第39話 ぼすべや?



 深夜の一時前にインしてみると、二通のメッセージが届いていた。

 言わずもがな、エリーナからのメッセージとメノからのメッセージだ。


 ≪エリーナ:最後は妙な別れ方になってしまいましたが、本日はありがとうございました。迷惑でなければ、また一緒に遊びましょう。ゆきひめさんがオンラインの時にこちらから誘わせて頂いてもよろしいでしょうか?≫


 ものすごく丁寧なメッセージだ。むしろ違和感がある。

 時間を空けたことで、私の方が年上だという意識が強くなってしまったのだろうか。


 ≪ゆきひめ:こちらこそありがとうございました。何時でもお誘い待ってます≫


 と、これで返信しておこう。

 そしてメノだが、こちらはエリーナからのメッセージに返信している間に更にメッセージが送られてきていた。


 ≪meno:最後のあれはなんだったんですか?≫

 ≪meno:なんかレベル上がってませんか?≫

 ≪meno:あ、また一緒に狩りしましょう≫

 ≪meno:こんな時間にINですか?≫

 ≪meno:今どこにいますか?≫


 それはそちらも同じなのでは……


 ≪ゆきひめ:最後のは私もまだよくわかってません。あの後柵の中に変な床があるのを発見してそこでログアウトしました≫


 私が返信すると、すぐさまメッセージが返ってくる。


 ≪meno:まさか赤い光の床ですか?≫

 ≪ゆきひめ:いいえ、青白い光の床です≫

 ≪meno:聞いたことがありません≫


 メノは、喋る時はとても元気で語尾に!が付いているような喋り方なのだが、文章ではとても落ち着いている人みたいでなんだか違和感がある。


 ≪meno:赤い光だとボス部屋に繋がってるワープ床らしいです≫

 ≪ゆきひめ:では、ここもボスの部屋に繋がっているのでしょうか?≫

 ≪meno:だと思います≫

 ≪meno:でも、一人で入ったら確実にデスしちゃいます≫


 それはそうだ。

 どうしようかなと悩んでいると、メノから再びメッセージが送られてくる。


 ≪meno:ボス部屋に入ると称号がもらえるみたいなので、入るだけ入るのもありかもしれません≫

 ≪ゆきひめ:せっかくなので入ってみます≫

 ≪meno:デスペナ後に一緒に狩りしましょう≫

 ≪ゆきひめ:流石に寝ます≫

 ≪meno:明日はどうですか?≫

 ≪ゆきひめ:大丈夫です≫

 ≪meno:また明日誘います≫


 ……メノはいつ寝るのだろうか。


 ≪ゆきひめ:メノさんは寝ないんですか?≫

 ≪meno:二時間寝ました≫


 デスぺナが睡眠時間。ハードゲーマー過ぎる。


 ≪ゆきひめ:行ってきます≫

 ≪meno:ご武運を≫




 なんてやり取りを終えたところで、改めて青白い光を放つ床と対峙する。

 そこはログアウトする前から変わらず、青白い光を放つ床を中心に半径三メートル以内にはポイズンマジシャンが一切近寄ってこないゾーンとなっている。


「ふう……」


 メノはワープ床と言っていたが、ワープというのはどういう感覚なのだろうか。

 そんな緊張を感じながら、その床に足を踏み入れる。


「……うぇ」


 すると、徐々に視界が歪んでいき、やがて視界が全てぼやけて脳がぐらぐらと揺れるような感覚に陥った。

 しかしそんな感覚もすぐに収まり、気が付けば私は謎の部屋の中に立っていた。

 そして、システムウィンドウが流れてくる。


 ≪称号:挑戦者 を獲得しました≫

 ≪称号:緊急招集 を獲得しました≫

 ≪レベルが12になりました≫

 ≪称号:ファーストコンタクト を獲得しました≫

 ≪レベルが13になりました≫


 レベル上がりすぎ。ほとんど称号でレベル上げしてる人になってるけど。


 と、今はそんなことよりボスのことだ。

 しかし、ボスを探して部屋の中を見回してみたものの、部屋の中にはだれもおらず、静寂な空気が場を支配していた。


(……あの台座に近づけばいいのかな?)


 部屋の中央よりも少し奥にある小さな台座。この部屋の主がいるに相応しいと思えるのは明らかにそこだけで、その台座に近づけばボスも姿を現すのかもしれない。

 なんて思って足を動かした途端に、謎の笑い声が響いた。


「キキキッ」


 それは甲高い声で、イメージ的には邪悪な小人が悪戯に微笑んでいるといった感じだ。

 そしてその邪悪な小人というのは、ポイズンマジシャンの姿がぴったりとあてはまる。


(ワープ床があった場所的にも、ポイズンマジシャンの親玉みたいなのがボス?)


 そんな予想をしながら、台座を目指してゆっくりと足を進める。


「キキケケケケケ……」


 閉鎖空間に響く薄気味悪い笑い声。

 その音は六面の壁を跳ね返り、あちこちから笑い声が響いて恐怖心を駆り立ててきた。


「っ!?」


 突然、足元がぐらりと揺れる。

 私が台座だと思っていたものが、渦巻くように姿形を変える。そしてその渦にのまれるように、部屋もぐるぐると回り始める。

 しかし、部屋はぐるぐると回っているにもかかわらず、私の足場は若干のおぼつかなさはあるもののその場に在り続けた。

 視覚情報と実際の存在との差異に頭が混乱する。

 そんな中で、奇妙な笑い声だけが絶えず鳴り響いていた。


「キキキ……キケケケケッ!」


 ひときわ大きな笑い声の後に、視界が突然切り替わる。

 そして、私の足がずぶりと床の中に沈んだ。


「沼!?」


 気づけば、コンクリートのようなものだったはずの床が毒沼の泥に変わっていた。

 そして、私の目の前に一匹の藁人形が虚空から現れる。


「ケケケケ……」


 それは、青紫色の藁人形で、サイズはポイズンマジシャンよりも一回り小さい二十五センチほど。しかしポイズンマジシャンとは違って宙に浮いており、魔女帽の代わりに、五十センチほどの杖が前方・五枚のお札が後方に浮いていた。

 そして、その藁人形の頭上に浮かぶ文字。それは───


「カースドドール……」


 ポイズンでもマジシャンでもなくなっちゃった。


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