第59話 ぶきかと、しゅぞくしんかのかぎ



 ≪武器化 を使用しますか≫


 はいを選択する。

 するとメリアが光を放ち……光を放った。


「?」


 一見何も変わっていないが、今のでシステム的な扱いが変わったということだろうか。

 一応、自分のステータス画面を開いてみる。


「……うん、装備中の武器が『嘆きのテディ・ベア』になってる」


 先ほどまでは、エリーナからもらったステッキを装備していたはずだ。

 といっても、物自体は鞄の中にしまっていたのでシステム上装備中となっていただけだが。


「ということは……?」


 今のメリアは武器という扱いなので、アイテムとして鞄の中にしまっておけるということだろうか。

 そう思ってメリアを鞄の中にしまってみると、メリアは鞄の中でその姿を消してしまった。


「お」


 アイテム一覧を確認してみる。

 するとその中に『嘆きのテディ・ベア』がちゃんと表示されており、取り出してみると再び私の手にメリアが現れた。


「おぉー……」


 だからどうしたと言われてしまえばそれまでだが、なんだかすごい発見をした気分だ。


「っと、武器としての性能はどうなんだろう」


 改めて装備中の『嘆きのテディ・ベア』の詳細を表示する。

 すると、そこには普通の武器とは大きく異なることが表記されていた。


 ≪嘆きのテディ・ベア 魔法媒体武器/盾 INT+21/DEX+24/LUC+331。嘆きのテディ・ベアの性質を持つ≫


 ちなみに、普通の武器だとこういう表記だ。


 ≪スタンダードステッキ 魔法媒体武器 魔法が使えるようになる基本的なステッキ≫


 本来は具体的なステータスの加算などの表記はなく、武器の種類に関しては明記されているが、あとはふわっとした説明があるだけなのだ。

 それが、『嘆きのテディ・ベア』の場合、加算されるステータス値もその効果も明記されている。尤も、効果の方は『嘆きのテディ・ベア』の仕様を把握してなければわからないものだが。

 おそらくメリアは、『武器化』すると自分のステータスを私に加算してくれるという仕様なのだろう。本来なら裏で行われているはずの武器によるステータスの補正が表で行われているのは、『武器化』の一つの長所なのかもしれない。


「ていうか、LUC+331って……」


 半ば呆れながら、自分のステータスを開いてみる。

 するとそこには、LUC482という表記があった。


「……」


 まあ、LUCはともかく、INTが21加算されているのはとても大きい。

 本来レベル60くらいで手に入るはずの武器と考えるとどうなのかという点は判断に困るが、少なくとも現状では最強の武器であることは間違いないだろう。


「あれ、そういえば……」


 LUCのプラス補正が高すぎて感覚が壊れていたが、改めて考えてみるとメリアのステータスには少し違和感がある。

 どどがレベル50で基礎値に120のステータスポイントが自動で割り振られていたのに対して、メリアはレベル60でそれを優に超えている。


「上から29、46、32、107で、最初が1だから……合わせて+210かな?」


 たしか、どどの時はレベル1からレベル30は+2、レベル31からレベル50は+3で合計120という予想だった。

 これに合わせるとレベル51からレベル60が+9といううことになってしまうが、流石にそれはないだろう。順当にレベル51からレベル60も+3だとすると、60不足するわけで……


