第56話 どどのようすが……


 コットンに乗って双翼の森の毒沼エリアを目指しながら、これから確かめるべきことを脳内でまとめていく。


(まずはワープ床がどうなったのかを見ていこうかな。マップ的には……あったあった。ここが遺跡だから……まあ、行けばわかるかな)


 毒沼エリアはかなり広い上に一面毒沼の目印となるような場所が少ないエリアだが、あのワープ床は遺跡にの赤にあったので比較的わかりやすい場所だ。

 遺跡内のどこかまでは覚えていないが、遺跡自体はそこまで広くないのでぐるっと一周すればいいだろう。


(そういえば、結局あそこは何の遺跡だったのかな)


 あんな森の奥深くにある、大した規模もない集落の跡地。おそらくは三十人も暮らしてはいなかったのだろう。家の跡地と思われるものも小さなものがまばらにあるくらいで、あの大きさではとても複数人で暮らしていたとは思えない。

 それに、あのエリアだけ猛毒の沼が発生しているのも謎だ。ゲームなんだし、そこまで深い意味はないのかもしれないが。


 と、そんなことはひとまず置いておいてだ。


(次はべにいもとどどのごはんだよね。一応、コットンもだけど)


 仮にコットンが飲食をするにしても、毒沼エリアのものは食べないだろう。コットンには申し訳ないが、今回はべにいもとどどの食事の確保を優先とさせてもらう。


 べにいもには毒沼の泥があるとしても、あのあたりに生えていた植物とかも与えてみて反応を窺いたいところだ。できるだけ好物を食べさせてあげたい。

 どどに関してはあの辺りのものを食べるとは思えないが、一応あそこに湧いていたボスモンスターだ。あのエリアが何かしらどどのゆかりの地である可能性はある。だとすると、食べるものも……毒蜥蜴の卵なら食べてた(?)けど。


(いや、コットンもそうだけど、そもそもどども飲食が必要ないって可能性もあるか)


 一応毒蜥蜴の卵は食べていた(?)が、架空上の生物なのだし、物を食べることはできるが食べなくても良いという可能性はある。それに、そもそも毒蜥蜴の卵を吸収していたあれが食べるという行為ではなく別の何かだったという可能性もあるわけで。


(結局手探りだなあ……行ってから色々試すしかないね)


 疑問や悩みは尽きない。

 だが、手探りで謎や問題を解決していくというのも、ゲームの楽しみの一つだろう。

 せっかくなら、この謎解きを楽しませてもらおう。




「んー……遺跡は……」

「キケケケケッ」

「ん?どうしたの?どど」


 毒沼エリアにたどり着き、コットンに乗ったまま上空から眺めて遺跡を探していた私の腕を、どこか興奮した様子のどどが引っ張ってきた。

 そして、どどは毒沼エリアの一点を指し示す。


「キケッ!」

「あれは……あ、まだ残ってたんだ」


 どどが指し示す先には青白い光を放つ床があり、その周囲には見覚えのある遺跡が広がっていた。

 とりあえずワープ床に関することはこれで解決したので、次は───


「キケッ!ケッ!」

「ん、ちょっと、本当にどうしたの?」


 私がそのまま遺跡ではなく毒沼のある方にコットンを誘導しようとすると、どどが再び私の腕を引っ張ってくる。


「キキキ!ケッ!」


 どどが必死に何かを伝えようと体をわさわさと動かすが、よくわからない。

 私が首を傾げると、どどは私の代わりにコットンの先端部分を陣取って誘導し始めた。

 そしてその目標地点は、明らかにワープ床の方だ。


「もー、あそこにはもう何もないでしょ?」

「ケケ」


 どどがワープ床の方を指さす。

 問答としては明らかにおかしいので、やはりテイムモンスターには言葉が伝わらないのかな。

 コットンは完全に言葉を理解しているが、これはプレイヤーを乗せて運ぶという役割を与えられた存在なのでそういう風に特別な設定がされているのかもしれない。

 だとすると、戦闘の際にも騎乗ペットの方が扱いやすそうだ。


 そんなことを考えているうちに、コットンがワープ床のあるところまで辿り着く。

 その周囲には、どどがいた時のようにポイズンマジシャンが蔓延っている、なんてことはなかったが……あれ?


「なんか知らないモンスターがいる」

「キケケッ!」


 どどが叫んだ直後、どどの前方に大きな杖、そして後方に五枚のお札が現れる。

 理由はよくわからないが、どうやら臨戦態勢に入ったようだ。


「……いや、どどがそこまで張り切らなくても」


 しかし、相手はポイズンスライムが二匹に小さな人魂みたいなものが一匹だ。

 どう考えても相手のレベルは前回と変わらないくらいで、レベル50のどどが相手なんてしたら……


「キケケケケッ」


 どどが体をカタカタと揺らして、一枚のお札を光らせる。

 直後、轟音と共に白い閃光が辺りを支配した。


「ひゃっ!?」

「ぷぎーっ!?」


 私とべにいもが同時に悲鳴を上げる。

 これは間違いなく、『超爆発』の演出だ。


「キケケッ!」


 どどの興奮したような声と共に、脳内にキーンという耳鳴りが響く。

 視界の隅には先ほどの目の前の三匹の分どころか大量のドロップアイテムが表示されており、明らかに他のモンスターを巻き込んでのどどの圧勝だった。


「……もー、急にスキルを使ったらびっくりするでしょ?」

「キケ?」


 耳鳴りが落ち着いてから少し怒ってみたが、首を傾げるどどにはやはり伝わっていなさそうだ。

 どどはそんなことよりもワープ床の方が気になるようで、私の腕を引っ張ってそのワープ床へと誘導してきた。


「ここに乗れって言いたいの?」

「ケッ!ケッ!」


 ひたすらワープ床を指し示すどど。

 わけのわからない私は、全く同じ心境であろうべにいもと目を合わせて首を傾げ合う。……向こうは首ではなく体だが。


「んー……まあ、別にいいんだけどさ。ワープはちょっと嫌なんだよね」


 どどに言われるがまま、ワープ床の上に乗る。

 もしかしたら演出が違う可能性もーなんて淡い期待していたが、やはりワープの演出に変わりはなく、私は視界が歪むと同時に脳内が揺さぶられるような感覚を味わわされた。


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