第53話 すとーんりざーど
「着きました!ここです!」
メノと移動を開始してから四十五分ほどで、ようやく目的の狩場へとたどり着いていた。
思ったよりも時間がかかってしまったのは、地形的な問題で陸上を走行するクロの足では移動が困難だった道が長く続いたことと、その際に敵との戦闘がいくらか発生したりしたからだ。コットンに乗って一人で行くなら、五分ちょっとあれば間に合うだろう。
ちなみに、基本的には他人の騎乗ペットには乗ることができないらしいが、それが可能な騎乗ペットもいるとかいないとか。
「それにしても、ゆきひめさんの核のドロップ率おかしくないですか?」
「そうみたいですね」
道中では核のドロップ率の話題も上がっており、やはりパーティーを組んでいても私とメノとの間には大きな差があった。
あれほど狩ったポイズンスライムも、エリーナとメノで合わせて一個しか核は落ちなかったらしい。それに対して、私は一人で七個だ。
この道中でもゴブリン・ゴブリンアーチャー・吸血蝙蝠・大鷲という四種類のモンスターと何度か交戦したが、私はゴブリン以外の核を一つずつドロップしたが、メノは一つもドロップしなかったようだ。尤も、これは私の中でもかなり運が良い方だが。
ちなみに彼らの理解度ボーナスは、それぞれ筋力・視力・聴力・走力となっており、どうやら五感に対して与えられる情報量なんかも図鑑埋めの報酬で増えていくようだ。
「図鑑埋めが楽そうでうらやましいです!」
「でも、結局討伐数がありますからね」
「それでもですよ!普通は討伐数が先に埋まって、核を埋めるのは効率が悪いからって諦めるんですから!」
「うーん……まあ、確かにそうですね」
ポイズンスライムを例にとると、今のところ討伐数が11%で核が35%だ。
それに対して、エリーナとメノの合計で考えると、討伐数が22%で核が5%ということになる。
効率でいうと、比率が三倍で済んでいる私の方が四倍も偏りがある普通の人よりはマシといった具合だろうか。いや、もちろん絶対的な図鑑を埋めるのにかかる時間という意味では圧倒的に私の方が良いのはわかっているが、あくまでそこの効率のバランスの話だ。
「まあ、それは置いときまして。今回の狩りの対象は、あれです!」
メノが仕切りなおすように咳払いをしてその対象を指し示す。
「あれは……大きな蜥蜴?」
「はい!ストーンリザードというモンスターで、攻撃性は低いんですがやたら硬い上に経験値が低いと言われているのでレベリングという意味ではあまりよろしくない感じのモンスターですね!」
「でも、ドロップアイテムの換金率が良いと」
「はい!なんとびっくり、彼らは三種類のドロップアイテムを普通の確率で落とすので、シンプルにドロップアイテムが倍手に入るんです!」
「ああ、そういう」
高価なドロップアイテムを落とすとかいうわけではなく、シンプルに量が多いという話だった。
「ちなみに落とすのは、ストーンリザードの牙、鱗、尻尾です!」
「ふんふん」
牙と鱗は調合に使う感じじゃないし、鍛冶の方かな。
尻尾はぎりぎり使えるかも?どちらかというと料理とかに使いそうだけど。
そのうち料理スキルも取得しようかな現実の方でも料理はちょっと好きだし。そこまで凝ったものとかは作ったことないけど。
「あと、彼らは弱点が光属性の魔法なので、私にピッタリの相手なんです!あ、そういえばMAX強化の話はゆきひめさんにしましたっけ?」
「いえ、聞いてないですね」
MAX強化というのは、スキルの強化ポイントのうちどれか一つを最大まで強化した時に発生するボーナスのことだ。
話の流れ的に、どうやらメノはスキルのMAX強化を終えているらしい。まあ、ずっと狩りをしているらしいし当然といえば当然なのかな。
「私の固有スキルの『ホーリービーム』なんですけど、威力を最大まで強化したら貫通という追加効果が発生したんです!」
「おー、すごそうです」
ポイズンマジシャンを狩っていた時の『ホーリービーム』は、一度敵に当たるとその敵にビームが吸い込まれて消えてしまっていた。
貫通ということは、それが貫通して更に後ろの敵にまで攻撃できるということだろう。上手いこと敵を誘導すれば、効率よく狩りが進められそうだ。
「ストーンリザードは移動速度が遅めなので、上手いこと誘導するように立ち回って『ホーリービーム』で何体かまとめて削りながら、少し耐えたのを槍で削って倒していくって感じになります!」
「私は『鼓舞』でバフをかけていればいいですか?」
「はい!私も前回ここを通った時からINTを18まで上げてきたので、バフがあればワンパンすることも可能かもしれません!」
そこら辺のダメージ感は私にはよくわからないが、もし火力が足りなくても効率が落ちるだけで危険というわけではないのであまり気にすることでもないだろう。
スキルは騎乗ペットに乗った状態でも発動できるので、道中で遭遇したモンスターもコットンの上から『アイススピア』を撃つというスタイルでメノを援護していた。だから、基本的にコットンの上からの援護ならコットンが攻撃を躱してくれるので危険はあまりない。
ちなみに、ステッキを左利き用の(左)に変え忘れたのでまだ少し使いづらいままだ。
問題があるとすれば、これまで一度も『鼓舞』を使用したことがないので、コットンに乗って安全なところに退避しながらだと『鼓舞』の効果範囲が届くのかという話だ。
もし無理そうなら、その時はコットンに上手いこと頑張ってもらうしかないだろう。今のところどどやコットン自体が攻撃してくれる気配はないが、騎乗ペットとしての移動なら問題なく指示通りに動いてくれるはずだ。
「それでは作戦会議もこのくらいにして、狩りに入りましょう!」
「はい」
メノが、槍を左手、ステッキを右手に構える。
『鼓舞』は魔法ではなくただのスキルなので、私は武器を構える必要がない。なので、コットンの上に乗ったままスキルの発動の準備をする。
今までの遭遇したモンスターを適当に処理するのとは違って、ポイズンマジシャン以来の集中的な狩りだ。
それも、前回とは違って火力役のエリーナがいないので、盾役と何役かもよくわからない私の二人での狩りということになる。
メノが弱点を突ける相性の良い相手とはいえ、本当に上手くいくのだろうか。そういう不安から漂う緊張感が、辺りを支配していた。
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