第80話 さいくつきんさく
「ふぅ……」
運営からのメッセージがなんというか肩の凝るものだったので、私はもう少しカフェでくつろいでいくことにした。
四天王システムについても色々と考えておきたい気もするが……まあ、今は忘れておこう。
(おいしー……)
ソーダフロートの味を堪能しながら、幸せに浸る。
私の身体はどこもかしこもあまり成長しなかったようで、身長だけではなく味覚も割と子供っぽいところがある。昔は少し気にしていた……いや、今でも実は少し気にしているが、紗音が好きだと言ってくれたので自分の欲望には素直になることにしている。
(んー……もうちょっと何か、スイーツ的なものも……)
なんて思いメニューを確認しようと思ったところで、エリーナからメッセージが届いてきた。
≪エリーナ:本日の集まりの旨をお伝えしたいのですが、少しお時間の方をいただいてもよろしいでしょうか≫
≪ゆきひめ:大丈夫です≫
私の返信が思ったよりも早かったのか、しばらくメッセージが止まる。
その硬い文章を打つのに時間がかかるなら、もっと砕けた文章でもいいのに。
≪エリーナ:ありがとうございます。本日は、とある件の検証にご協力いただきたく声をかけさせていただきました。もちろん、ただでと言うつもりはありません。他言は無用でお願いしたいのですが、現在一部の間でのみ共有されている情報をゆきひめさんにもお伝えしようと思っております。こちらの情報というのもまだまだ未検証な部分が多く、これもある意味では検証に協力していただきたいという話ではあるのですが、ゆきひめさんにとっても有益な情報であるということは確信しております。つきましては、その件についての───≫
「……ながっ」
時間がかかっていたのは、シンプルに長文を打っていたからだったようだ。
ちょっと、いや、うん……これは、流石に。
≪ゆきひめ:エリーナさんが嫌なら構わないんですけど、もっと普通に友達宛てみたいな感じの文章で大丈夫ですよ≫
≪エリーナ:りょーかい≫
「……」
変わり身はやっ。
むしろ、エリーナ的には私がああいう態度を求めていると思っていたということだろうか。
それとも、とりあえず失礼のないようにああいう文章を……?
≪ゆきひめ:先ほどの長い文章を読む気が出ないので、簡単にまとめてほしいです≫
≪エリーナ:ゆきひめちゃん、マイハウス欲しくない?≫
「……!!」
欲しい……マイハウスは絶対欲しい!
この際倉庫みたいなところを借りられればそれでもいいかなーとか思い始めてたけど、やっぱりマイハウスが欲しい!
≪ゆきひめ:ほしいです≫
≪エリーナ:即答なのね。マイハウスだとテイムモンスターとかも出せるみたいだからって話をしようと思ったのだけど≫
≪ゆきひめ:そうなんですか?ほしいです≫
それは欲しい。
そんなの、欲しい……欲しいに決まってる。
≪エリーナ:一応あまり広まらないようにしてる話だから他言無用でお願いしたいんだけど、その話と引き換えに付き合ってほしい検証があるのよ≫
≪ゆきひめ:なるほど。わかりました≫
そもそも私がこのゲームの中で関わりを持っている相手はエリーナとメノ、そしてソワンくらいなので、話す相手自体がいないのだが。
≪エリーナ:それでその検証っていうのは、採掘金策の件ね≫
≪ゆきひめ:採掘金策?≫
≪エリーナ:知らないのね。あまり攻略を調べたりはしないの?≫
≪ゆきひめ:しないですね≫
何故しないのかと聞かれると困ってしまうが……強いて言うなら、なんだかそれはズルをしているような気分になるからだろうか。
しかし、それも少しピンと来ない部分がある。それは、攻略を見ているであろうエリーナやメノからそれを間接的に教えてもらうのはズルをしているという気分にならないからだ。もちろん、自分から調べて教えてくれなんて言うのは論外だが。
結局のところ、まだそこまで興味がないってことなのかな。わからないことを調べてまで知ろうと思うほど、このゲームに対する興味がないというか……もちろん楽しいし、長時間プレイしてはいるんだけどね。
あとは、自分の力で攻略したいっていう気持ちもあるにはある。
まあ、そこら辺の考えが絡み合った結果、自分で調べはしないけどそれを教えてもらうのはありくらいのところに感覚が落ち着いてるのかな。
≪エリーナ:採掘金策っていうのは、文字通り採掘でお金稼ぎをすることのことね。採掘はわかる?≫
≪ゆきひめ:文字通りの意味ならわかります。鍛冶師にも弟子入りしたので、興味もあります≫
≪エリーナ:あら、ゆきひめちゃん鍛冶スキル取ったのね。話の流れでおすすめしようと思っていたのだけど≫
≪ゆきひめ:やっぱり、あれってLUCが関係してそうなんですか?≫
私におすすめしようと思っていたということは、つまりそういうことだろう。
私も、おじさんの話でそうなんじゃないかと……って、そういえば、あのおじさんの名前結局教えてもらってないや。
おじさんのことだから名乗るのが面倒とか照れくさいとかもあったのかもしれないけど、有名だからわざわざ名乗らなくても知られていると思ってた可能性も高そうだ。
≪エリーナ:そうね、その辺はほぼほぼ確定的って考えられてるわ。ゆきひめちゃんが装備作ったら、私にも買わせてほしいなー、なんて≫
≪ゆいひめ:別に、そのくらいお譲りしますよ≫
≪エリーナ:本当?それなら、遠慮なくもらっちゃおうかな≫
変な遠慮をされても面倒なので話が早くて助かるのだが、許可を出すまでお硬い文章で送ってきていた人だと考えるとこういうところは変な遠慮をしないんだ、と思ってしまう。
≪エリーナ:それで、採掘金策の話なんだけどね。これは最近出てきた話なんだけど、こっちもLUCが関係してるんじゃないかって話でね、その辺がわかりやすいゆきひめちゃんに協力してもらえないかなって思ったのよ≫
≪ゆきひめ:なるほど。狩りのお誘いじゃなかったんですね≫
≪エリーナ:ええ。まあ、ゆきひめちゃんが採掘している間に、私とメノは邪魔者排除も兼ねて狩りそさせてもらおうと思ってるけれどね≫
そこには、暗に私のドロップボーナスの恩恵にあやかってという意味が含まれているだろう。
そこら辺で利用されることに不快感はないので、私としては全然構わない。むしろ、どうせ本心はそこな癖に少しでも遠慮を見せてくる方が不愉快なので、エリーナやメノくらい素直に求められる方が好ましいくらいだ。
≪エリーナ:それと、私たちが同行するのはは荷物持ちって意味もあるわ。ドロップアイテムと違って、採取アイテムは結構重めに設定されているから≫
≪ゆきひめ:なるほど≫
道理で、狩りをしてもバッグがいっぱいになったりしないのに、毒蜥蜴の卵を手に入れた時は一発でオーバーになったのか。少しだけ違和感を感じてたんだよね。
まあ、狩りは経験値目的の場合が多いし、そこでいちいちバッグの重量制限が出しゃばってきたらストレスにしかならないからそう設定されてるのかな。対して採取は採取アイテムが目的にしかならないから、そこで制限を設けるのは必要なことだと運営が判断したんだろう。どこに必要性を感じたのかは、私の知るところではないが。
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