「あー、メリアももらえるポイントが1多いってことかな」


 私の場合は初期ポイントは他の人と変わらず5ポイントだったが、テイムモンスターはそこも一律で+2だったはずで、メリアの場合はそこにも+1の補正が乗ったのだろう。

 そう考えれば、不足分の60に説明がつく。


 さて、メリアのステータスに関してはこんなものだろう。

 次は、獲得した称号の詳細を確認してみる。


 ≪誘われし者 ユニーク種族限定称号。自らとゆかりのあるユニークボスの部屋へと入ったことのある人に贈られる称号≫

 ≪秘密の鍵 種族進化条件・1を除く種族進化条件をアンロックしたことのあるプレイヤーに贈られる称号≫

 ≪闇のテイマー 闇属性モンスターを三匹以上テイムした人に贈られる称号≫


「ふむ」


『闇のテイマー』に関しては、メリアに関係する称号ではないようだ。

 しかし、今のところテイムに成功したモンスターの三匹中三匹が闇属性なのは、果たして偶然なのだろうか。

 どどとメリアに関してはラッキープリンセスに関するストーリーの線上でテイムできたという説が濃厚なので、偶然という可能性も全然あり得る。


『誘われし者』は、ユニーク種族限定の称号ということで、もうラッキープリンセスという種族がこの世界における何かを指し示しているということは確定だろう。

 そして、それは他のユニーク種族も同様と考えていいだろう。ただ、ユニークボスがユニーク種族全員に用意されているかどうかは断言できなさそうだ。そういう意味では、他のユニーク種族を引いた人のことが少し気になってくる。


 対して、『秘密の鍵』はユニーク種族限定の称号ではないようだ。

 つまり、種族の進化条件というのは全ての種族に設定されており、どの種族も等しく進化が用意されているということなのだろう。

 種族進化条件・1を除くという点は、種族進化条件・1というのが嘆きのテディ・ベアのように種族の進化の話に関係する条件ではないからなのだろう。例えば、レベル○○以上とか、このゲームならレーティングの参加権を得るとかもあり得そうだ。


 そういえば、種族進化条件といえば、4がアンロックされたというシステムメッセージが届いていたが、どこかで確認できるのだろうか。


「種族の詳細かな?」


 安直にいけばそこだろうと思って種族の詳細を表示させると、案の定そこに種族進化の項目が追記されていた。


 ≪種族進化先:??? 条件・1:未達成 条件・2:未達成 条件・3:未達成 条件・4:嘆きのテディ・ベアをテイムする≫


 種族進化先・条件2と3に関しては、詳細を表示させることはできるがどれも???で情報が隠されている。

 そこは予想通りだったが、条件1に関してはそもそも詳細を表示できなかったし、条件4に関しては他のものと同様に???で詳細が隠されていた。


「んー……本来なら、ここにヒントが出るとか?」


 この詳細は、何かしらの行動をキーにしてそのヒントが示されるものと考えれば、私はそのヒントを得るための行動をしていないので条件4の詳細が隠されているままだということになり、???のままなのも納得が行く。


 条件1に関しては、普通に活動をしていれば自然とアンロックされるものだから詳細がないのだろう。

 そして、そこがアンロックされた時に初めて種族進化というシステムを知り、自分の種族に関する何かを探して回り始めるというのが運営の想定した流れだったと考えることができる。

 だとするとやはり、私はその運営の想定を飛び越えて、しかもよりにもよって最後の条件をアンロックしてしまったらしい。


「……でも、それはその鍵が始まりの街の近くにあるのが良くないっていうか……」


 誰に対しての言い訳か、そんな言葉を口に出す。

 実は物語における重要なものが最初の街の近くにありました!なんて流れはストーリーの道筋が決まっているゲームとかなら胸アツかもしれないが、オープンワールドでしかもその鍵に不思議な力で近づけないように設定されているとかのブロックもなければ、なんだかよくわからないままに見つけてしまいこうなるという可能性もあるだろう。というか、現にそうなってしまっている。


 もし想定されたストーリーの流れのまま最終的にここにたどり着いていれば、何故グリーシャの街が始まりの街だったのかとかも実は何か意味があって、それに気づいて震えたりできたのかもしれない。

 しかし、いきなり最後の鍵を見つけてしまったことで、そうなるんだろうな、グリーシャの街が始まりの街だったことに意味があるんだろうな、ということを既に察せてしまっている。


「まーでも、これはこれで面白い……かも?」


 物語なんかでも、最初にクライマックスシーンを見せてから時間が巻き戻ってストーリーが始まるみたいなものは少なくはない。

 せっかくなんだし、そういう楽しみ方をできると前向きに捉えることにしよう。

 現時点で持っているラッキープリンセスに関する情報と、その謎をまとめてみようかな。

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