第52話 らっきーぷりんせす、とは
「そういえば、どどさんの使う魔法は効かなかったんですよね?そっちはどんな感じの魔法なんですか?」
「えーっと、どどの魔法は五つですね。それぞれ、地系範囲攻撃魔法・闇系範囲攻撃魔法・地系フィールド攻撃・闇系単体攻撃魔法・闇系範囲デバフ魔法って書いてます」
「地属性と闇属性、それで範囲攻撃が多いですね。フィールド攻撃というのは何でしょうか?」
「フィールド攻撃なら私も似たようなスキルを……あ、私のはフィールド効果って書いてました」
そのスキルは、『お化け屋敷』のことだ。
『お化け屋敷』の強化画面に行くと、このように表示される。
『お化け屋敷』1 フィールド効果 強化内容:確率0 持続時間0 連射性0 消費0 強化ポイント0
相変わらずよくわからないスキルだが、どどの『地割れ』が地系フィールド効果という風に表記されているということは、『おばけ屋敷』は『地割れ』が地面に対して影響を及ぼすスキルであるように、何かしらプレイヤーやモンスター自体を対象にするわけではなくフィールドに何かしらの効果をもたらすスキルということだろう。
さらに、〇系という属性の表記がないということは、特定の攻撃を行うようなスキルでもないと予想できる。
……改めてどどのスキルと比較することで、前よりももっと良くわからないスキルという認識になってしまった。
「フィールド効果……?うーん……」
「こっちも効いたことがない感じですか?」
「そうですね。数が少ないスキルなのかもしれません。それに、今はほとんどの人がシンプルな火力スキルを強化していっている段階なのでそういうスキルにはまだ目を向けられてないというのもあると思います」
確かに、『地割れ』のような地形を破壊するようなスキルが序盤から簡単に解放されるとは思えない。
私が取った『お化け屋敷』も、解放の条件が解放しようと思ってできる感じのものではなかったし、その前段階の『怪異』も最前線の人たちが序盤に取るようなスキルではないだろう。
ちなみに、『怪異』は単体異常状態付与スキルだ。魔法ではないということは、あの二十五個の点を結ぶやつをやらなくても発動できるのだろう。
「その、フィールド攻撃というやつはどういうスキルなんですか?」
「『地割れ』っていう、地面を割るスキルです」
「え!?そんなスキルがあるんですか!?」
メノが驚いたように声を上げる。
確かに強力なスキルだと思うが、そこまで驚くほどなのだろうか。
「うーん……そんなスキルがあるとなると、将来的には大怪獣バトルみたいな感じになってしまうんでしょうか」
「でも、そんなポンポン撃てたりはしないんじゃないですか?」
「確かにそうですね。私もこの羽で飛べればいいんですけど……ていうか、ゆきひめさんはどうやって『地割れ』を躱したんですか?」
「えと……なんか、地面は割れたけど落ちなかったというか、足場がなくなったのに宙に浮いてたというか」
「?」
私の説明にメノが首を傾げる。
私としてもその気持ちはとてもよくわかるのだが、残念ながらこれ以上の説明はできそうにない。だって、それがそのまま真実なのだから。
「……え、その、宙に浮いてたというのは?」
「そのままの意味です。なんか、宙に浮いてたんです」
「はあ……」
「それで、数秒後に割れた地面が勢い良く元に戻って、何事もなかった感じになりました」
「キケケ……」
当時のことを思い出したのか、どどが力の抜けた声を出した。
あの時は、どども信じられないものを見るように私のことを見つめていたっけ。
私ももし攻撃した側だったら、絶対に周りをきょろきょろ見た後に両手を広げて掌を上に向けている。
「えーっと……よくわからないんですけど、それが効かなかったってことはフィールド攻撃が無効ということなんじゃないですか?」
「そうなんでしょうか?」
「いや、私もよくわかりませんが……とりあえず、他にもフィールド攻撃をくらってみれば……わかるんじゃ……あ」
言いかけたところで、何かに気づいたような声を上げるメノ。
そして、ぶつぶつとまとまりのない思考を口に出し始める。
「フィールド攻撃……いや、攻撃って感じじゃないですね。それこそ、フィールド効果……?」
「何かわかったんですか?」
「いえ、まだまだ予想の段階なんですけど、フィールドといえば、毒弾では毒状態になったのに毒沼エリアの空気とか毒沼の泥では毒状態にならなかったのは、これらがフィールドに関するものだったからなのかなって」
「あー……たしかにそうですね」
毒沼エリアの空気も毒沼の泥も、たしかにフィールド上の存在だ。
しかし、『地割れ』とは違って攻撃というわけではないだろう。
そう考えると、私はフィールドに関する効果や攻撃を無効にできるという感じなのだろうか。
……なぜ?
「でも、私の種族ってラッキープリンセスですよ?フィールドの影響を受けないとか言われてもピンと来ないんですけど」
「……たしかに納得感はないですね」
「運が良いからって……うーん……ラッキープリンセス。幸運のお姫様。フィールドの影響……」
何か文字遊びのようなものかとも思ったが、特に思い当たるものはない。
色々とその意味を考えていた私に、当然の疑問に帰結したメノがそのことを口に出してきた。
「そもそも、種族がラッキープリンセスってよくわからないですよね」
「はい、私も最初そう思いました。というか、ラッキープリンセスとかいう概念自体が意味わからないですよね。こういうのってよくあるんですか?」
「いえ、あまり聞いたとこはないですね。ユニーク種族だから、何か隠された設定でもあるのでしょうか」
「隠された設定、ですか……」
このゲームは相当力を入れて作られたものらしいので、そういうことも考えられるのかな。
隠された設定というと、そういうラッキープリンセスと呼ばれた人の伝承がこの世界の中にあるとかいう感じだろうか。
だとすると、そういう話を聞いて集めればこの種族の仕様のことも理解できるのかもしれない。
(……伝承に基づいた仕様……)
どこかで、胸の中がちくりと痛む。
何か、何かそれを紐解く鍵となるものを、私は持っている気がした。
いや、正確には、これまでのこのゲーム内での行動の話だ。どこかで感じた妙な違和感は、いったいどこでどんな風に感じたものだったか。
(うーん、思い出せないや)
まあ、もし本当にこれまでの話が正しかったとしたら、それはラッキープリンセスの伝承を集めていけばわかることだろう。
もしそうじゃなかったとしたら、今感じた天啓のようなものはただの私の恥ずかしい勘違いということになる。
そうじゃないといいな。
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