第51話 めののこうさつ
「おお、これが噂の!」
「ケケケケ……」
「ひぇっ!?」
どどとの対面を果たしたメノが、脳内に響いてくるようなどどの鳴き声に腰を抜かす。
「キキッ?」
「ひぅ!」
そんなメノに対してどどが首を傾げたのだが、メノはその声にすら怖がっているようだった。
「……苦手なんですか?こういうの」
「うぅ……慣れれば平気なんですけど、ちょっと苦手で……この藁人形の感じはポイズンマジシャンで見慣れていたから平気だと思ったんですけど、まさか声までホラーな感じだったとは……」
「ケケ……」
どどが残念そうな声を出す。
私は可愛いと思うのだが、苦手というのなら仕方ない。
「ですが、そのうち慣れると思うので大丈夫です!驚いてしまってすみません」
「キケッ!」
メノがどどに頭を下げる。
そんなメノに対して、どどは気にするなとばかりに両手をわさわさと動かした。
「しかし、改めてみると……藁人形ですね」
「うん。まあね」
どどは杖とお札を出していなければ藁人形そのものなので、それ以外の感想が出てこないのは当然だろう。
手に持って移動すれば、ぱっと見ではただの藁人形を持っているとしか思えない。色は変だけど。
「それじゃあサクッと狩場まで移動してしまいましょうか!」
そう言いながら、メノが漆黒の毛皮に身を包んだ猪を召喚する。たしか、ブラックボアだったか。
「クロさん、屈んでください!」
「ぶもっ!」
「ん……くっ!もうちょっと屈めませんか?」
「ぶもも……」
「無理そうですか……えいっ!ほっ!」
何度もブラックボア───クロの上に乗ろうと毛を掴んでよじ登ろうとしては落ちるメノ。
クロは体長が四メートルほどもある巨猪で、メノは自分の身長よりも高いクロの上に乗るのに大変苦労している様子だった。なんだか可愛らしい光景だ。
私はメノが苦戦している間に、コットンを呼び出してその上に乗った。
「はぁ、はぁ……そちらは乗るのが簡単そうですね」
なんとか上までよじ登ったメノが、少し羨ましそうにこちらを見る。
「それにしても、本当に一反木綿……というか、布ですね」
「はい。なんだか、こういうのに縁があるっぽいです」
ただの藁人形にしか見えないどどと、ただの布にしか見えないコットン。
彼らをアイテムに偽装して奇襲するとかそういう作戦が出来そうだ。何を奇襲するのかと聞かれれば他のプレイヤーくらいしか思いつかないし、そんなことをするつもりは毛頭もないが。
「それじゃあ行きましょう!」
「はい」
クロの移動速度に合わせながら、その隣をぴったりと並走する。
もちろんクロも騎乗ペットなので十分に早いのだが、コットンの全力を知っている私にとってはちょっと物足りない速度だった。
「そういえば、どどさんのことはどうやってテイムしたんですか?」
移動を開始して間も無く、メノが話題をどどの話に戻す。
それほど、どどのことが気になっているのだろう。
「うーん、なんというか、どどの攻撃がことごとく私に効かなかったんですよ。ほら、ポイズンマジシャンの魔法も私に効かなかったじゃないですか。あんな感じで」
「そうでしたね。結局あれは何だったんでしょう?」
「それは私にもまだわかってなくて……最初は魔法無効なのかなって思ったんですけど、それじゃああまりにも強すぎるし、実際にポイズンスライムの毒弾はダメージを受けたし、毒状態にもなったんです」
「え、毒状態になったんですか!?異常状態無効ではなかったんですね……」
そう言いながら、メノが考え込むように黙ってしまう。
私も改めてそのわけを考えてみたが、どこからどう考えればいいのかもわからなく、すぐさま考えを放り出してしまった。
そんな私を他所にしばらく考え込んだメノが、ようやく口を開いた。
「……やはり今ある情報だけでは、予想はできても断言することができませんね」
「予想はできるんですか?私にはさっぱりで」
「そうですね……多分、色々な効果が複雑に絡み合った結果なんだと思います」
メノの瞳を見つめて、その話の続きを促す。
メノはどう伝えたものかと自分の中で言葉を整理しているのか、少し悩むような素振りを見せてからゆっくりと口を開いた。
「……ポイズンマジシャンの地属性範囲攻撃魔法は効かなかった。でも、ポイズンスライムの毒弾は効いた。ということは、毒弾にはなくて地属性範囲攻撃魔法にはある要素が、ゆきひめさんがポイズンマジシャンの魔法を無効化した要因ということになります。……いや、そもそもあの攻撃が本当に地属性範囲攻撃魔法なのかはまだわかっていないんですけど」
「あれ、そうなんですか?」
「はい。このゲームでは詳しい被ダメージとかがわからないので、エフェクトで判断するしかないんです。まだあの魔法と同じスキルが見つかっていないので、断言できません。流石に地属性というのはあっていると思いますが、もしかしたら何か別の要素も含んでいて、そこがゆひきめさんが魔法を無効化した要因という可能性もあるって感じです」
「なるほど……」
複雑な話だ。
しかし、そればかりは攻略勢が同じスキルを見つけてくれるのを待つしかないだろう。
「しかし今そんな話をしていても仕方ないので、仮にあれが地属性範囲攻撃魔法だと仮定しましょう。そしたら、それにあって毒弾にない要素は、地属性というところと、範囲攻撃魔法だというところです」
「……つまり、私は地属性か範囲攻撃魔法を無効化するっていう仕様である可能性が高いってことですか」
「はい。もしくは、基本的には魔法を無効にするけど、毒弾にある要素に弱くてその場合のみ無効化効果を貫通されるというパターンも考えられますね」
「そんなパターンもあるんですね」
「とにかく、そんな感じで予想を立てた上でそこを詰めていくように実験をしてみないと確信的なことは言えません。もし確かめる気があるなら、私も実験に付き合いますよ!」
「いいんですか?」
「はい!ゆきひめさんにはお世話になるつもりなので、私もゆきひめさんの仕様はわかっておきたいですし、一緒に大会に出るというのも諦めたわけではないので!」
「……なるほど」
まだ諦めていなかったらしい。
別に断固拒否というほどでもないが、そこまで本気でこのゲームをプレイするつもりもない。本当にその大会というのが始まって、機会があってその時改めて誘われたら断りはしないだろうな、というくらいの考えだ。
「もちろん無理強いをするつもりはありませんが、なんだかゆきひめさんなら週末前の上位5%のレーティング参加権も簡単に手に入れてしまいそうなので!もし手に入れたら一緒に出ましょう!」
「……まあ、いいですけど。役に立たなくても怒らないでくださいよ?」
「もちろんです!むしろ最初は全員手探りだと思うので、ゆきひめさんという可能性は私が掴んでおきたいんです!」
「……」
可能性なんて言われたら少し照れ臭くなってしまう。
メノには私も色々お世話になってるし、この話はそのお礼ってことで考えておこうかな。
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