第61話 さくせん:いきあたりばったり
ベッドの傍ですやすやと眠るべにいも、ベッドの上ですやすやと眠る(?)どど、ベッドの上で……ベッドの上に置かれたメリア。
そんな三匹を他所に部屋の中を探って回る私だったが、特にこれといってめぼしいものはなかった。
だが、めぼしいものがなくてもちょっとした情報が鍵になるのがこの手の謎の定石だろう。
例えばベッドの材質で時代背景がわかるとか、小物の傾向からそれが流行していた時代を割り出すとか。
尤も、そういった知識がないので、今ここで判断をすることはできないのだが。
(となると、何か役に立つものを持ち出したいところだけど……)
ラッキープリンセスである私だからか、本来はこの部屋に来るのが最後だと想定されていたからか、部屋の中の物はアイテムとして鞄に入れて持ち帰ることが可能なようだった。
が、物理的に私の力で持ち出せるようなものが何もない。この部屋に生活感のある物は一切なく、お姫様の部屋をイメージさせるベッドや大きな鏡なんかが最低限用意されているだけだったのだ。
しかし、それよりも問題なのは、一度この部屋から出てしまうとこの部屋には二度と戻ってこれない気がすることだ。
最初に、先ほどコットンに乗って上空から見た遺跡の中には、この部屋に来るためのワープ床の他にワープ床はなかった。私は遺跡内のどこにワープ床があったのかを正確に覚えていたわけではないので、このワープ床がある場所と、どどがいた空間に繋がるワープ床があった場所が同じかどうかはわからない。
そして次に、どどをテイムした後コットンに乗って上空に上がった時は、下をよく見る前に地面が視界の範囲外になってしまった。つまり、このワープ床が最初からあったのか、それとも後から現れたのかがわからないということだ。
これらを総合すると、この部屋に繋がるワープ床に関して二つのパターンが考えられる。
一つ目は、最初からこのワープ床は存在していて、たまたま私がどどがいた方を先に見つけただけで、コットンに乗って上空に浮上した際にこのワープ床を見逃しただけというパターン。その場合、どどがいた空間に繋がるワープ床は消えたということになり、イレギュラーボスと同じく青白い光を放つワープ床で且つボスがいなくなったこの部屋に繋がるワープ床も、おそらくは消えてしまうだろう。
二つ目は、最初はこのワープ床は存在していなくて、このワープ床は元々どどがいた空間に繋がっていたが、その繋がりがこの部屋に変わったというパターン。しかし、その場合でも、やはりボスがいなくなったこの部屋への繋がりは途絶えて、また別のボス部屋へと繋がってしまうのではないだろうか。
つまり、このワープ床が消えるにせよ消えないにせよ、この部屋に繋がることはもうないだろうということだ。
そんな中で、何も持ち出せないというのはかなり不味い。せめて何か一つでも、例えばこのベッドとか持ち出せればいいんだけど。
まあ一番重そうなベッドは冗談として、何かこの部屋の情報として……なんでもいいから、このベッドとか。
(うーん……)
何とかベッドを……じゃなくて、何かを持ち出す方法はないかと頭を捻る私。
先ほどのレベルアップで獲得したステータスポイントをSTRに振ったところで1から変わらないし、STR1じゃベッドなんて絶対鞄に入りきらない。今持っているものを全て捨てたとしても、それは変わらないだだろう。
(やっぱりSTRだよね。STRしかこの状況を解決できるものはない。STRを増やす方法……STR……)
力が……力が欲しい。全てを解決するような力が……
(……はっ!)
力といえばコットン。STR152の悪魔・コットンだ。
コットンに頼んで、このベッドを……
「いでよ!そして我が願いを叶えたまえ!」
「……」
大げさな前振りと共に、コットンを召喚する私。
……ちょっと深夜テンションだったかも。
というか、仮にコットンに持ち出してもらえたとしてその後どうするんだ。ずっとベッドをコットンに運んでもらいながら移動するのか?
いや、とりあえずは、深いことを考える前にできるかどうかの確認だ。
「えっと、コットンならこのベッドを持ち運んだりできそう?」
「(ピースのサインの形)」
それはどっちなの!?
なんて思った私に答えるように、コットンがまるで赤子でも持ち上げるかのようにひょいっとベッドを下からすくい上げる。
「おお……!」
なんというパワー!……というか、バランス感覚?
コットンに乗っている時は明らかに落ちないようにというシステムのアシストが発生しているし、これもその力なのだろうか。横幅ですら二メートル以上あるそのベッドを横幅三十センチメートルほどのコットンが特に巻き付くわけでもなくすくい上げているのは、どこか不安を感じる光景だった。
ただ、不安に感じるのはその光景だけで、実際のところは全くぐらついてない。しかし、全くぐらついていないのが、むしろ非現実的すぎて脳がバグりそうである。
「よし、それじゃあそのまま……じゃなかった」
まだ色々と持ち出すものを選ばなければ。
ちなみに、メリアは言わずもがな、どどですらコットンにベッドごと持ち上げられたことに気づく気配もなくすやすやと眠っている(?)ようだ。
(んー……と言っても、ベッドとか棚、カーペットとかはあっても生活感を感じる物は何もないんだよね)
棚の中には何もないし、壁に何かの飾りが施されているとかいうことも一切ない。
だからこそベッドの上にぽつんと置かれているメリアの不気味さが際立つという演出なのだろうが、この部屋から情報を得たい私としては困ったものだ。
そうなると、一番情報になりそうなのはカーペットだろうか。お姫様の部屋に使われてるレベルのものなら、いつどこで作られたものとかの記録がどこかに残されているかもしれない。
……いや、この大きな鏡もよく見たら淵のところに浮き彫りが施されていて、そういうところから何かがわかるかもしれない。
「コットン、この鏡とかも持ち出せる?」
「(ピースサインの形)」
「おー!それじゃあ、このカーペットは?」
「(バツの形)」
「そっか……二つでもう力がギリギリな感じ?」
「(バツの形)」
「……?」
首を傾げる私に、コットンがベッドを置いて、更にその奥に鏡を置いて、更にその奥にカーペットを置く。
そこで、私にもその意味がようやく理解できた。
「サイズ的な限界ってことね……」
「(大きな丸の形)」
コットンは長さが十メートルちょっとくらいで、カーペットはかなりの大きさなので持ち運びができないということのようだ。
丸めてもそれは同じのようで、どうやらあまりにも横幅をオーバーするのはNGとなっているようだった。
(うーん……でも、鏡なん持ち出しても、管理が難しいよね。衝撃とかですぐ割れちゃいそうだし……って、別に淵の浮き彫りが目的だから割れてもいいのか)
「それじゃあ、ベッド、鏡、棚の三つならいけそう?」
「(サムズアップの形)」
「よし」
それ以外の物は諦めよう。
むしろ、それだけ持ち出せれば大きな収穫だろう。
ただ、持ち出す物と方法を決めたはいいとして、持ち出した後にどうするかという問題が残っている。
デラキナのところにでも持ち込めば取っておいてくれるかもしれないが、コットンは街の中までは入れない。
となると、フィールド上のどこかに隠しておかなければならないのだろうか。
「……」
まあ、とりあえず持ち出してみるしかないよね。どうせこの部屋に残してても消えるんだろうし。
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