第58話 めりあ



 落ち着いて情報を整理したいところだが、まずは先ほどから鳴り響くこのアナウンスの話をさせてほしい。


 ≪ゆきひめ により、ユニークボス『嘆きのテディ・ベア』がテイムされました。これにより、ユニークボス『嘆きのテディ・ベア』が発生しなくなります。繰り返します───≫


 また名前を晒されました。

 それと、どうやら嘆きのテディ・ベアはイレギュラーボスではなくユニークボスとかいう代物だったらしい。ワープ床はイレギュラーボスと同じ感じだったけど。通常のボス以外は全部青白い光のパターンなのかな。

 アナウンスの内容も撃破じゃなくてテイムになってるし、ユニークボスは撃破する分にはまた湧いてくるボスだったようだ。それに対して、どどは撃破でもテイムでも一度しか湧かないボスだと推察できる。

 あと、多分これって私がユニーク種族であるっていう情報も含んでるよね。まあもうどうでもいいけど。


 ちなみにこのゲームではフレンド登録をした人にしか個人メッセージを送れない仕様だが、フレンド申請はキャラネームで検索して送ることができたりする。

 フレンド申請の受信箱は見ていないし、今後も見ることはないだろう。通知も切ってある。


 なんてことはどうでもよくて。

 そんなことよりも確認すべきことは……


「えーっと、テイム出来たってことは、生きてるんだよね?」

「……」


 何も反応がない。ただの屍のようだ。

 なんて冗談は置いておいて、本当に反応がないし、生きているとも思えない。……言ってること全く同じだった。


「どど、この子って生きてるんだよね?」

「キキ?」


 首を傾げるどど。

 わからないんだろうな。質問の答えじゃなくて、そもそも私の言葉が。


 まあいいや、とりあえずステータスを確認しておこう。

 テイムした時にレベルが上がったし、この子も多分相当レベルが高いはずだ。


「えーっと、レベルが……60」


 そりゃそうだよね。

 よくわからないけどなんたら条件・4を達成した時に手に入れるはずのテイムモンスターだもんね、この子。

 話の流れをすっ飛ばしてるよね完全に。これもう事故だよ事故。


「……あ」


 レベル60もびっくりだが、驚くべきこと……いや、考えてみれば当然のことでもあるが、それでも私は驚いてしまったことがもう一つあった。

 それは、既に名前が付けられていたということだ。


「メリア……だって」


 そういう言葉には詳しくないので、何を意味しているのかはよくわからない。

 だが、この子もきっとかつて呼ばれていた名前で呼ばれる方が嬉しいだろう。私はラッキープリンセスではないが、ラッキープリンセスなのだから。


「メリア、よろしくね」

「……」


 当然ながら、反応はない。

 むしろボロボロだからちょっと不気味なくらいだ。

 なんだか急に冷静になってきた。この年でテディベアに話しかけてるってどうなのだろうか。

 深く考えるのはやめておこう。


 さて、メリアの確認の続きだが、ステータスを見るのはちょっと勇気がいるので、先にスキルを見てみよう。

 戦ってすらないから、どんなものを持っているのか気になるところだ。


「スキル、表示っと!」


 そんな声をかけながら表示したスキルの中には、なにやら特別そうなスキルが混じっていた。


『武器化』

『嘆きの結界』1 闇系範囲防御スキル 強化内容:耐久0 範囲0 連射性0 消費0 強化ポイント0

『呪いの連鎖』1 闇系フィールド効果 強化内容:確率0 持続時間0 連鎖範囲0 連射性0 消費0 強化ポイント0

『怨霊召喚』1 闇系召喚魔法 強化内容:強さ0 召喚数0 兵種数0 持続時間0 連射性0 消費0 強化ポイント0


「『武器化』……?」


 よくわからないが、明らかに戦闘系のスキルではないだろう。

 というか、そのまま文字通りの意味なのかな。強化とかもなさそうだし。


 だとすると、メリアは戦闘系のスキルが三つということになる。

 レベル60のボスだと考えると攻撃パターンが少なそうだが、この『怨霊召喚』というので色々苦戦させられるボスだったのだろうか。

 なんて考えたところで、もう確かめようがないのだが。


 そして当然のようにスキルポイントが106ポイントある。

 どどのこともあるが、いつかちゃんとスキルを取得させてあげた方が良いのだろうか。でもボスモンスターは超強力な固有スキルがあるし、下手なスキルを取ってそっちを使ってしまう可能性を増やすくらいならこのまま放置の方が強そうだ。


 なんて考えながらメリアのスキル画面を触っていると、『武器化』だけが違う反応を示すことに気が付いた。


「……ん?あ、このスキル……」


 ≪武器化 を使用しますか?≫


 やっぱり。

 なんか発動させられそうだなと思ったら、本当に発動させることができてしまった。

 このスキルは、主人である私に発動権があるスキルのようだ。


「まあ、それは後で試すとして……」


 一旦いいえを選んでおく。

 私には、大きな大きな、ステータス確認という仕事が残っているのだ。


 しかし、メリアのステータスは予想があまりつかない。

 どどはスキル構成が明らかに魔法型だったためINT型だったのだろうが、メリアは防御スキル・フィールド効果・召喚魔法というステータスに関わりのなさそうなスキルしか持っていない。

 果たして、メリアのステータスは───


 ≪STR0≫

 ≪INT21(29ー8)≫

 ≪VIT57(46+11)≫

 ≪DEX24(32ー8)≫

 ≪AGI0≫

 ≪LUC331(107+224)≫


 あー、らっくさんびゃくさんじゅういち。ラック三百三十一?……LUC331。

 うん。確実にうちの子ですねぇ、これは。


 ていうか、0とかいうステータスもあるけど。押しても詳細すら表示されない。

 ステータスというのは、本来どんなにマイナスされても1だったはずだ。


「んー……低いとかじゃなくて、そういう概念が存在しないってことなのかな」


 つまり、メリアはAGIが0だから、動かない。動かないから、力という概念もなくてSTRが0。という感じだろうか。

 何やら特別な仕様が多くて、まだまだ秘密を隠していそうだ。メリアについても、色々と実験を重ねていく必要があるだろう。


 そしたら次は、『武器化』を試してみようかな。

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