第77話 かじしゅうりょうっ!


「それでは……とうっ!」


 体力がある程度回復してきたので、素材の打ち込みを再開する。

 今度は、密度ボーナスを上げるための打ち込みだ。


「今回も、なるべく叩く箇所に偏りが出ないようにしろ」

「はい。……ちなみに、今回の場合はどういう影響なんですか?」

「ボーナスの乗り方が違う。それと……今は気にしなくてもいいが、叩く速度にも適解がある」

「適解……速ければいいってものじゃないんですね」

「そうだ」


 リズム感なんかも問われてくるのだろうか。

 あれかな、心臓マッサージをする時にあの歌を歌いながらやるとちょうどいい……みたいな。


 なんてことを考えながら、体力の消耗を抑えるように少し軽めに打ち込み続ける。

 それは、今回は密度ボーナスをそこまで気にしないことにして、とにかく完成させることを重視することにしたからだ。ここで全力を出してしまっては、その方針と矛盾して先ほどの休息の意味が薄れてしまう。

 まずは、完成。完成させることだけを考える。


「……よし。もう、十分だろう」


 そんな私の体力温存作戦を見抜いてか、おじさんが開始早々にストップをかけてきた。


「もうですか?体力的には、まだ大丈夫……だと思いますけど」


 変形度にどれだけ時間がかかるかがわからないので明言は避けたいが、私的にはまだまだ平気だ。


「もちろん、お前の体力という意味でも心配はある。……が、今やめるのは、密度ボーナスの乗り方がそろそろ減衰してくるからだ」

「効率を考えてってことですか」

「ああ。もちろん、まだまだ減衰される量は少ない。……が、辞め時としては十分な理由だろう」


 おじさんとしても、私の体力があとどれくらいあるかわからないので、限界を狙うというよりは安全志向でここを辞め時に選んだという感じだろう。

 私としてもそこに異論はないので、素直に頷く。


「わかりました。そしたら……もう少し温度を上げて、また叩く。ですよね?」

「ああ。炉の温度は既に調整してある」

「ありがとうございます」


 自分一人でやる時は、今回全部おじさんが担ってくれた炉の温度管理や混ぜる素材の管理も一人でやらなければいけないことになる。

 そう考えると、やはりVITをもう少し上げて体力的な余裕を作りたいところだが……


(あ、そういえば……)


 ふととあることを思い出して、素材を温めているうちにシステムメニューを軽く弄る。


(あった。図鑑ボーナス……スライムとポイズンスライムが体力上昇だ)


 VITを上げていくことはあまり現実的ではないと思うので、私が目指すべきはこちらだろうか。

 今後は、定期的に図鑑埋めの時間を作ろうかな。

 ちなみに、スライムたちの図鑑ボーナスはこんな感じだ。


 ≪スライム(水)理解度 討伐数0% 生態理解度60% 核0% 生息域13%  合計18%≫

 ≪理解度ボーナス 体力上昇≫

 ≪ポイズンスライム(闇)理解度 討伐数11% 生態理解度95% 核35% 生息域25% 合計42%≫

 ≪理解度ボーナス 体力上昇≫


 他のモンスターと比べて、全体的に生態理解度が高い。そしてそれは、テイムモンスターも同じだ。

 スライムが他のモンスターと比べて高いのは……最初の戦闘(?)の時に色々じゃれついてたからかな。肌で触れ合うと上がりやすいのかも。

 べにいもと生態が似てるからとかも可能性としては考えられるが、わたしの記憶が正しければスライムの生態理解度はべにいもをテイムする前から高かった気がする。なので、多分違うだろう。


「よし、そろそろいいだろう」


 おじさんの声が、私の思考を遮るように耳に届く。

 私がそんな考察をしているうちに、素材が良い感じに熱しきったようだ。


 素材を炉から取り出して、金床に置く。

 そしてグッと金槌を握りしめると、それを思いっきり振りかぶった。


「……行きますっ!」


 これで、最後の仕上げ作業となる。

 私は改めて気合を入れると、そんな宣言と共に金槌で素材を叩き始めた。


「ちなみに、今回もまんべんなく叩くことを意識しろ。変形度の上がり方に、影響が出る」

「はいっ!」


 どうやら整形度は完成した時に知らされるとかではなく常に状況を教えてくれるようで、一発叩いた時に出てきた0%という表示の数値が、叩くたびに上がっていった。

 こういう明確な目標値とかがあれば、モチベーションの保ち方も変わってくる。努力の成果が目に見えてわかるというのは、こちらのやる気も保ちやすいというものだ。


「ふっ!たゃっ!」


 そしてその数値の増加率は、叩く度に上がっていく。

 おそらくは、これがまんべんなく叩けている証拠なのだろう。

 最初に0%という数値を叩きつけられた時は百回以上も叩かなければいけないのかと戦慄もしたが、これなら無事に叩ききれそうだ。


 なんて意気揚々と叩いていたところで、おじさんがストップをかけてくる。


「待て。一旦、素材を温めなおす」

「えっ……あ、冷え始めちゃうからですか?」

「ああ。このペースだと、変形度が上がりきる前に、素材の冷え方が急激になってしまう」

「わかりました」


 とは言ったものの、まだ開始して間もないくらいだ。

 50%くらい行ってから熱するのでもいいのでは……と思ったが、おじさんのことだし、これにも何か理由があるのだろう。


「……よし、再開しろ」

「はい」


 素材を炉で熱しなおしてから間もなくして、おじさんが再び指示を出す。

 熱していたのは十秒にも満たないが、それでも大きな影響がある……のかな。


「ふっ!せいっ!」


 それからは、ひたすら素材を打ち込み続けた。

 おじさんも途中からは私の声に対する学習を済ませたようで、ただじっと素材を見つめていた。


「ほっ!とっ!……これでっ、終わりっ!」


 金属同士がぶつかった時に鳴る音が高らかに鳴り響いて、変形度が100%に達する。

 今回使った素材は決して金属ではないのが、そちらの方が雰囲気があるので何も言うまい。


「……お疲れさん。あとは、素材が冷えるのを待つだけだ」

「これ、冷えるのを待っている間に耐久値が無くなったらどうなるんですか?」

「もちろん、失敗だ。だから、完成のタイミングを見越して熱しなおした」

「なるほど……」


 だから、あのタイミングだったというわけか。

 そしてその答え合わせをするように、私が打ち込むのをやめた少し後に素材が纏っていた赤い光が消え始め、そこから間もなくして素材自体が発していた赤みも収まっていった。


「わぁ……すごい急に……」


 そんな言葉を発する間も無く、あれほど熱そうに赤みを纏っていた素材が冷え切ってただの黄色い金属のような見た目に変わってしまった。

 そして、完成というコマンドが現れる。


「もう、完成させても大丈夫なんですよね?」

「ああ」

「よし……完成っ」


 長かったような、短かったような。

 私の初鍛冶は、無事に完成という形で終えたのだった。

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