第69話 すごいおじさん?



 無事にアザッレの街に着いた私だったが、鍛冶師や料理人ではなくとあるものを探して街の中を回っていた。

 もちろん鍛冶師や料理人のところにも行くつもりだが、それ以前に確かめておきたいことがあったのだ。


 ちなみに、武器化しているメリアは街の中にも持ってこられるようで、今はメリアを抱きしめながら移動している。


(……あ、あれとかそうかな)


 そんな中でようやく見つけた目的のもの。

 それは、売り出されている空き家だ。


(んー……SALEとは書いてあるけど……)


 一体どういう手続きを踏めば買えるのか。

 不動産屋さんみたいなところがあるのだろうか。とりあえず、空き家自体に来てみても特にこの家を買うといったコマンドは出てこなかった。


(家具を置いておく場所として家が欲しいんだけど……って、なんか目的と手段が入れ替わってる?)


 普通は家があって初めて家具が……いや、家は暮らすためにあるものだし、それならまず暮らしを楽にするために家具があって、それを守るものとして家があるという考えをすることも……なんて、そんなことどちらでも構わないのだが。


(うーん、不動産屋さんね。それっぽいものは一度も見たことないけど……そもそも、ここで暮らしているNPCはどういう生活を送っているんだろう)


 VCSの世界に、日時という概念はない。

 時間帯はその場所によって固定されており、夜の場所はずっと夜だし昼の場所はずっと昼だ。そして街の中は、基本的には常に昼となっている。


 それでもNPCには生活スタイルのようなものが用意されており、アイテムショップも行く時間帯によって働いている人が違ったりする。きちんと、働く時間と休みの時間がそれぞれのNPCに用意されているのだ。


 ……なんて話をしたかったわけではなく。

 つまり、彼らは誰から家を買ってこの街で暮らしているのかという話だ。

 もっと言うならば、この世界の社会の形式という話だろうか。

 資本主義社会のような感じなのか、貴族社会のような感じなのか。それによって、家の買い方というのも変わってくる。


(後でデラキナにでも聞いてみようかな。とりあえず、鍛冶師と料理人の師匠を見つける方を優先しよう)


 そう目的を切り替えた私は、これまで歩き回った中で見つけていた鍛冶師の看板を出していた家へと行ってみることにした。

 料理人の方は、それっぽい看板を一度も見かけなかった。もしかしたら料理スキルはまた違う習得方法かもしれないので、これもまたデラキナに聞いてみることにしよう。




「すみません。鍛冶を学びたいのですが」


 剣と槌の看板を出している家の扉をノックし、中へ向けて声をかける。

 しばらく待っていると不意に扉が開き、中からもじゃもじゃの髭を生やしたおじさんが顔を出してきた。


「……」

「えっと、初めまして」

「……」


 じっと私を見つめるそのおじさん。

 私もじっとそのおじさんの瞳を見返していると、しばらくしてようやく返事が返ってきた。


「……入れ」

「おじゃまします」


 おじさんはとても低くてしわがれた声をしていて、なんだか喋ることがあまり好きそうではない感じがする人だ。

 まあ、職人というのは往々にしてそういう人が多いイメージだが。


「んんっ……お嬢ちゃん、名は?」

「ゆきひめです」

「そうか」

「……」


 会話のテンポがとても遅い。

 妙な緊張感もあるし、なんだか就職活動でもしに来ているような気分だ。

 ……いや、弟子入りって本来はそういうものだっけ。


「……鍛冶師に、なりたいのか」

「はい」

「……」


 私をじっと見つめて、何を考えているのだろうか。

 まさか、鍛冶をするにはSTRが足りないとか?

 力仕事ではあるだろうし……


「何故……鍛冶師を目指す?」

「色々やってみたいので」

「……」


 咄嗟に素直な気持ちで答えてしまったが、もっと熱い答えをした方が良かっただろうか。

 そう思った時、おじさんの視線が私の顔から下にズレた。


「その武器……相当なもんだろう」

「え、あ……はい」

「そうだな……今はまだ期待できんが、光るものはある。俺が面倒を見てやろう」

「ありがとうございます」


 うーん……NPCだし、こういうセリフにも意味が込められているのかな。

 わざわざ武器の話を持ち出してきたのは、このおじさんの目に留まるような武器を持ってこないとダメだからとか?


(ていうか……)


 ふと部屋の奥を見てみると、何やらものすごい数の賞状や記念品のようなものが並べられていた。

 良く考えたらここは少し歩けばすぐ見つかるような大通りのど真ん中ともいえる位置にある家だし、実はすごいおじさんだったのかも。

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