第60話 らっきーぷりんせすのこうさつ
「まずは……どど、君は何者なわけ?」
「キケ?」
どどを両手で持って、私の顔の前に持ってくる。
顔があるわけではないので今見つめ合っているのかそれともどどはこちらに背中を向けているのかよくわからないが、そこは深く考えないこととする。
「うーん……どどはメリアとは違って、初めは私に明確な敵意があったよね?」
「キキキッ」
胴体の部分を両手でつかみながら、両の親指でおなかの部分をさらさらと擦る。
それがくすぐったいのか、どどは体をうねらせながら声を上げた。
私はどどを掴んだまま、背中からベッドに倒れ込んでみる。
そのお姫様用のピンク色に飾られた豪勢なベッドは、とてもふかふかで気持ちが良かった。
「んー……メリアはラッキープリンセスの持ち物だったけど、どどはそうじゃなかったってことなのかな」
「ケケー」
じたばたと手足を動かすどどを解放してあげると、どどは私のようにベッドにダイブしてぼよんぼよんと跳ね回った。
「どどの次は……なんだったかな」
昨日からの流れを振り返ってみるが、案外振り返ることが少なくてもう先ほどの出来事までやってきてしまった。
まだ限定リリースから一日と半分くらいしか経っていないのだ。当然といえば当然だろう。
「うーん、ここのことってなると……まず、なんでこんなところに遺跡があるのかって話かなあ」
森の奥深くの、毒沼に侵された土地。
いや、この毒沼に関しては、ここにあった村とも言い難いくらいの集落が滅んだ後に浸食されたと考える方が自然だろうか。あるいは、それが原因で滅んだ、とか。
「毒……毒かあ」
まさか、突然毒が湧いてきてーなんて話ではないだろう。
それに、遺跡の跡地はどこもボロボロで朽ち果てていた。それは、どれほど前の時代のものなのかはわからないので自然と崩壊したという説も残っているが、何か争いがあったという方が納得ができるような崩れ方だった。
「んー……」
ちらりと、私の頭上で寝っ転がるどどを見る。
毒といえば、どどには『毒の海』というスキルがある。あのスキルならば、何度もお見舞いすることでこの程度の集落なら毒の沼に沈めてしまえるだろう。
「でも、それだと今回のどどの行動と結びつかないよね」
どどがこの集落を滅ぼしたというのなら、何故私をこの部屋へと誘ったのかが良くわからない。
おそらく、この部屋が毒沼エリアの遺跡の中にあり、そこにメリアとラッキープリンセスの生霊(?)のようなものがいたということは、ここがラッキープリンセスが亡くなった場所なのだろう。
そこをどどが滅ぼしたとなると、どどとラッキープリンセスは敵対関係だったということだ。どどが私のことをラッキープリンセスだと思ってこの場に誘ったのなら、そうする意味が良くわからない。テイムされたからそこら辺の認識がねじ曲がったとかなら納得できなくもないが。
(……いや、それはないかな)
ラッキープリンセスのベッドで寝っ転がるどどからは、そんな雰囲気を感じ取れない。
それに、メリアも動かないとはいえ生きているのだ。もしも敵対関係だったとしたら、どどがラッキープリンセスのベッドでだらけているのを黙って見過ごしはしないだろう。
「んー……結局振り出し?」
どどじゃないとすれば、誰なわけ?という話に戻ってしまう。
しかし、ここに関してはこれ以上考えても仕方ないだろう。
「まあ、最終的に何かに滅ぼされたとして、その理由も置いておくとして……その前に、何でこんなところで暮らしていたのかって話だよね」
私の認識が間違っていなければ、プリンセスというのは王様の娘を指し示す言葉のはずだ。
こんなちっぽけな集落で王様なんて役職が発生するとは思えないし、そうなるとラッキープリンセスがそう呼ばれている理由もこの集落以外の何かが要因ということになる。
「どこかの王国の娘として生まれて……なんやかんやあって、こんな森の奥に隠れ住んでた……っていうのは確定だよね」
問題はもちろん、そのなんやかんやの部分だ。
追放でもされたのか、王国が滅んでしまったのか……最終的に隠れ住んでいたところを何者かに殺されたということは、何か不穏なことがあってここに隠れ住んでいたというのは間違いないだろう。
とはいえ、これに関しても情報が足りなさすぎるのでこれ以上は突き詰めようがない。
「あとは……ラッキープリンセスっていう異名の理由かな」
当然、そう呼ばれていたことには相応の理由があるはずだ。
その理由に関してはいくら考えても想像の域を出ないが、この異名が付けられたのは確実にどこぞの王国で暮らしていた時だろう。可愛らしいとかそういうふわっとした意味合いでのプリンセスということならその限りではないが、もしそうなら言葉の適応範囲が広すぎるので、今はその線を切って考えた方が話がまとまるので考えないものとする。
そして、ラッキープリンセスというのが王国で暮らしていた時に付けられた異名であるならば、その王国の国民たちから好意的に思われていたというのは堅いだろう。皮肉を含めた命名ならば逆の意味ということになるが、情報がない段階からそんな裏をかいてもしょうがないと思うのでこの線も考えないこととする。
結論としては、どこぞの王国のお姫様が幸運の持ち主で、その幸運で何かしらの功績なんかを挙げて、ラッキープリンセスという異名で呼ばれるようになり……なんやかんやあってこの森の奥深くで暮らしていたところを、何者かに殺された。ということになる。
これだけではわけがわからないが、今の段階ではそんなものだろう。
私が集めていくべき情報は、どこの王国の話なのかということと、ラッキープリンセスがそう呼ばれることになった要因と、最終的に森の奥深くで暮らしていた理由と、何故その集落が滅ぼされたのか、という四点だ。
とりあえずの入りとしては、双翼の森の毒沼エリアに関する伝承とかを調べていけばいいのだろうか。それまでにラッキープリンセスが暮らしていたであろう王国の話は、ちょっとその国に関する情報が少なすぎて探りようがない気がする。強いて言うなら、この部屋がおそらくラッキープリンセスがその王国で暮らしていた時に使っていた部屋だと思われるので、探ってみて何か見つかればラッキーというくらいだろうか。
あとは、メリアのこととかを調べるのも糸口になるかも。どれほど昔の話かにもよるが、ラッキープリンセスに直接関わる物として色々と情報は持っているはずだ。それこそ、その手の職人なら、メリアの作り方や状態を見てどれくらい昔に作られたものなのかを推測できるかもしれない。
何やら壮大な話っぽいし、どうせ条件1がロックされている以上は焦って調べても意味がないので、折を見て少しずつ調べていこうかな。
とりあえず、今日はもう自分のステータスのことは後回しにして、この部屋を軽く調べてからべにいもたちのごはんを済ませて終わりにしよう。
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