第81話 さおんがきた




 ≪ゆきひめ:そういえば、何故マイハウスの買い方を広めないようにしてるんですか?≫


 ふと気になったので、エリーナにそんな質問をしてみる。

 広まると困る話だから広めないようにしているのだろうが、その広まると困る理由が思いつかないのだ。


 ≪エリーナ:マイハウスにはランクがあってね、それぞれの家につき購入上限が決まっているのよ≫


 うーん……前後どちらも何を言っているのかよくわからない。


 ≪ゆきひめ:ランクが高いと何かいいことがあるんですか?≫

 ≪エリーナ:機能が優れてたり、単純に広かったり、立地が良かったり、って感じかな≫

 ≪ゆきひめ:なるほど。購入上限というのは?≫

 ≪エリーナ:ランクが高い家は、購入者に上限が決まってるのよ。だから、争奪戦になるってわけ≫


 うーん……よくわからない。普通に考えたら、一つの家に住めるのは一人だと思うのだが。

 というか、ランクが高い家には購入上限があるということは、逆に言えばランクが高くない家には購入上限がないということだろうか。

 ……まあ、VR空間だし同じ家に違う人が住んでてお互いへの干渉は起きないっていう風にすることくらい簡単なのかな。


(いや、普通にドアがワープ装置になってて入った人に応じてその人に対応した別の空間に飛ばせばいいのか)


 そんな単純明快な発想に行き着くと、同時に疑問が湧いてくる。


 ≪ゆきひめ:ランクが高い家を購入できる人が無制限にいると何か不都合があるんでしょうか?≫

 ≪エリーナ:どうだろ。ただプレイヤー同士を争わせたいだけじゃない?このゲーム、至る所でそういう節があるし≫

 ≪ゆきひめ:なるほど≫


 ただの運営の悪戯心か。

 しかし、そうなると先行プレイヤーが圧倒的に有利になってしまうのではないだろうか。

 ……いや、皆先行プレイ権をうん百万とかで買ってるらしいし、ある程度は有利にしてもらわないと釣り合わない話でもあるのかな。


 ≪エリーナ:あ、そうだ。採掘に必要なアイテムはこっちで用意してあるから、ゆきひめちゃんは特に何も用意しなくて大丈夫よ。マイハウスの購入方法に関しては、これからまとめてメッセージで送るわね≫

 ≪ゆきひめ:わかりました≫


 マイハウスの購入方法がエリーナから送られてきたら、それを確認してデラキナのところに行こうかな。

 それまでは、調合素材の本を読んでおこう。


(……ん?)


 本に集中していた私の視界に、見慣れない通知が表示された。

 それはメッセージの通知だったが、ゲーム内メッセージの通知とは少し違う通知だ。

 よくわからないが、一旦そのメッセージを表示してみる。


 ≪来ちゃった!今日泊まっていい?≫


(……?)


 なんの話?

 どうやらこのメッセージにも返信ができるようだが、意味不明すぎてちょっと怖い。


(っていうか、泊まりってなんの……え、まさか)


 脳内で一つの結論にたどり着き、慌ててメッセージに返信をする。


 ≪紗音?≫

 ≪当たり前じゃん!≫

 ≪え、そもそもこのメッセージは何?≫

 ≪あれ、知らないの?≫


 戸惑う私に、しばらく止む紗音からのメッセージ。

 私は本を読み直す気にもなれず、紗音はいったい何故黙っているのかと妙な不安感を覚えていると、突然私の視界の左上に紗音の姿を映した小さな画面が表示された。

 そして、同時に紗音の声が脳内に響いてくる。


『おーい!』

「っ!?」

『……あれ、聞こえてるよねー?』

「え、うん。聞こえてるけど……って、そこ私の家?」


 紗音を映した画面の背景には見覚えしかない家具が並んでおり、なんなら紗音はソファーの上で堂々とくつろいでいた。

 ちなみに私と紗音は三十センチ以上の身長差があるので、紗音の身体は私サイズに合わせて買ってあるソファーでは全く収まっていない。まあ、いつものことなんだけど。


『そうだよー。さっきのはね、同居人がVRゲーム中の人にメッセージを送れるやつ!』

「へー、そんな機能が……」

『それでこれは、ゲーム中の人の様子を見れるやつ!携帯端末に繋ぐとビデオ通話もできます!』

「ふーん……そっちからはどういう風に見えてるの?」

『今は幸姫を見下ろしてまーす。頭上に注目!』


 言われるがまま上を見上げると、そこには青く光る小さな玉がふわふわと浮かんでいた。


『ちなみに、ほとんどの人はあんまりやってるとこを見られたくないからってそっこーで機能をOFFにするよ』

「そうなんだ」

『幸姫、メッセージのことも知らなかったみたいだしこっちの機能も弄ってないかなって思って繋いでみた!』


 その接続作業に時間がかかっていたということか。

 ちなみに紗音の身長は177もあり顔もすごく整っていて黙っていればクール系なのだが、御覧の通り無邪気で良く笑う人だ。そこがいいんだけどね。


『あ、それとこれ……』

「……」

『今夜お願い!ダメ?』

「……別にいいけど」


 別に、いいけどね。


「ていうか、明日大丈夫なの?」

『明日は午後だけ!』

「ん……今日も午前だけだったんだ」

『うん!』


 それなら、朝から散歩に付き合わせちゃったのはちょっと悪かったかな。


『というわけで、今日は幸姫のゲームを見に来よーって!』

「まあいいけど、見てて面白いものなの?」

『もちろん!』

「ふーん。まあ紗音がそう言うなら……あ」

『んー?』


 エリーナからメッセージが送られてきて、反射的に開こうとしたところで手を止める。


「これって、システムメニューとかメッセージとか弄ってるところはそっちから見えるの?」

『動作は見えるけど、中身は見えないよー。……って、何、もしかして浮気!?』

「いや、そういうんじゃないけど」


 こちらにも向こうにも、一切その気はないだろう。


「あ、それと、今日他の人と集まって何かやるんだけど、紗音に見られてることって言った方が良いよね?マナー的に」

『あー、そうだね。もしダメって言われたら諦めて大人しく待ってるよー』


 ひとまずエリーナからのメッセージは置いておいて、その旨の確認をとっておく。


 ≪ゆきひめ:さっき友達がうちに来てゲームしてるとこ見られてるんですけど、そのまま行っても大丈夫ですか?≫

 ≪エリーナ:え、ゆきひめちゃんその機能つけたままなんだ≫


 あまりにも衝撃だったのか、返答ではなくそんな感想が真っ先に返ってくる。

 ゲームのプレイ姿って、そんなに見られたくないものなのだろうか。私は別に、というか全く気にならないのだが。


 ≪エリーナ:一応今回の検証結果は私の方で公開しようと思ってる情報だから、その結果について黙っていてくれるなら大丈夫よ。ゆきひめちゃんの友達なら変な子じゃないだろうし≫

 ≪ゆきひめ:わかりました≫

 ≪エリーナ:ていうか、ゆきひめちゃんずっとゲームして≫


 明らかにまだ打っている途中の文章が送られてきて、頭の中に疑問符が浮かぶ。

 しかし、エリーナからその続きが送られてくることはなく、代わりにこんなメッセージが送られてきた。


 ≪エリーナ:ごめんなさい。今のは誤送信だから忘れてもらえる?≫


「……?」


 ≪ゆきひめ:はい≫


 よくわからないが、何かに遠慮をしたようだ。

 何が言いたかったのかな?


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