第57話 なげきのてでぃ・べあ




 ≪称号:誘われし者 を獲得しました≫

 ≪レベルが24になりました≫

 ≪レベルが25になりました≫



 そんなシステムメッセージが流れてくる。

 どうやら、無事にワープが終わったようだ。


「……ていうか、称号?」


 ここに来るのは二度目のはずだ。

 今更何がトリガーとなって称号を貰えたというのか。

 それに、称号一つで二つもレベルが上がったけど。意味がわからない。


「キケケケケッ」


 困惑する私を呼び戻すように、どどが声を上げる。

 気が付けばどどは部屋の中の方へと進んでおり、ふわふわと体を上下にゆっくり移動させながら私を待ち構えていた。

 そのどどの周りを見てみると、前回どどと戦った時とは明らかに違う、子供部屋のような空間がそこには広がっていた。まさか、同じ場所にイレギュラーボスが再び湧いたということだろうか。


「……とりあえず、コットンは戻っておいてもらえる?」

「(OKサインの形)」


 コットンが倒されてしまうと非常に困るので、召喚状態を解除しておく。


 どどはこのことを知っていて、わざと私をここへと招き入れたのだろうか。

 とてもじゃないが、私一人でボスに勝てるとは思えない。先ほどのようにどどが戦ってくれるのならば勝ち目もあるかもしれないが、どどは既に臨戦態勢を解除してしまっている。

 もしくは、どどの時のように運良く相手の攻撃を全部無効化できれば……


(……いや、そもそも、そんなこと一回でも起きたことがおかしいよね)


 これはあくまでゲームだ。私の仕様も、ボスの攻撃手段も、人の手で作られている。

 だとすると、それは制作者同士のすれ違いで起きてしまったバグともいうべき抜け穴か、意図的に制作された何かの意図を含んだ仕様か。

 そして、その私に攻撃をことごとく無効化されたどどが私をここに招き入れているという事実が、それは後者なのではないかと私に囁いてくる。


「……」


 どの道、ここまで来たらもう引けないのだ。

 考えても仕方がない。

 意を決して、ボス部屋の中へと一歩足を踏み入れる。

 直後、ゴーンゴーンゴーン……という鐘の音が部屋の中に鳴り響いた。


「……?」


 何事かと、足を止めて様子を見守る。

 しかし、鐘の音が鳴り響く以外のことは何も起こらず、どどもただ黙ってこちらを見つめていた。


 二歩、三歩とゆっくり足を踏み入れていく。

 やがて部屋の二割くらいのところまで辿り着いた時、私の目の前にぼんやりと小さな人影のようなものが現れた。

 その人影のようなものは徐々にその姿を映し出していき、それが誰なのかをはっきりと示し始める。


(……これって、まさか!)


 小柄で華奢な身体。青よりも赤の色素が強めな薄紫色でふわふわの髪。

 とても豪華そうだが、ところどころよれているドレスを身にまとった少女は。


(私……)


 いや、違う。

 例え全く同じの容姿をした人だとしても、これが私ではないということはわかる。

 きっと、彼女は───ラッキープリンセスだ。


 私がそんな考えに行き着くと同時に、目の前の少女が屈託のない笑顔を浮かべる。

 少女の純真無垢な笑顔に、私はどこか胸の内が締め付けられるような気持ちが浮かんできた。


(なんで、こんなところに───)


 そんなことを思ったのも束の間、少女の幻影はどんどん薄くなっていき、やがてそこには最初から何もなかったかのように綺麗さっぱり消えてしまった。

 そして、彼女の幻影の後ろに隠れていたお姫様が使うような大きくて豪勢なベッドの上にあるテディベアが、その姿を現す。


「え……」


 思わず漏れてしまう声。

 何故なら、そのテディベアの上に、青色のカーソルが表示されていたからだ。


「……」

「……」


 その傍で佇むどどに視線を向けても、どどは何も答えずにこちらをじっと見ていた。


(手に取れ……ってことなのかな。でも、この子……多分、さっきの女の子───ラッキープリンセスのものだよね)


 一応、私もラッキープリンセスではある。

 だから、このテディベアを持っていく資格があるということなのだろうか。


 それに、どどは……どどは、何をどこまで知っているのか。

 どどが私をこんな核心的な場所に誘ったのは……いや、そもそもどどがこの遺跡にいて、私にテイムされたのは、どどがラッキープリンセスの関係者だったからということなのだろうか。


 そんな思考を振り払って、テディベアと向き合う。

 そのテディベアはかなり黒ずんでいて、ボロボロで、右目が外れていて、左腕もちぎられたような形跡を残してなくなっていた。


 少しの衝撃でも崩れて壊れてしまいそうなテディベアを、そっと手に取る。

 すると、私の視界にシステムメッセージがなだれ込んできた。




 ≪嘆きのテディ・ベアのテイムに成功しました≫

 ≪レベルが26になりました≫

 ≪種族進化条件・4をアンロックしました≫

 ≪称号:秘密の鍵 を獲得しました≫

 ≪レベルが27になりました≫

 ≪称号:闇のテイマー を獲得しました≫




 またレベルが上がってる……

 というか、種族進化条件とは?しかも4って、なんか明らかにストーリーをスキップしてる感あるんだけど。


「キケケッ」

「……どど、ありがとね」

「キキー」


 なんだかよくわからないが、どどのおかげで色々と大事なものを手に入れた気がする。

 ご褒美に頭の部分をなでてあげると、どどは気持ち良さそうな声を漏らしながら腕をぷらぷらと揺らすのだった。



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