第63話 しょくじたいむ



「よーし、べにいもおいでー」

「ぷぎ?」


 私の言葉に、べにいもが反応を示す。

 どうやら、自分の名前くらいは憶えてくれたようだ。この調子でいっぱい話しかけていけば、簡単な言葉くらいなら理解できるようになるかもしれない。


「よしよし」

「ぷぎぎっ」


 うーん……可愛い。

 私の言葉にちゃんと反応してくれたのが愛くるしい。

 なでなで…………っと、それよりもごはんのことだ。


「べにいも、今からごはんを出すからね」

「ぷ?」


 言葉を覚えてもらうためにそう宣言をして、毒泥の入った小瓶、その辺で取れた草花三種(ポランカッサ・毒雪花・オーゼムの花)をべにいもの目の前に並べていく。

 草花たちに関しては、ポランカッサという薬草だけは調合の本で基本的な薬草として序盤に記載があったので知っている。たしか、解毒効果のある薬草だ。


「この中で食べられそうなものはある?」

「ぷぎ……」


 動かないべにいも。

 仕方ないので私はポランカッサを手に取ると、パクっと口にくわえて見せた。


「ぷっ!」


 どうやら意図が伝わったようで、私の真似をしてポランカッサを食べるべにいも。

 しかし、べにいもはポランカッサをしばらく咀嚼(?)した後、ペッと吐き出してしまった。


「それはダメだった?」

「ぷぎぎ……」


 まあ、効果的に考えればべにいもが好まないのも頷けるし、元からこれにはあまり期待していなかった。

 次も食べられないものを与えてしまうと嫌がられるかもしれないので、次は空の小瓶を飲む仕草をして見せる。


「ぷっ!」


 再び私の真似をして、べにいもが小瓶ごと毒泥の入った小瓶を丸呑みにする。


「ぷぎーっ!」


 べにいもはそんな風に興奮した様子で声を上げながら、どんどん毒泥の入った小瓶を消化していく。

 しかし、流石に小瓶までは食べないようで、最終的には空になった小瓶をペッと吐き出した。


「よーしよし。美味しかった?」

「ぷー?」


 ちゃんとごはんを食べられたことを、しっかりとほめてあげる。

 こういうコミュニケーションの積み重ねが、良好な関係を築くための礎になるのだ。


「それじゃあ、残りのこれとこれはどう?」


 流石に毒沼に生えているよくわからない植物を口にするのは勇気がいるので、手に乗せてべにいもの前まで持っていってみる。

 すると、これまでの流れで私のやりたいことを理解してくれたのか、べにいもは私の左手に乗っている毒雪花を私の左手ごとパクンと呑み込んだ。


「ぷぎぎ……」


 べにいもの体内が少し熱を発生させる。

 食事中のべにいもの体内は、どことなくくすぐったい。


「ぷーっ!」


 べにいもはそう叫ぶと、体内で更に熱を発生させながら、体を構成するジェルを中でぐるんぐるんと回転させるように流動させた。

 やがて毒雪花がべにいもの体内に溶けていったので、手をべにいもの中から引っこ抜く。べにいもの中は、ドロドロでプルプルで温かかった。


「美味しかった?」

「ぷぎぎっ!」


 体を上下に伸ばしてアピールするべにいも。

 どうやら、相当気に入ったらしい。


「それじゃあ、最後にこれだね」

「ぷっ!」


 今度は、私の右手に乗っているオーゼムの花を私の右手ごと呑み込む。


「ぷぎ……」

「どう?」


 べにいもが少し微妙な反応を示す。

 これはダメだったのかな、と思ったのも束の間、べにいもは器用にオーゼムの花だけをペッと吐き出すと、私の右手を味わうように熱を発生させながら体内のジェルをぐるんぐるんと流動させた。


「こらこら、私の手は食べちゃダメでしょ?」

「ぷぎっ!ぷぎぎっ!」

「もー」


 べにいもがやたらと楽しそうなので、仕方なくそのまま右手を食べられてあげることにした。

 その間に、こちらをじっと見ていたどどの前にも同じものを一つずつ並べてみる。


「どどはどう?これは食べる?」

「キケー?」


 しかし、どどはその中のどれにも反応を示さなかった。


「うーん……毒蜥蜴の卵は食べてたわけだし、肉食なのかな?」


 そう思い、今度はストーンリザードの尻尾を出してみる。


「キケケッ!」


 すると今度は反応を示したので、そのままひょいっとどどの方に投げ飛ばすと、どどは上手いことストーンリザードの尻尾を胸でキャッチし、そのままずももも……と藁をわざわざと動かしながら体内に吸い込んでいった。


「キキッ」

「よしよし、どどは肉食なんだね」


 ちゃんとごはんを食べられたどどを、なでて褒める。

 この間コットンは全くこちらの様子を気にしていなかったので、食事は不要らしい。

 メリアは……うん。


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