なものだとギオンは本日何度目かもわからないため息を吐きたかった。
シュウダイはウキウキしているユアの後ろ姿を見て、ギオンに小声で質問した。
「おい、あの子っていつもあんななのか?」
「知らん。オレもこうして彼女の悩み解決に同行するのは初めてだ。こんなに、無謀で馬鹿げた作戦ばかり実行していたとは、呆れたものだ」
「そ、そうかい」
ギオンもユアの行動にはだいぶ思うところがあるようだ。シュウダイは「ギオンの旦那ですらこんな感想を抱くようでは、この後のことが不安になるな」と額に手を添えた。
ユアはそんな二人の心配をよそに、山中の少し明るくなっている部分を見つけ、指を指した。
「ギオンさん、シュウダイさん、あそこを見てください。光ってます。あそこが偽の鴉のアジトがあるところかもしれませんよ」
「お、おう。そうだな」
そりゃ見ればわかるよ、とシュウダイは内心呆れていた。気を取り直して「ところでユア、アジトにカチコミに行くってことは、算段はあるのだろうね?」とこの後の動きについてユアに質問した。しかし、
「算段? 何の話ですか?」
ユアはぽけっとした表情を浮かべて二人の顔を見上げた。とても可愛らしい表情だがギオンには通用しない。またしても彼の大きな手のひらで頬を握りつぶされ、「ぶぅっ」と可愛くない声を漏らした。
「何の考えもなしにカチコミする気だったのかキサマは」
「は、はって、中に入ってあはれあわれは、へんふ解決ではあいまへんか?」
「……」
頬を握り潰されもはや何を言っているのかわからないが、ギオンは今回も彼女への説得を諦めて、ポイっとユアの頬を乱暴に放り投げ、再び歩み始めた。
ユアは頬をさすりながらトテトテと歩き、先行するギオンの横に着いた。その姿を見ていたシュウダイは「躾をされている最中の犬のようだ」という感想を抱いた。
ギオンは足を止めず、正面を向いたまま改めてユアに確認した。
「オレたちが暴れ回ってアジトの中を荒らし、その最中で谷川の娘を見つけ出し救出する。やることはそれだけか?」
ユアは顎に手を当て、「うーん」と少し難しい表情を浮かべて首を傾げたあと、首を横に振った。
「できることなら組織もろとも壊滅させたいところですね。それが、谷川さんの悩みを完全に取り除くために必要なことでしょうから」
ユアはいつになく真剣な顔をしていた。作戦はあまりにも無謀だろうが、本人が持つ「他人の悩みを解決する」という思いはかなり強いようだ。ギオンはユアの気持ちを尊重し、それ以上は深く聞き込まなかった。少なからず、そこには信頼関係があった。
三人はそのまま歩み続け、およそ一時間ほどかけてアジトの前に到着した。偽物の鴉は現在使われていない鉱山を再利用し、そこを根城にしているようだ。見ると山の所々に穴が空いており、そこから光が漏れていたようだ。それなりに広そうだが、隅々まで使われているということはないだろう。
三人は近くの茂みに隠れ、ギオンが先頭、シュウダイは中衛、ユアはその後ろの並びで突撃するということで話を進めていた。特に異論もなく、三人は茂みから出るとアジトの前にいるマスクをした見張りの男に近づいた。
マスク男は不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに持っていたナイフを突き立て警告してきた。
「下がれ、ここは鴉の拠点だぞ。用がないならとっとと帰ることだな」
これにはシュウダイが応じた。
「ん? なら、おれの顔に見覚えはないのか?」
「あん? 誰だよお前」
「あーらあら、そりゃ残念。不合格だ」
「は?」
次の瞬間、シュウダイは目にも止まらぬ速度でマスク男のナイフを右脚で蹴り上げた! バシッという音を立てたナイフはくるくると宙を舞い、柄の方からカランっと地面に落ちた。
「なっ!?」
マスク男が狼狽えていると、シュウダイは怪しげに静かに笑いながら彼を睨みつけた。
「あのな、おれ、鴉の幹部やってんだよ。勝手に鴉名乗って好き放題するとは、いい度胸してるんじゃない?」
「はぁっ!? に、偽物じゃねーし!!」
「鴉の名を語って人攫いした挙句、おれらが頂戴するはずだった借金の横取りか。なるほど、こいつぁ、あれだな? お仕置きが必要だなぁ……っ!」
シュウダイはサッとローブの裏から先端が鋭く尖った暗器を一本取り出し左手で掴むと同時に、右手でマスク男を壁に押し付け、暗器を思いっきり振りかぶり、マスク男の服の裾目掛けて突き刺した!!
「いっ!?」
「さぁーて、これでお前は身動きが取れねぇなぁ?」
「な、なん!? ふざけやがって!!」
マスク男は反撃しようと手を伸ばすが、シュウダイはそれを嘲笑うかのように「おっとっと」とわざとよろめくフリをしながら後退した。
「さてっと、んじゃ入るとしますか。ギオンの旦那、ユアちゃん」
「あぁ。久しぶりに、大暴れできそうだ」
「では、後ろはお任せください♪」
こうして、三人による偽鴉撲滅大作戦が開幕した!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます