第85話 でらきなのところへ
特別な条件の話といっても、これに関してはまだあまり目を通していない。
そしてその理由を説明するには、マイハウスの購入方法の予想の流れを説明する必要があった。
「それで、残る特別な条件についての話だけど……そこに関しては、一旦考えないようにしてる」
『考えなくても大丈夫なの?』
「うん。これは四軒目の話で条件がひっくり返ったところにも通じるんだけど……」
そう前置きをして、その流れの説明を始める。
「最初にマイハウスを買えた人の話だけだとさ、どこの行動で条件を満たしてたのかは絞り切れないでしょ?」
『うんうん』
「それで次に何人かが同じ街でそれぞれこれだって思うことをして、結果そのうちの一人がマイハウスを買えた」
『ほー』
「そうなると、次はまたその人がした行動から更に絞ればいいって話になるんだけど……」
ここで、一つの単純でいて難解な問題が発生した。
「エリーナさんたちのチーム?的なものもそこまで人数がいるわけじゃなくて、もうその街に行ける人は全員が試し終わっちゃって。だから、まだ買ってない人で他の街に行って検証を続けようってなったんだって」
『あー、まあそうなるよね』
「それで二人目の条件から色々絞ってやってたんだけど、誰も買えなくて。それでまさかって話で二人目の条件を全部満たしたパターンも試してみたんだけど、それでも買えなかった」
『なるほどねー』
つまり、ここで初めて街ごとに条件が違うという話が出てきたわけだ。
「そこでまあ色々試した結果また一人が買えたんだけど、もう色々と試しすぎてどれが条件だったのか全然判別がつかなくて。それでまた新鮮なデータに切り替えるために次の街でってなったんだけど……」
『どー?』
「今度は慎重に、他のゲームとか常識とかを基準に最低限の条件を探ろうと牛歩作戦で試してみたら、その四軒目の全然条件を満たしてなくても買えた……って感じの流れで」
『……だから、とりあえずはそこからまとめられたさっきの条件だけ満たしてから考えるってこと?』
「うん。ていうか、その条件候補が多すぎてちょっと確認が面倒」
まだ成功例が四件なので仕方のないことかもしれないが、情報が錯綜し過ぎている。
そういう時は、無駄に全ての状況を把握しようとするよりも、明確なものから着実に詰めていく方が良い。
あと、そこに脳内のリソースを割けるほどの余裕がないというのもある。
『でー、幸姫はどこの街で家を買うの?今いるとこ?』
やはり条件の話自体には興味がなかったのか、紗音は先ほどまでよりも楽しそうな様子でそんなことを聞いてきた。
「どこで……うーん」
言われから、私は自分がその発想を持っていなかったことに気が付いた。
とにかく家自体が欲しかったので自然とこの街でと考えていたが、別に買うのはこの街でなくともいいわけだ。
条件を考えればデラキナやおじさんのいるこの街で買うのが一番早く買えるかもしれないが、せっかくコットンがいるのだからもっと他の街も見て回ってからでもいいかもしれない。
それに、エリーナからのメッセージに書かれていた街を治めるNPCとの接触方法について考えても、やはりこの街よりももっと先の街に行った方が何かと都合が良い。
もう三日目ということもあってか、この街もプレイヤーで溢れ始めているのだ。というか、この感じだと次の街ですらかなりの数のプレイヤーが既に辿り着いているだろう。
当然街を治めるNPCというのは一人しかいないし、マイハウスの購入以外でも色々と重要なNPCになってくるそうなので、プレイヤーの少ないところの方がアポイントが取りやすいので話がスムーズに済む。
「もっと先の街にしようかな。エリーナさんとの集まりが終わったら、適当にひとっ飛びしてみる」
『ひとっ飛び?』
「騎乗ペットっていうやつ」
『あー!なんか、レアなやつだと飛べるんだっけ?』
「うん」
メノのブラックボアは飛べないので、そうだと言われたわけではないがそうなのだろうなーと察していた。
おそらく、あの翼の演出が飛べるペットを的中させた際に出てくる演出なのではないだろうか。というのが、私の予想である。
「んーっ……それじゃあ、そろそろ行こうかな」
軽く伸びをしてから、席を立つ。
そう言えば結局、何かスイーツでも頼もうかと思ってたけど飲み物一つで随分と居座ってしまったな。
別に文句を言われるようなことはないと思うが、少しばかり申し訳ない気分だ。
『おー、どっかに……あれ、えっ、これ……ちょっ』
何かを言いかけた紗音が、突然慌てだす。
どうしたものかと思って光の方に視線を向けると、紗音の視点を現す光が蛇行しながら私の方へと向かってきていた。
『ちょっ……これ、操作難しすぎない!?』
「そうなの?」
『いや、ホントに……酔う!』
「……」
視界があれだけゆらゆらしていれば、画面酔いをして当然だろう。
「それ、携帯端末に繋いでるんだっけ?操作もそれ?」
『うん!でも、移動が三次元だからなんか操作感が掴めなくて……絶対、誰もこの機能使ってないから適当に作られてるでしょ!』
「あー」
たしかに、私が思い浮かべられるようなメジャーなゲームでは大抵平面での移動だ。高低の概念あったとしても、せいぜいジャンプできるとかそのくらいだろう。
それに、商売品としては需要のないところが手を抜かれてしまうのも仕方のないところではある。
「でも、VRゲームならそういうのも多いんじゃないの?」
『そうだね!そりゃ多いんだけど……画面操作とVRは感覚が違い過ぎるっていうか!?』
必死な様相の紗音が携帯端末と格闘するのを眺めながら、私は無慈悲にもこう告げた。
「……頑張ってついてきてね」
『幸姫が鬼畜ー!っていうか、仕様的にあんまり離れられないと思うんだけど、離れすぎるとどうなるの!?』
「知らないけど」
そんなやり取りをしながら、カフェを出てデラキナのところを目指して足を進める。
しばらくすると紗音も操作に慣れてきたのか、離れすぎるとどうなるのかという疑問の答えはわからずじまいとなったのだった。
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