第40話 りあるらっくでかいけつします



「キキッ!キキキキキ!」


 カースドドールが、カタカタと体を震わせる。

 前方の杖がぐるぐると回転し、後方から一枚のお札が出てきてカースドドールの周りをぐるぐると回り出した。


「……」


 何が来るのかわからないが、沼にとられた足ではどうせ回避することもできない。

 私はグッと身体に力を込めて、衝撃に備えた。


「キケケケッ!」


 その笑い声と共にお札が光を放ったと思ったら、今度はその光を吸い寄せて画面がプツンと切れるときのような一瞬横に伸びる光を放つ。

 直後、耳が張り裂けるかと思うほどの轟音と共に大地が大きく揺れ動き、視界がホワイトアウトした。


(爆発攻撃!?)


 しかし、轟音が響くとか地面が揺れるとかそういった間接的な衝撃は受けても、爆発による直接的な衝撃は全くやってこなかった。


「ケケケッ……ケ?」


 全く傷を負わずその場に立つ私を見て、カースドドールが頭の部分を傾ける。

 私も何となく、それに合わせて首を傾げておいた。


「キキキ……」

「えーっと……」


 なんだか申し訳ないが、私には効かなかったようだ。

 カースドドールに顔はないのでわからないが、多分苦し紛れに笑っていると思う。


「キケケッ!」


 気を持ち直したのか、カースドドールが再び体をカタカタを震わせながら杖をぐるぐると回す。

 再び後方から一枚のお札が出てきて、カースドドールの周りをぐるぐると回り出す。


(次は何が出てくるのか……)


 多分、カースドドールの攻撃は五種類なのだろう。

 もしその五つ全部が私に効かないとしたら……効かないとしたら?


「ケケケケ!」


 お札が光を放ち、今度は紫色の魔法陣が描き出される。

 するとそこからうねうねと紫色の毒々しい龍が姿を現し、上空へと舞い上がっていった。


(蛇のタイプだ)


 呑気にそんなことを思いながら、龍の動向を見守る。

 龍は天上の辺りまで舞い上がると、下に向かって巨大な紫色の玉を投下した。

 その玉は私をめがけてではなく部屋の中心をめがけて落ちていき、地面に到達すると同時に水風船が割れるように毒の液をまき散らした。


「っ!」


 咄嗟に身体を縮めながら顔を隠す。

 しかしその程度で大量の毒の液から逃れられるわけもなく私の身体は毒の液でびちゃびちゃになってしまった。


「……」


 しかし、毒状態にはなっていないようだ。

 毒弾では毒になったのだが、この攻撃ではならないらしい。


「キ???」

「?」


 再び、カースドドールと共に首を傾げる。

 どうやら先ほどの龍は毒玉攻撃の演出だったようで、もうその姿を消していた。


「ケケケケ……」


 カースドドールが再び体をカタカタと震わせるが、こころなしか勢いが衰えている気がする。

 杖の回転にも勢いがない。後方から札が出てきたが、今度はカースドドールの周りを回ることなくいきなり光を放った。


(お札が回るの、ただの演出だったんだ……)


 なんだか可愛く思えてきた。

 とはいえ、今度は私に有効な攻撃が来るかもしれない。一応身構えてそのお札の動向を見守る。


「キキキッ」


 少し元気のないカースドドールの声と共に、私の足場が勢いよく左右に割れた。


「?」

「キー????」

「いやいや、さすがに……」


 カースドドールもそんなのあり????って言いたげだが、私もそう思う。

 私の足場が左右に割れたということは、今私には足場がないわけである。正確には、私がいた位置を通る様に部屋の左右の面の一点を結んだ線上の地面がガッポリと裂けている。

 つまり、普通に考えたら私は真っ逆さまに落ちていくべきなのだが、なんか知らないけど宙に浮いてる。うん。なんか知らないけど。


 と、しばらくすると勢いよく地面が元に戻ってくっついた。

 下に落ちていたとしたら、今頃はぺしゃんこだ。


「ケ……」

「なんかごめん……」


 私も自分の体質が良くわかってないんです。


「キケー」


 カースドドールはことごとく攻撃を無効化する私を前にやる気をなくしたのか、やーめたと言わんばかりに宙でその四肢をだらんと力なくぶら下げながら体を後ろに傾けて、前後に浮かんでいた杖とお札を消してしまった。


「いや、あの……」


 先ほども気づきかけたのだが、もしもカースドドールの攻撃が私に効かなかった場合、この勝負は終わらないのではないだろうか。

 当然私一人でボスを倒せるわけがなく、これは永遠に決着のつかない勝負ということになってしまう。いや、コツコツ攻撃し続ければ倒せるのかもしれないが、それはあまりにも果てしないだろう。


「カースドドールさーん」

「……」

「もしもーし」

「……キキキーケ?」


 何度か声をかけたところで、ようやくカースドドールが反応を示す。


「リタイアとかってできないんですか?」


 なんて、相手に言葉が通じているのかはさっぱりわからないのだが。というか、べにいもをベースに考えたらまず通じてないと思う。


「キキキ」

「えと……」

「……」


 だめだ、意思疎通が難しすぎる。

 どうしたものかとカースドドールを見つめていると、カースドドールは面倒くさそうに体勢を元に戻し、今度は二つのお札を出現させた。


「ケケ」


 そして、二つのお札が光を放つ。

 もはや杖の演出もなくなってしまったが、体はわずかにカタカタと震えている。


「ケ」


 一つ目のお札から、黒い靄の塊が出てくる。それは直径五センチくらいの球状で、一つだけではなく次々と出てきて私の方へと向かってくる。

 そしてもう一つのお札が光を放ったかと思うと、突然私の視界が真っ黒になった。

 いや、視界だけではない。私の足元でぐちゅぐちゅとなっていた音も聞こえなくなっている。視覚と聴覚を奪う魔法ということだろうか。これは、私にも効いているようだ。


 そしてしばらくして、視覚と聴覚を奪う魔法の効果が終わったのか、私の視界が元に戻った。

 その時にはすでに黒い靄の塊はなくなっており、何が行われたのかはわからないが状況的に私には効かなかったようだった。


「キキ……」

「……」


 どうすれば。

 このままでは、一生この部屋……に……


「え」


 ふと気づいた一つの変化。

 それは、カースドドールのカーソルが青色に変化していたことだった。


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