第78話 できあがったもの
完成ボタンを押すと、目の前にこんなシステムウィンドウが表示された。
≪雷龍のペンダントが出来上がりました。刻印を付けますか?≫
「刻印?」
私の呟きに対して、おじさんが解説をする。
「刻印は、一定以上の評価値の生成アイテムに対して、自分が作ったものだという印をつけるモンだ」
「一定以上……」
ということは、やはり『サンダードラゴンの鱗』はすごい素材だったということだ。
私の感覚が合っていてよかったと安心するべきか、そんなものをポンと渡してしまうおじさんの感覚に驚くべきか……
「……刻印は、付けたら何か性能が上がったりするんですか?」
「そうではない。……装備品の性能というのは、目に見えてわかるものではない。だから、誰が作ったのかということが、それを示す一つの指針になる」
「なるほど」
「だから、その素材を俺が打っても、刻印を付けることはできん。それだと、売っても大した値にはならん」
「……でも、素材が良いのはわかりますよね?『サンダードラゴンの鱗』で作った装備品ですし」
「ああ。……だが、それでいて刻印が付いていないということは、つまりはそういうことだ」
「あー……」
もしも優良品の『サンダードラゴンの鱗』で作った装備なら、誰もが刻印を付けるはずだ。
つまり、刻印のついていない『サンダードラゴンの鱗』で作った装備は、粗悪品……つまり、引き継がれている素材特性は少なく、密度ボーナスなんかも低めだということを暗示してしまうのだろう。
もちろんそれでも刻印を付けて売れば、性能の詳細がわからない以上その刻印にブランド力があれば高値で売れることになる。
だが、それで大したことのない装備だったら結局はそのブランド力を下げてしまい、長期的に見れば損をしてしまう。だから、おじさんはこの素材を持て余していて、私に譲ってくれたのだろう。
「……あれ、でも、それじゃあ今回の『サンダードラゴンの鱗』を他の装備品に混ぜる素材として使うっていう選択肢はなかったんですか?」
「ダメだ。混ぜるにしても、素材評価が低すぎた。もちろん、素材特性は十分な素材だがな」
「あー、素材評価が」
考えることが多いな、鍛冶システムは。
「属性値は高いけど耐久値は低い、みたいな素材もあるんですか?」
「ある。素材の良し悪しは、すべて独立したステータスだ。これが高いとこれも高いみたいな指針はない」
「じゃあ、それを見極めるのは、色々見るところがあるんですね」
たしか、素材自体の良し悪しを示すステータスは、属性値・素材評価・硬度・耐久値だったはずだ。……改めて思い返してみると多いなあ。
「それでも、『サンダードラゴンの鱗』なら刻印に足りるものが出来上がるんですね」
「そうだな。そこらに落ちているような素材ではないことは確かだ。それに、属性値は悪くなかった。おそらくは……」
「……?」
言い淀んだおじさんの瞳を見つめると、おじさんは小さく首を振った。
「……いや、これは完成させてみてからの方が話が早いだろう」
「じゃあ、試しに刻印を付けてみても良いですか?」
「ダメだ。……絶対に売らないというのなら、構わんがな」
「何か、付けちゃダメな理由があるんですか?」
そう聞くと、おじさんは部屋に飾られていた装備品を一つ手に取ってこちらへと持ってきた。
そして、その装備品の裏側に刻まれたマークを私に見せてくる。
「……これが、俺の刻印だ。俺の弟子となったお前には、この刻印を模った刻印を作ってもらうことになる。俺の弟子だということを示し、その刻印に価値を生むためだ」
「お……って、それって……」
「俺が認められるくらいの装備品を作るまでは、好きに刻印を付けることは禁ずる。……だが、刻印を付けてみたいという気持ちはわかる。絶対に売らないと誓えるものになら、付けても構わん」
そう言いながら、どこか遠い目をするおじさん。
おじさんも、昔はそういう時期があったのかな。
「じゃあ、やめておきます」
確かに少しつけてみたいという気持ちはあったが、ダメだと言われてまでするほどではなかった。
『出店』のシステムも使ってみたいし、おじさんから装備品を貰えるならある程度使ってみて余程気に入るものじゃなければ売ることも視野に入れておきたい。
思い出の品として取っておくことも良いと思うが、それでバッグの中を圧迫しても余裕なほどのSTRが私にはないのだ。
……ところで、あまりMMOのシステムを詳しく理解していないのでわからないのだが、マイハウスを持てればそういったものも家に置いておけるのだろうか。
