第50話 めのとごうりゅう
「ゆきひめさん、お待たせしました!」
「いえ、大丈夫です」
一日ちょっとぶりに会うメノは、想像以上に声が大きかった。
「あれ、それはなんですか?」
デラキナからもらったアイテム素材の解説本を読みながら待っていたので、当然のようにそれを疑問に思ったメノが疑問を投げかけてくる。
特に隠すことでもないので、私はこの街での流れをそのままメノに説明した。
「それが調合師資格のやつですか!話だけは知ってましたが、大変そうですね……」
「はい。どうやらシステム的なアシストもないようで、ちゃんと覚えなきゃいけないっぽいです。まあ、調合する時にいちいちこの本を見るのでもいいんですけど」
そう言いながら、本を鞄にしまう。
デラキナからもらったこの本もちゃんとアイテム化されているようで、鞄に入れると実体が消えて所持アイテムの一覧に姿を消した。
「それで、今日はどこに行くんですか?」
「ここから東の方に行く予定です!少し敵は強いのですが、ドロップアイテムの換金率がいいので!」
「わかりました」
私と一緒に狩りをするなら、やはりドロップアイテムが目的となるだろう。
一人の時は、あえてドロップアイテムがあまり美味しくないところで狩りをする方が良いかもしれない。図鑑埋めもあるし、どうせレアドロップのコアは必要になるしね。
そういえば、魔法攻撃無効とか異常状態無効という私が思い浮かべていた種族の仕様は違っていた。なので、このドロップ率ももしかしたらLUCの影響ではないのではないかというのが今の私の見解だ。
何故なら、通常のドロップ率は私がいることでパーティーメンバーにも影響を出している(という検証結果になった)のに、レアドロップのコアの方はそうではないからだ。
しかし、私は通常ドロップもレアドロップも他の人に比べて明らかに多い。
これらを総合すると、LUCの影響は自分だけで、何かしらのラッキープリンセスの仕様でパーティー全体の通常ドロップ率が上がるみたいな感じだという方が納得ができる。
結局のところは推測の域を出ないので重要なのは事実としてどうなるのかという話だとは思うが、それでも内情は気になってしまい、ついつい考えてしまうというものだ。
「それで、例のボスモンスターというのはどうしたんですか?」
テイムモンスターを持たないメノは街中では待機状態になるという仕様を知らなかったようで、そんなことを聞いてくる。
メノが知らないということは、モンスターのテイムに成功したという話は少ないのだろうか。
「街中ではテイムモンスターは出せないみたいです。そういう話は聞かないんですか?」
「そうですね……モンスターをテイムしたという話はまだ数が少なくて、テイムしたという人もいるにはいるのですが、情報があやふやなものも多くて、べにいもさんのことを考えるとデマっぽい話も多いんですよね」
「デマですか」
「はい。こういう注目のゲームのリリース開始直後は情報を出すだけでもお金になったりするので、中にはそれっぽく装った適当な情報も多いんですよ。全く、酷い人たちです!」
なるほど。前にエリーナが仲間内だけで情報を共有したがる人が多いという話をしていたのは、もちろんその情報の価値を考えてのこともあるのだろうが、ネットの情報の信ぴょう性という意味でも知っている人が自ら確かめた情報ということが受け手側にとって大きな信頼となるからこそなのだろう。
そういう意味では、私もエリーナやメノからもらう情報は特に深く考えずに鵜呑みにしているところがある。対してネットの情報だと、それが正しかったとしても本当に正しいのだろうかという懸念が少なからず発生してしまうので、仲間が確かめた情報なら鵜呑みにしても問題ないという前提がある意味では一番大きな価値なのかもしれない。
「まあそれは置いておいて、そういうことなら早速狩場を目指して街を出ましょう!私はさっきアイテムを補充してきましたが、ゆきひめさんも大丈夫ですか?」
「はい」
「では行きましょう!」
街の出口を目指して歩き始める。
メノはそんな時間も惜しいのか、矢継ぎ早にどどに関する質問をしてきた。
「ところで、結局そのボスモンスターはなんだったんですか?あ、正確にはイレギュラーボスでしたっけ?」
「みたいですね。ボスはカースドドールっていうモンスターで、ポイズンマジシャンより少し小さくてカラーリングの違うモンスターでした」
「カースドドールですか……サイズが小さくなるということは、攻撃が当てづらくなりますね。となると魔法の方が……あれ、でも、イレギュラーボスということはもう二度と出現しないということなんでしょうか?」
「さあ……ワープ床は私が出た後も消えたりはしなかったような……あまり覚えてないですけど」
「普段は別の通常のボスがいてそれがイレギュラーボスになっていたのか、何もないところにイレギュラーボスが出現したのか……気になりますね!」
「そうですね。今度見に行ってみます」
「ありがとうございます!」
どうせあの毒沼エリアにはべにいものごはんを取りに行かなければならないのだ。そのついでに見てくればいいだろう。
そういえば、結局べにいものごはんの件は全く進展がない……というか、むしろどどとコットンが増えたので余計に問題が増えている。
べにいもに関しては、あの泥を食べるということがわかっているだけでまだマシなくらいだ。どどは毒蜥蜴の卵を食べた(?)があれを定期的に用意するのは無理だし、何を食べるのかも想像がつかない。コットンに至っては、どうやって食べ物を食べるのかすら想像つかない。問題が山積みだ。
なんて思っている間に、メノが次の質問を投げかけてくる。
「それで、そのカースドドールをテイムしたんですよね?」
「はい」
「そのカースドドールは……いや、まずはお名前を教えてほしいです!」
「どどです」
「なるほど、真ん中の!」
私のネーミングに納得を示すメノ。
割と意味がわからない寄りのネーミングだと思っていたが、メノには一瞬で伝わったようだ。
「たしか、そのどどさんをテイムして一気にレベルが上がったんですよね」
「はい。でも、称号とかも色々と手に入れたのでその影響でもいくつか上がりました」
どどのテイムで一気に上がったのは確かだが、レベル20以降の必要経験値が跳ね上がるという話ならあの称号の経験値も相当のものだったのだろう。
そこまで詳しく説明するのは面倒なので、省かせていただいたが。
「てことはテイムも倒すのと同じで経験値がもらえるんですね!ちなみに、どどさんは何レベだったんですか?」
「50ですね」
「ごじゅっ!?」
メノが良いリアクションを取りながら飛び退く。
「え、ごじゅ……50!?」
「はい」
「チートじゃないですか!」
「INTが149ありました」
「チートじゃないですか!!!」
一段と大きな声に変わるメノ。
既にこの街まで辿り着いているようなプレイヤーは基本的にずっと狩りに出ているようで街中にはあまりプレイヤーがいないのだが、それでも0というわけではなく、メノの声で彼らの注目を集めてしまった。
そんな彼らの視線をかいくぐるように、移動する足を速める。
「すみません……」
「いえ、私も驚かせたくて言ったので」
むしろ、この状況を少し楽しんでいる私もいるくらいだ。
宝くじの件で、変な注目を浴びるのが実は癖になってしまっていたのかもしれない。そんなことはないと思いたいけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます