第84話 きほんじょうけん



「んー……まず、マイハウスの購入条件は街ごとに違うって」

『街ごとに?なんか面倒そうだね?』

「うん。まあ、違うって予想されてる段階だけど」


 それを言ってしまってはほとんどの内容が予想の段階なのでお話にならないのだが、一応付け加えておく。

 元研究者としては、そこのところははっきりさせておかないと気が済まない。


「とりあえず、エリーナさんの仲間内で購入が確認できたのは四軒。このうち二つは同じ街で、残りの二つはどちらも違う街。条件が街ごとに違うとは言ってもだいたいの方向性は同じで、どの街でも必要になる基本条件と、その街ごとに設定されてる特別な条件があるって予想されてる段階みたいだね」

『ほうほう』

「ただ、違う街の一軒のうちの一つが最近確認できたものなんだけど、それまで基本条件だと思っていたものがいくつか満たしてなくても買えたから、改めて考察を進めている……という状況なんだって」

『へー……攻略情報を集める人も大変なんだねえ』


 紗音の口ぶりからは、暗に自分はそうではないという意図が漏れていた。

 紗音から聞くゲームの話はいつもよくわからないことだったので簡単に聞き流していたが、確かに改めて振り返ってみるとそういった見知らぬ情報を求めてやり込むとかそう言った感じの話は聞いたことがない気がする。

 対して、私はどちらかというとこのゲームをプレイしていく中でそういったことに楽しみを見出しているところがある。

 私と紗音は、そういった趣味趣向が合わないところの方が割と多かったりするのだ。


「それで、まずはその基本条件の方。現段階でも確定だと思われているのが、その街での名声を上げるっていう条件」

『ほー』

「名声っていうのは、依頼っていうのをこなしたり、特定のNPCの好感度を上げれば上がる……らしい。依頼っていうの、紗音はわかる?」

『知ってるよー。幸姫は受けたことないの?』

「うん。当たり前みたいに書かれてたけど、全然知らない」


 まあ文字からどういったものかを察することは簡単だが、それがどこでどう取引されているのかは知らないのでさっぱりわからない。

 紗音にその説明を求めると、ゲームを実際にプレイしているわけではない紗音にもピンと来ない部分があるらしく、ふわっとした説明が始まった。


『んーとねぇ……なんか、ギルドっていうところがあるらしいんだけど、幸姫は知ってる?』

「あー、見たことくらいはあった……かな?」


 最初にグリーシャの街を探索した時に、そんな感じのものがあったはずだ。

 この街では……意識して探してたわけじゃないから見逃してるだけかもしれないけど、まだ見てないかな?


『そのギルドっていうところで色々できることがあって、依頼はそのうちの一つみたいなことが書かれてたねー。まあ、その辺の情報はやってからの方がわかりやすそうだったからあんまり詳しくは調べてないんだけど!』

「ふーん……まあ、今度行ってみるしかないね」


 これでまたタスクが増え……いや、目的はマイハウスの購入なんだし、派生しただけで増えたって感じじゃないのかな。


『でも、そのどっちかでいいなら、幸姫はNPCの好感度上げの方が楽そうじゃない?』

「んー……どうだろ。システム的な意味でなら上げる方法とその傾向を解明していくのは得意だと思うけど」


 様々な人工知能が多用される世界……つまりNPCの数だけ人工知能の数も必要になるこのゲームの中のような場所では、最低条件を満たしたものが出来上がるようにするためにその基盤となる人工知能が用意されている。それこそ、私がしていた仕事のような話だ。

 もちろん全てのNPCの基盤が同じなわけではないのだろうが、それでもその数はNPCの数に比べれば遥かに少ないだろう。

 そして特定の基盤が与える思考の方向性とその基盤かどうかを判別できる質問ややり取りのようなものを見つけてしまえば、好感度を効率的に上げる手段を確保できるという話になる。なるのだが……


『あー、なんか嫌ってやつ?』

「ん……まあ」


 それは何も人工知能とコミュニケーションを取るのが苦手という意味ではなくて、人工知能というものがそういうものだということは理解している上でそういう機械的な扱いをすることにちょっと苦手意識があるというだけだ。

 幼稚的な考えかもしれないが、面と向かって会話ができるというだけで、何となくその相手に人間味のようなものを感じてしまうのだ。脳内ではそれを作られたものであると認識してその分析まで好んでするのに、彼らを道具だと割り切ることを嫌がる。そんな乖離した気持ちが、私の人工知能に対する興味の根源なのかもしれない。


「とりあえず、これが間違いなく必要だって言われている条件だね」

『それだけ?』

「いや、さっきも話した最近買えたっていう四軒目の件があったから一度条件を厳しく精査してるってだけで、他にも基本条件はいくつか候補があるっぽいよ。今のやつは、文字通り間違いなく必要ってこの段階でも確信できてるってだけ」

『あー、そういう』


 エリーナからのマイハウスの購入方法に関するメッセージは、その辺に関する詳しい予想が書かれていたため情報量以上の長文となってしまっていた。

 尤も、そういう考察や予想を読むのはとても好きなので、こういう文章ならいくら長くても構わないのだが。


「それで他の基本条件の候補なんだけど、それが……二つあるね」

『ほー』

「んーっと……まず一つは、その街を治めているNPCとの繋がりだね。というか、街のもののほとんどはその街を治めてるNPCに所有権があるっていう判定になってるらしくて、マイハウスも結局はその人から買うってことになるっぽい」

『えー。それなら、それは間違いなく基本条件になるんじゃないのー?』

「まあそうなんだけどね。これは表現方法的な話で……わかりやすく言うなら、購入ルートの話になるのかな?」

『んー?』

「えーっと、とりあえず現状はその人から買ったっていう報告しかないわけだけど、その人から買えるマイハウスの候補が街の中で売られてる家全部じゃないみたいで」

『はあ』

「ただ、同じ街で買った二人の話で、提示された購入可能なマイハウスが違ったっていう話があってね。だから提示される家が購入しようとした段階でのプレイヤーの状況次第で変わるっていう風に考えられてたんだけど……」

『うん』

「もしかしたら、他の購入手段もあってそのために別枠になってる家もあるのではっていうことで一旦絶対必要という枠からは外されたんだって」

『なるほどー』


 つまり、この購入方法なら確定で必要な条件ではあるということだ。

 ちなみに街の中での知名度が絶対に必要だというのは、その街を治めているNPCの会話のフレーズから判断されていることだ。その話も色々と書いてあって、これは定期的な収入があることの証明というものに繋がっていた。

 というのも、マイハウスは購入後にも固定資産税的なものを支払う必要があるらしく、これはマイハウスの購入上限の関係で引退プレイヤーがいつまでもその枠を潰してしまうことを避けるために設けられているものだという予想が書かれていた。そしてその固定資産税的なものの支払い能力が問われての依頼達成能力の証明、もしくは特定のNPCによる推薦という形での好感度という話になっているらしい。なので、他の購入手段があったとしても、そこだけは変わらないだろうという話だ。

 ついでに言うと、その特定のNPCというのはデラキナやおじさんのような生産系スキルの使い方を教えてくれる人たちのことだ。依頼というのは基本的に街の外で戦闘行為をすることによって達成できるものなので、そういった目的ではなくクラフトなどの目的でゲームをプレイする人でもマイハウスが買えるようにと用意されたプランというわけである。


 正直、マイハウスを買いたいという気持ちももちろんあるのだが、今では実際にそのNPCとの対話をしてみて条件を探りたいという気持ちの方が強くなってきていた。


「もう一つも似たような感じで、プレイヤーのレベルが15以上っていう条件」

『あー、そういう制限は確かにありそー』

「こっちに関しては、レベル条件があるのは確定的だけど、数値的な意味でまだ確信はないって感じだって」

『幸姫は15は超えてるの?』

「うん。私にはこの話を詰めるのは無理だね」


 というわけで、こちらの条件に関しては考えなくてもいいだろう。

 残るは、街ごとに違う特別な条件の話だ。


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