そうだとしたら、やはりマイハウスが早急に欲しいところだ。
「ほれ、早く完成させて、完成したモンを見せてみろ」
「あ……」
おじさんに急かされて、慌てていいえを選択する。
すると金床に置かれていた素材が光を放ち、その姿が完全に光に包まれる。
次にその姿を現したときには、それは『雷龍のペンダント』というアクセサリーに生まれ変わっていた。
「やはり、こうなったか」
おじさんがそれを見て、ぼそりと呟く。
「こう、というのは?」
「それは、お前がこの装備の詳細を確認してみればわかることだ」
「……?」
言われるがまま、完成した『雷龍のペンダント』の詳細を確認してみると、その属性を記す部分にこんな表記がされていた。
「光/闇……?」
私の呟きに、おじさんが頷く。
「そうだ。基本的には、出来上がるモンの属性値は最も高いものになる。だが、二番目に高い属性値がその九割以上の場合、それは二属性装備になる」
つまり、『サンダードラゴンの鱗』が光属性、『毒爪熊の腹皮』が闇属性で、混ぜた結果それらの属性値がほとんど同じ値となったから二属性装備として生まれてきたということだろう。
「二属性装備の方が、属性が一つのものより強いんですか?」
「一長一短だ。弱点を増やすという面もあることは否めないが、素材特性の中には自分が装備している装備の属性値に影響を受けるものもある。そういったものを活かすには、二属性装備の方が良い」
「そうなんですね」
「だが、アクセサリーに置いては、確実に二属性装備の方が良い。弱点を増やすというのは、武器や防具の時の話だ。アクセサリーに、そういった影響はない」
たしかに、武器で攻撃する際に相手の属性との相性が合ったり、相手の攻撃を防具で受ける際に相性があるのは感覚的にわかるが、アクセサリーにそういったものがあるという感覚はない。
「じゃあ、素材を混ぜる時には属性値が似たくらいの素材を混ぜればいい……ってわけじゃないんでしたっけ」
「ああ」
途中までは当たり前のことを確認するつもりで言っていたのだが、そこで魔属性と属性値に関しては複雑だからと説明を飛ばされていたことを思い出し、少し変な言い方になってしまった。
「今回の例で言えば、『サンダードラゴンの鱗』と『毒爪熊の腹皮』の属性値は、『毒爪熊の腹皮』の方が二倍ほど高かった」
「混ぜることで、半減されたんですね」
「そうだ。だが、どれほど減らされるかは属性ごとの相性による」
「なるほど……」
属性が六つで、同族性同士の掛け合わせもあるから、三十六通りの組み合わせがあるわけだ。
まあ、三十六の相性関係くらいならやっているうちに覚えられる……かな。世の中には二十個くらいの種類があるタイプの相性関係があるゲームもあるんだし。
でも、その相性関係が目に見えてわからないというのは、覚えようとしないと覚えられないので辛いところだ。
ちなみに、出来上がった装備の説明文はこんな感じである。
≪雷龍のペンダント 首アクセサリー 雷龍の力を宿したペンダント≫
うん、何もわからない。
「『サンダードラゴンの鱗』と、混ぜた『毒爪熊の腹皮』はどういう素材特性を持ってたんですか?」
「『サンダードラゴンの鱗』は光属性被ダメージ軽減、『毒爪熊の腹皮』は打撃ダメージ軽減だ」
「じゃあ、これを付けてるだけでその効果が……」
そんな装備を指なら十個も付けられるとなると、とんでもなく影響が大きいのではないか。と思ったのだが、おじさんは首を横に振った。
「いや、アクセサリーにすると、その効果が確率発動になる」
「確率ですか……」
「その確率は、装備ごとに異なる。どの程度かは、運次第だな」
「おー……」
たった今、お前はアクセサリーを専門で作れと言われた気がした。
……が、当然おじさんは私のLUCのことなど知る由もないので、それは私の気のせいだ。
「……ひとまず、今回はこんなものだろう」
「その、鍛冶台をもらえるのは、鍛冶師資格を取れてからですか?」
「ああ。あの本である程度知識を付けてから、また来い。可能なら、体力もつけておけ」
「わかりました」
可能ならって、おじさんの方も体力に関してはそこまで期待してなさそうだ。
私はおじさんに礼を言って家を出ると、今度はデラキナのところに……いや、そういえば、運営から何かメッセージが届いてたんだっけな。
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