第79話 してんのうしすてむ
運営からのメッセージ───それも、絶対に確認してくださいと言わんばかりに視界の中央に通知を表示してきたメッセージを無視できるほどの肝を持っていない私は、その運営からのメッセージとやらを確認するためにちょっとしたカフェにやってきていた。
わざわざカフェなんて場所まで来て腰を落ち着かせているのは、運営からということで何か重要な話の可能性も考えられるため、道端で歩きながら確認するのもちょっと……と、思ったからだ。
まだエリーナとの約束の時間までは余裕があるので、デラキナのところに行くのはついでに少しくつろいでからでもいいだろう。
注文したソーダフロートをちびちび飲みながら、運営からのメッセージを開いて……
「……ながっ」
メッセージを開いてみて表示された文字の量を見て、思わず声が漏れてしまう。
それは何かの告知とかそういった軽い感じのものではなく、冒頭から堅苦しい時候の挨拶なんかが書かれており、明らかに運営から私個人へと向けられたメッセージのようだった。
(……まあ、冒頭のどうでもいいところは飛ばすとして……)
メッセージをスクロールし、本題のところまで読み飛ばす。
適当なフレーズだけ拾ってそれっぽいものが出てくるところまで飛ばした結果、とあるワードが私の目に留まった。
(四天王?)
四天王といえば、四人の、なんかすごい感じの、あの……四天王だろうか。
そしてその前後の文章に軽く目を通すと、こんな話が書かれていた。
なにやら、VCSの限定リリース前から発表されていた情報の一つに、チャンピオンリーグなるシステムがあるという。
それは毎週土曜日に個人の短期戦王者を決めるリーグを開催するというもので、ルールは何でもありの時間制限が一分。ステージは円形で一切の障害物もないコロシアム形式。時間内に倒された方が負けで、どちらも倒れなかった場合は時間制限が来た時に残HPの割合が多い方の名を勝者としてシステムが盛大に表示するそうだ。
そして、初回のチャンピオンズリーグで優勝したものは、チャンピオンプレイヤーとして次週のリーグ開催まで限定称号と特典を得られるという。そして次週以降は、その週のリーグで優勝した者と現チャンピオンがチャンピオンの座をかけたタイトルマッチを行い、その勝者がチャンピオンプレイヤーとして一週間君臨でき、またその次週に……という流れでチャンピオンの座をかけて争うというシステムだそうだ。
そしてそのリーグへの参加権を得るためにあるのが、四天王システムになる。
毎週日曜日の零時からその参加権争奪戦が始まり、リーグへの参加を目指すプレイヤーは四天王プレイヤーがそれぞれ提示した課題に挑むことになる。そしてそのうちのどれか一つの課題をクリアすると、その課題を出した四天王プレイヤーのステータスをコピーしたNPCに対してリーグと同じルールでの模擬戦に挑戦をすることができるようになる。そしてそこで勝利すると、リーグへの参加権を得られるというわけだ。
リーグへの参加権は全部で三十二枠あり、そこからリーグへの参加を表明した四天王を数を除いた分が一般プレイヤーに与えられる席の数となる。もちろんそれは先着順で、参加したいプレイヤーは土曜日の夜から張り込みで頑張って課題をやってねという話になる。
もちろんその枠がすべて埋まった後でも四天王の課題には挑戦でき、クリアをすればその四天王と模擬戦ができる。運営としては、リーグを盛り上げるのはもちろんのこと、この課題でもプレイヤーを楽しませられるものを用意して、ガチ勢だけでなく色々なプレイヤーに遊んでもらえればと考えているようだ。
そしてその四天王自体も席を争うシステムとなっていて、チャンピオン同様四天王には限定称号と特典があり、こちらは毎月末日にその月にリーグへの参加権を取られた数が多かった四天王上位二名が席を奪われ、代わりに運営が用意した二名のプレイヤーが新たな四天王として君臨するというシステムだそうだ。
また、チャンピオンが毎週チャンピオンの座をかけてタイトルマッチを行わなければならないように、四天王にもその席に座る権利と引き換えに発生する義務がある。それは、運営と共同で出す課題を決めるというものだ。
これに関しては実質的にゲームの運営にも関わることになるので、ちょっとしたお給金まで発生するのだとか。だからチャンピオンとは違って色々面倒な手続きもあるとかで、新たに席に座ることになるプレイヤーに関しても事前にその辺の話が纏まっているプレイヤーを運営が用意しなければならない。だから、争奪戦と言っても座れるプレイヤーに関しては運営が用意したプレイヤーになるというわけだ。
さて、ここまで詳しく話をされた時点でもう察せることだが、このメッセージはその初代四天王の席に座ってくれないかという運営からのお誘いメッセージだった。
回答の期限は二日で、回答がなかった場合は断ったものだとみなされる。
そしてその回答方法も、このメッセージに返信するとかそういう単純な話ではなく、専用のフォームから必要事項を入力して運営に送り、その後に四天王システムの責任者との面会を経て四天王契約が結ばれる……だそうだ。
しかも、その社会的扱いは一か月契約の短期アルバイトみたいなものになるが、割と……いや、かなり色のついた額が提示されていた。むしろそれ故に、普通の社会人には副業収入としては税金的に無視できない額になり、色々とそういうところで無理だとか面倒だとかの断りをしそうな人も多そうなくらいだ。
(まあ、お金に関してはどうでもいいんだけど……)
問題はやはり、手続きの面倒臭さだろう。
私としてはその課題を考えるというのも面白そうな話だと思うが、それでもやっぱり手続きが……
(いや、でもニートの私が面倒とか言ってたら、四天王なんて集まらないんじゃ……)
間違いなく、私はこの話に対して気軽に頷ける人間のランキングを作ったら最上位になるだろう。
運営がまだリリース三日目という段階で声がけを始めているのも、本当にちゃんと四天王が集まってくれるのかという不安の表れかもしれない。
それに、第一回のチャンピオンリーグは正式リリース後から二週目の土曜日……つまりは三週間後の土曜日ということになり、その参加権争奪戦はその一週間前の日曜日から始まる。
課題というのも初回は手探りになるだろうし、そこを四天王プレイヤーと運営の人で何度も会議して話を詰めなければならないとなると、スケジュール的には本当に限界を攻めているのではないだろうか。
……そう考えると、運営が私に声をかけたのは、私が既にこの二日とちょっとでログイン時間帯に全く方向性のないニートスタイルでこのゲームをプレイしていたからな気がしてくる。
メノみたいに四六時中インしていたわけでもなければ、ガチ勢みたいにずっと狩りをしているわけでもない。運営に、こいつ暇そうだなって思われて声をかけられた可能性が……
(……あ、いや、そっか。そもそも運営は、私のことを知ってるんだっけ)
そこで思い出したのは、今日の冒頭で起きたソワンとの一件だ。
運営が、私の元居た会社の別プロジェクトの責任者と話をしてソワンをこの世界へと連れてきているということは、当然ソワン……いや、その別プロジェクトの責任者の目的が私とソワンを接触させることだというのも知っているはずだ。
となると、当然その私自身がどういう人間なのかもある程度は調べているはずで……
(って、ちょっと待って。そもそも、なんで私がこのゲームを始めるって知ってたんだろう……)
私がこのゲームを始めてからその動向を掴んで運営と話をまとめてソワンを送ってきたとかなら話はわかるが、そうだとするにはあまりにも接触が早すぎる。
私がこのゲームにログインした瞬間から行動を開始したとしても、ソワンにこのゲームをプレイするために必要な知識やその出力に関する方向性を学ばせるのにこの時間ではあまりにも短すぎるし、そもそもソワンのレベルは明らかにこのゲームをずっとプレイしているプレイヤーと同等くらいのものだ。どう考えても、事前に私がこのゲームをプレイするということを知っていて行動していなければおかしいということになる。
(でも、私がこのゲームをやるって話したのは紗音くらいだし、それも結構最近になってからだから、それにしても……)
そこで思い浮かぶ、とある人の顔。
(……まさか、あのおばあちゃん……)
いや、なんでそんな……街中でおばあちゃんが困っていたからといって私が助けるとも限らないし、助けたとしてそのお礼を受け取るとも限らないし、受け取ったとしても助けたお礼としては意味不明すぎるVRMMOの先行プレイ権なんて自分で使うとは限らないし、使ったとしてもソワンが私に接触できるまで私がプレイを続けるとは限らない。
そんな薄い線に賭けて、運営との話をまとめて、ソワンに学習を施して、この世界で私を待つとか……その別プロジェクトの責任者の人って、かなり狂人っていうか、ちょっと頭のネジが飛んでるんじゃないかな。
それとも、その人は私自身よりも私のことを理解してて、こうなることがわかりきってた……なんて、そんな人紗音くらいしかいないけど。紗音はモデル業をしているので、絶対にその人ではないはずだ。
まあ、もしかしたら紗音とその人が協力してて、こうなるように誘導したみたいな線ならあるけど、それなら紗音は自分の分の先行プレイ権を用意しそうだし、そもそも紗音から直接頼まれてれば私は断らないし。紗音が関わってるって線はないと思うけど、まあ今度聞いてみとこうかな。
なんて話はともかく。
(……四天王、かぁ)
運営の人との繋がりを持っておくのは、ソワンの件で何かがあったら役に立つかもしれない。
なんて打算がないわけでもないが、単純にその話にも興味はある。手続きが面倒な事に変わりはないけど、それ以上に得るものの方が多そうだ。
(うん。受けよう、この話)
そう決めた私は、早速その専用フォームに必要事項をサクッと入力して送信したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます