第54話 らくしょーです
「ほっ!」
「ぎゃぅ?」
メノが左手で持った槍でストーンリザードにちょっかいを出し、相手のターゲットを取る。
しかしストーンリザードは物理防御力が相当高いらしく、メノの槍をその硬い鱗で弾き返していて全く傷を負っている気配は感じられない。
尤も、メノも全力で攻撃しているというわけではなく軽く小突いているくらいなので、それではダメージが通らないということは百も承知だろう。
「ほっ、ほっ、ほっ!」
「「「ぎゃぅ?」」」
メノはそれを幾度となく繰り返して、大量のストーンリザードのターゲットを取っていく。
やがて十匹ほどを引き連れたあたりでしばらくまっすぐに進んでストーンリザードが一列に並ぶように誘導すると、慣れた手つきで『ホーリービーム』を撃ち放った。
「はーっ!」
「「「「「ぎぅーっ!?」」」」」
ストーンリザードの断末魔が何重にも重なって、オペラ歌手の歌声のような重厚感を持って鳴り響く。
そんな光景を、私は両腕を交互に上下運動させながら、コットンに乗って上空から眺めていた。
「メノさんっ、ナイスですー」
「いえいえ、ゆきひめさんのおかげです!」
本当にそうだろうか。
いや、まあ、確かに『ホーリービーム』の火力が足りるようになったのは、しばらく『鼓舞』を使い続けたおかげで上がったスキルレベルで得た強化ポイントを全て強化という項目につぎ込んでからだ。それまでは僅かに火力が足りていなかったようで、『ホーリービーム』を二発撃つ必要があった。
とはいえ、誘導する時間と魔法を撃つ時間は圧倒的に前者の方が長いので、時間効率的にはあまり差がない。そういう意味では、ワンパンになって良くなった効率はメノの消費MPが半分に減ったことくらいだ。
「よっ!ほっ!」
「……」
そして再びストーンリザードにちょっかいを出して回るメノの上空を、コットンに乗って移動しながらついていく。
そして、私は両腕を交互に上下運動させ続ける。
(ふぅー…………疲れてきた)
何も、私は好きで両腕を上下に動かしているわけではない。
『鼓舞』を発動させたところ、突然私の両手にチアガールが持つようなポンポンが現れ、リズム良く上下に振れという指示のシステムメッセージが届いてきたのだ。
どうやら『鼓舞』はそのポンポンを動かし続けている間に発動するスキルらしく、それを一旦止めてしまうとスキル終了とみなされてクールタイムが発生してしまう。
しかも、ポンポンを動かしている間はずっとバフをかけ続けられるというところの対価なのか、そのクールタイムがやたら長い。三分ある。
私の筋力ステータスが貧弱なのも相まって、『鼓舞』を発動させ続けるのは実はメノよりもしんどいのではないかと思えるくらいに重労働だった。特に、数秒の休息すら挟めずに振り続けなければならないのが本当にきつい。
あと、一体どういうメカニズムで判定しているのかは知らないが、やる気なさそうに適当に体力の消耗を抑えながらポンポンを振るとスキルが終了するのがうざい。
私は足もバタつかせながら、子供のように必死にポンポンを振り回し続けていた。
そんな私に気を使ってか、メノがポーションを飲みながら声をかけてくる。
「ゆきひめさんも疲れてきたら無理をしなくて大丈夫です!一発も二発もそんなに変わらないので!」
「はいっ!疲れたらっ、休みまっ……すぅっ!」
「疲れているようにしか見えないのですが……」
「まだっ……平気ですっ!」
こう見えて、私は変なところで負けず嫌いなのだ。
疲れたからといってやめてしまうのは、『鼓舞』というスキルにというか、システムにというか、なんだかそういうものに負けた気分になるので嫌だ。
私は、私の維持と誇りをかけてこのスキルの仕様には絶対に負けない。
それに、まだ全然疲れてないし。全然余裕だし。
「えっと……それなら、引き続きお願いします!」
「ひゃいっ!」
……。
「ほっ、ほっ」
「「「ぎゃぅ?」」」
メノが警戒にストーンリザードを槍で小突く。ちょっと面白そうだ。
「ふっ、ふっ……はぁ」
私の口から、何故かそんな吐息が漏れ始める。
『鼓舞』の発動が楽すぎて、腕の感覚もなくなってきた。
「ぷぎぎ……」
「ケケ?」
べにいもとどどが心配そうにこちらを見つめてくるが、私は笑顔を返す。
「だいじょっ……ぶ」
「ぷぎー」
「キケケッ」
一体何がそんなに心配だというのか。
私はこんなにも……っとと!危ない危ない、ポンポンを落としかけた。全く、べにいもたちとの会話に意識を割き過ぎてしまったようだ。
「とーっ!」
「「「「「ぎぅーっ!?」」」」」
慣れた手つきでメノがストーンリザードを屠り、ドロップアイテムを獲得したというシステムメッセージがずらずらと流れてくる。
そしてそれから少しタイミングをずらして、別のシステムメッセージが流れてきた。
≪鼓舞のスキルレベルが4になりました≫
はい、私の粘り勝ちぃ!
「メノさんっ!スキルレベル……がっ、上がっ……!」
「わかりました!ポイントを振っちゃってください!」
「はいっ!」
ふう、これは疲れてやめたわけじゃない。強化ポイントを振るために仕方なくやめただけだ。
……あれっ、左手が上手く動かない。なんでだろう。
そんな風に私は楽をさせてもらいながら、二時間ほどメノと二人でストーンリザードを狩ったのだった。
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