第44話 ぺっと?



 ≪騎乗ペットコインを一枚使って、騎乗ペットガチャを一回引きますか?≫


 はいっと。

 ちなみに騎乗ペットコインは一枚しかなく、何レベルごとにもらえるのかは不明だが、少なくともレベル15でもらえたはずの一枚から23レベまでもらえてないということは、そこまで大量にもらえるようなものでもないということになる。というかまあ、15につき一枚なのだろう。


 なんて思いながらガチャを引くと、私の目の前に一つの台座が現れた。

 その上には卵型の黒いシルエットが置かれており、種族ガチャを引かされた時と同じ感じの演出だった。


「キキー?」


 どうやらその台座はどどにも見えているようで、どどが興味深そうに卵のシルエットを覗き込む。


「演出があったら眩しいからこっちね」

「ケッ」


 どどをこちらに引き寄せ、右腕で抱いて一緒に卵の様子を見守ることにする。

 私が左手をその卵にかざすと、その卵はピクンと反応して、私から見て卵の後方から、大きな天使の翼ようなものが二枚バサッと広がった。


「お」

「キキ?」


 演出かな。

 なんて思っていると、その翼の勢いで抜けた羽が宙を舞って輝きを放つ。

 そしてその羽の内の一枚が卵に触れると、卵は虹色の光を放ち、その光が終息するとともに後方の翼と宙を舞っていた羽も消えてなくなった。


「虹だ」


 もちろん、卵の色のことである。

 虹色ということは、間違いなくレジェンドレアだろう。

 騎乗ペットにユニークがあるのかは知らないが、先ほどの演出がただのレジェンドレアの演出ではなく種族ガチャと同じ意味での演出なら、この卵はユニークレジェンドということになる。


「どちら様ですかー」


 どんな生き物が生まれてくるのかと期待に胸を膨らませながら、その卵に触れる。

 すると、卵の殻にピシピシとひびが入り、虹色の光を放った。私はその光を前に目を開けていられなくなり、強く目を瞑る。

 やがて光が収まった頃に目を空けると、目の前には───


「布?」


 いや、布……なんですけど。なんか布がうねうね動いてる。

 慌てて騎乗ペットの詳細を確認してみると、そこには一反木綿(最高級)と書いてあった。


「(最高級)ってなに?……というか、まず、ペット……ペットとかなの?」


 私の問いに答えるように、シュルシュルと音を鳴らしながら体(?)をうねらせる一反木綿。

 なんか顔とか手でもあればわかりやすいのだが、本当にただの布切れ……いや、布切れというには長すぎるんだけど。とにかく本当にただの布なんですけど。


「えっと……よろしく?」

「(親指を立てる形)」

「おー……」


 私の挨拶に対して、その体をしゅるしゅるとまとめてサムズアップの形に変わる一反木綿。

 なんとびっくり、一反木綿は今のところ一番まともに意思疎通を図れそうな相手だった。


「えっと、ステータスとかもあるんだっけ」


 一反木綿のステータスを確認しようと思って、その画面を開く。

 まずは、名付けをしなければ。


「うーん、一反木綿か……まあ、コットンだよね」


 安直だが、一番シンプルでいいだろう。


「今日から君はコットンだよ」

「(親指を立てる形)」


 無事に受け入れてもらえたようだ。

 さて、次はステータスを……


「え、こわっ」


 思わず声が漏れる。

 そこには当然のようにユニークレジェンドと書かれていたが、問題はそんなところではない。

 問題は、一反木綿のステータス値……というか、STR値だ。


 ≪STR152(1+151)≫

 ≪INT1(1+0)≫

 ≪VIT1(1+0)≫

 ≪DEX54(1+53)≫

 ≪AGI74(1+73)≫

 ≪LUC1(1+0)≫


 いや、こんなんに巻き付かれたら死ぬけど。まあそういう妖怪なんだけどさ。ていうか1負けたし……

 それで、当然のようにどど級に強いねこの一反木綿。(最高級)だから?でも、VIT1は騎乗ペットとして不安すぎる。

 というわけで、最初からあるなけなしのステータスポイント2をVITに割り振───


 ≪VITにステータスポイントを2割り振ると、VIT1(1+0)→VIT1(3-2)となります。よろしいですか?≫


「うぉい!」


 よろしくなーーーーい。

 ……いや、まあ布だしね。そりゃVITはマイナス補正あるよね。他のプラス補正も高すぎだし、相当マイナス補正あるよね。うん。


 しかし、VITはスタミナという意味もあるのだ。騎乗ペットとして本当に大丈夫なのだろうか。


「私を乗せて飛んでも大丈夫?」

「(親指を立てる形)」


 あ、大丈夫なのね。

 まあ、ステータスポイントの使い方は後でまた考えよう。それはそれとして、コットンの(最高級)の意味が先ほどからずっと気になっている。


 というわけで、コットンの体(?)を触らせてもらおう。


「おー?おおおお?おおおおお?」


 すっべすべなんだけど。めっちゃ。すっべすべ。


「キキッ!」


 どども私の真似をするように、コットンに体を当てる。


「キ……キケー……」


 コットンに包まれて気持ちよさそうな声を出すどど。

 うん、仲が良さそうで何よりだ。

 ところで、どどは顔がなくても声を出せるのにコットンは出せないその差とは?


(まあ、深く考えたらだめなのかな)


 そもそも、藁人形と一反木綿がじゃれてるとかいう摩訶不思議な世界が形成されている時点で深く考えたら負けな気がする。

 うん……今日はもう寝よう。

 私は、そっとログアウトボタンを押したのだった。

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