第70話 かじ、もっとむずかしい?


「……こっちへ来い」


 そう言って奥へと入っていったおじさんについていくと、謎の大きな機械が置いてある部屋へと連れていかれた。


「これが、鍛冶台だ」

「鍛冶台……」

「見たことは、あるか?」

「初めて見ました」

「……そうか」


 おじさんの言葉はとても単調で、何を考えていてどう思っているのかが全くわからない。

 それ故に、どことなく威圧感のようなものをがあり、ちょっと怖い感じの人だ。


「鍛冶には、鍛冶台を使う。使い方は複雑だが、やることは単純だ」

「はい」


 おじさんの言葉に、真剣に耳を傾ける。

 とてもじゃないが、聞き逃しなんてしたらもう一度聞き直せる気がしない。

 別に怒られたりはしないのだろうが、なんとなく怖いのだ。


「鍛冶は、素材アイテムを武器や防具に変える。言ってしまえば、それだけのことだ」

「変える……」

「「作る」と表現する人もいる。……だが、俺はそうは思わん」


 おじさんはそこで言葉を止めると、さらに奥の部屋から大きな何かの鱗を持ってきた。


「鍛冶をするには、まずメイン素材を決める必要がある」

「メイン素材?」

「そうだ。例えば、この『サンダードラゴンの鱗』をメイン素材にするとして……」

「……?」


 おじさんがそこで言葉を止め、じっと私のことを見つめてきた。


「……出来上がるモンは、どうなると思う?」

「えっと……『サンダードラゴンの鱗』の素材特性を持ったものが出来上がると思います」

「ほう……」


 私の答えが合っていたのか、そんな声を漏らすおじさん。


「素材特性という言葉を、知っているんだな」


 そこに驚いたわけか、と私の中でおじさんの反応が腑に落ちる。

 NPCの感覚からしたら、調合も鍛冶もやるというのは珍しいのかもしれない。となると、鍛冶を知らない人がその専門用語を知っていたら驚かれても仕方のないことなのだろう。


「はい。この間調合師の方に調合を教えて頂いた時に知りました」

「……調合、か」


 私の言葉を意味深に復唱するおじさん。

 調合に苦い思い出でもあるのだろうか。


「まあ、いい。鍛冶と調合は、似ている部分もあると聞く。説明が不要だと思ったら、口を挟んでくれて構わん」

「わかりました」


 どうやら、苦い思い出とかそういう話ではなく、調合のことを知らないから説明の仕方で悩んでいただけだったようだ。


「話を戻すが、『サンダードラゴンの鱗』で作った装備は、漏れなく『サンダードラゴンの鱗』の素材特性を持つ。その過程で、他の素材の素材特性を混ぜることもできる……が、そこだけは絶対に変わらん。出来上がるモンも、どんなに手を加えようと、『サンダードラゴンの鱗』の性質を強く持つ。だから、あくまで、「変える」……というわけだ」


「強く」というと、メインにした素材は他の素材よりも出来上がる装備品に対する影響力が強く設定されているということだろうか。

 そもそも調合ではメイン素材なんてワードは出てこなかったので、そこが調合と鍛冶の大きく異なる点なのだろう。


「次に……もう一つ、鍛冶を始める前に決めておかなければならないことがある」

「……」

「それは……何を作るかというところだ」


 それはそうだろう。

 と思ったのだが、どうやらこれは感覚的な話ではなく、もろにシステムに関する話だったらしい。


「メイン素材を鍛冶台に置くと、目標生成アイテム種類を問われる。……試しに、これをそこの台に置いてみろ」

「え……いいんですか?」

「どうした?何か問題があるのか?」


 おじさんがポンと渡してきたのは、先ほどの説明で使った『サンダードラゴンの鱗』だ。

 どう考えても、ドラゴンの素材なんてまだ手にしていいものではないだろう。私は既にそういうものを色々と手にしている気もするが、まさかここへきてそういうものをNPCの手からサラッと渡されるとは思っていなかった。


「その……これは、凄く良い素材じゃないんですか?」

「……いや、そいつは粗悪品だ」

「粗悪品?……でも、ドラゴンの素材ですよね?」


 まさか、ドラゴンなんてそこら中にいるものという扱いなのだろうか。

 そんな私の疑問に、おじさんは髭をなでながらゆっくりと答えた。


「……そこら辺は、先の話になる。……だが、いいだろう。気になるのなら、素材の持つステータスと、その見極め方の話をしてやろう」

「ありがとうございます」

「素材アイテムには、十種類のステータスがある」

「十……」


 想像以上の数に、思わずオウム返しをしてしまう。


 おじさんは両手の指を立てると、それを折り曲げながら十種類のステータスの説明を始めた。


「まずは、魔属性と属性値だ」


 そう言いながら、左手の親指と人差し指を折り曲げる。


「素材アイテムには、それぞれ決められた属性がある。その属性を示すのが、魔属性。強さを示すのが、属性値だ」


 魔属性というのは、調合でも似たような話を聞いた。調合では、それに対応する基液を使って素材特性を溶かし込むとかそういう話だったはずだ。

 しかし、それだけではなくその強さを示すステータスもあるらしい。調合ではその強さは関係ないが、鍛冶ではそこが重要となってくるのだろうか。


「メイン素材には、他の素材を混ぜることができる。その際に、魔属性と属性値……あとは、これから説明する他のステータスにも、影響を及ぼす。そして……」


 おじさんはそこで言い淀み、もじゃもじゃの髭をなでまわした。

 しばらくの沈黙が流れ、妙にいたたまれない気分になる。


「……?」


 困った私が軽く首を傾げると、それを見たおじさんがようやく口を開いた。


「魔属性と属性値に関する影響は、かなりややこしい。その話は、また今度にしよう」

「……わかりました」


 そう言われてしまうととても気になるが、これからまだ八種類のステータスに関する話が出てくると思うと、話を掘り下げても覚えきれなくなってしまうだろう。

 私はその好奇心を一旦心の隅へと追いやると、残るステータスの説明に集中した。



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